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第1章 復讐の魔女
第26話 10年前の再来
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警笛とランプの光が、夜のビオレールの街を照らす。
衛兵が駆けつける足音が近づいてくる。
私たちはすぐに身を隠し様子を伺う。
やがてその足音は遠くへ消えてゆく。
その様子を見て私は安堵のため息を漏らした。
どうやら上手く撒いたようだ。
転移先にあった目の前の建物は、営業のみで使われているらしい小さな酒場みたいだ。
ごめんなさい。
そう心の中で呟いて、解錠の魔法をかけて中へと入る。
光球を出して照らす室内は、寝るスペースはないが、一晩隠れ潜むには丁度いい広さだ。
「ホント何がどうなってるのよ! どうして私たちが追われてるのよ! 冗談じゃないわ! あいつらの認識阻害の魔法かしら? ディアナ……私たちに何したのよ!」
ベレニスが椅子に座り、苛立ちながら声を荒げる。
「静かに。……どうやら冒険者ギルドの面子も、俺たちの捜索に加わったようだ。八方塞がりだな。街全体が敵と思って行動した方が良さそうだ」
リョウは冷静に状況を分析していた。
「てか、ローゼ! 転移魔法をやるならもっと遠くへ飛ばしなさいよ。めっちゃ近くじゃない」
「3人分なんだから無茶苦茶言わないの。正直成功するかも不安だったんだから」
「ま、傭兵が衛兵を倒しちゃって取り返しがつかなくなるよりマシね。で? ローゼは何がどうなったか説明出来るんでしょ?」
「……うん。10年前に私の師匠のディルが王都に仕掛けた、殺害された人物が病死と塗り替えられた魔法。……それと全く同じ魔法をディアナが使ったんだと思う」
「とんでもないわね。認識阻害というより、存在そのものを書き換える魔法。それって……」
ベレニスが青褪めるのも無理はない。
人の運命は本来不可逆なもの。
それを無理矢理ねじ曲げたのだ。
術者だけでなく、周囲全てに影響させて。
つまり今、私たち3人はビオレールで領主を殺害して逃亡中に、ディアナとジーニアを襲った極悪人として世界は認識し、衛兵たちは私たちを捕縛しようとしているのだ。
例え無実を訴えても、誰も聞く耳を持つはずがない。
何故なら惨殺されて流血した死体があっても、例えその場に死体がなくても、王夫妻と愛娘は病死したと、誰もが疑わず歴史となった10年前の出来事。
そんな改竄魔法が、ディアナによって再び行われたのだ。
「じゃあローゼが、さらに再び元に書き換えるってのは?」
「いやいやベレニス。この魔法を実際に使用したのって歴史上、七英雄の魔女アニスのみ。それに現代の魔女ディル。あっ! 言っておくけどアニスは悪事で利用してないからね。それは魔王軍との戦いで致命的な打撃を被った……」
「ローゼ、話が逸れてるからその話は後よ」
おっと、いかんいかん。
私は咳払いを一つし、説明を続ける。
この世界が今どうなっているのかを。
ディアナの使った魔法は、認識阻害と書き換えの複合魔法であり、当人だけではなく関わった全ての人間と物に対して作用する。
要は、私たち3人は街の住民や衛兵から、領主殺害の犯人と完全に確定した状態で追われていることになっているのだ。
「理論も原理も伝わってないし、私自身は両親のこともあるけど……この手の人の運命をねじ曲げる魔法って、好きじゃないしやりたくもない。だから知識もないから無理なの」
「ふうん。ローゼって意外と潔癖なのね。まあいいわ。そのローゼの師匠の婆さんに頼むってのは?」
「それも無理。私が旅立つ時、ディルも何処かへ旅に出たから。……というか頭を下げて助けてくださいって言っても、高笑いしながら魔法を無限に連打してくるのが目に浮かぶし」
「ローゼ……真面目に言ってるのね。それはそれでその光景も見たいけど、居場所もわからないんじゃ無理ね。てか傭兵! あんたも何か案を出しなさいよ! さっきから黙ってないで!」
ベレニスがリョウに掴み掛かる。
だが彼は動じない。
それどころか……
「俺が単身城に斬り込む。その隙にローゼとベレニスはビオレールを脱出して、策を練ればいいさ」
「何バカ言ってるの⁉」
とんでもない事を口にしたので、私は慌てて彼を制止する。
何か策があるならまだしも、単独での無謀な特攻なんて絶対に認められない。
それを実行すればリョウは死ぬ。
ビオレール城には、庇護されたであろうディアナやジーニアだけではなく、ビオレール兵に王国騎士たちが待ち構えている。
いくら剣の腕が立つと言っても、今の領主殺しの汚名を着せられて手配されているリョウでは……
いや、私たち3人が束になってもどうにもならない。
「運悪ければオルタナ殿と対峙して終わりだろうな。だが、気にするな。元々俺は、単身でトールを殺す目的でこの街に来たんだ。この騒動で、奴はビオレール領主代行の地位を手に入れた。現実に得をしているのはあいつだけだ」
「馬鹿言わないで。ちょっと冷静に……」
私が言い切る前に……
「傭兵さあ。ローゼが王女と知って、自分とは住む世界が違うからって余所余所しくなってない? 呆れたわ。そもそもローゼの復讐には、あんただって無関係じゃなくなったのに」
ベレニスが苛立ちながらリョウを睨む。
そうだ……言わなくっちゃ……
「ベレニス! それにリョウ!」
2人の間に入り込み深々と頭を下げる。
このタイミングでいいのかわからないけど言わなくちゃ。
「ごめん2人とも! 私が王女だって隠してて!」
ディアナとジーニアの襲撃を知らせる為に送った会話付きの魔力波は、ベレニスとリョウに私の正体がバレるキッカケにもなった。
2人は知らなかったとはいえ、私はその事実を2人に隠してきたのだ。
「少しだけ……私の話をしてもいいかな?」
リョウとベレニスが頷き、私は10年前の出来事を話しだした。
衛兵が駆けつける足音が近づいてくる。
私たちはすぐに身を隠し様子を伺う。
やがてその足音は遠くへ消えてゆく。
その様子を見て私は安堵のため息を漏らした。
どうやら上手く撒いたようだ。
転移先にあった目の前の建物は、営業のみで使われているらしい小さな酒場みたいだ。
ごめんなさい。
そう心の中で呟いて、解錠の魔法をかけて中へと入る。
光球を出して照らす室内は、寝るスペースはないが、一晩隠れ潜むには丁度いい広さだ。
「ホント何がどうなってるのよ! どうして私たちが追われてるのよ! 冗談じゃないわ! あいつらの認識阻害の魔法かしら? ディアナ……私たちに何したのよ!」
ベレニスが椅子に座り、苛立ちながら声を荒げる。
「静かに。……どうやら冒険者ギルドの面子も、俺たちの捜索に加わったようだ。八方塞がりだな。街全体が敵と思って行動した方が良さそうだ」
リョウは冷静に状況を分析していた。
「てか、ローゼ! 転移魔法をやるならもっと遠くへ飛ばしなさいよ。めっちゃ近くじゃない」
「3人分なんだから無茶苦茶言わないの。正直成功するかも不安だったんだから」
「ま、傭兵が衛兵を倒しちゃって取り返しがつかなくなるよりマシね。で? ローゼは何がどうなったか説明出来るんでしょ?」
「……うん。10年前に私の師匠のディルが王都に仕掛けた、殺害された人物が病死と塗り替えられた魔法。……それと全く同じ魔法をディアナが使ったんだと思う」
「とんでもないわね。認識阻害というより、存在そのものを書き換える魔法。それって……」
ベレニスが青褪めるのも無理はない。
人の運命は本来不可逆なもの。
それを無理矢理ねじ曲げたのだ。
術者だけでなく、周囲全てに影響させて。
つまり今、私たち3人はビオレールで領主を殺害して逃亡中に、ディアナとジーニアを襲った極悪人として世界は認識し、衛兵たちは私たちを捕縛しようとしているのだ。
例え無実を訴えても、誰も聞く耳を持つはずがない。
何故なら惨殺されて流血した死体があっても、例えその場に死体がなくても、王夫妻と愛娘は病死したと、誰もが疑わず歴史となった10年前の出来事。
そんな改竄魔法が、ディアナによって再び行われたのだ。
「じゃあローゼが、さらに再び元に書き換えるってのは?」
「いやいやベレニス。この魔法を実際に使用したのって歴史上、七英雄の魔女アニスのみ。それに現代の魔女ディル。あっ! 言っておくけどアニスは悪事で利用してないからね。それは魔王軍との戦いで致命的な打撃を被った……」
「ローゼ、話が逸れてるからその話は後よ」
おっと、いかんいかん。
私は咳払いを一つし、説明を続ける。
この世界が今どうなっているのかを。
ディアナの使った魔法は、認識阻害と書き換えの複合魔法であり、当人だけではなく関わった全ての人間と物に対して作用する。
要は、私たち3人は街の住民や衛兵から、領主殺害の犯人と完全に確定した状態で追われていることになっているのだ。
「理論も原理も伝わってないし、私自身は両親のこともあるけど……この手の人の運命をねじ曲げる魔法って、好きじゃないしやりたくもない。だから知識もないから無理なの」
「ふうん。ローゼって意外と潔癖なのね。まあいいわ。そのローゼの師匠の婆さんに頼むってのは?」
「それも無理。私が旅立つ時、ディルも何処かへ旅に出たから。……というか頭を下げて助けてくださいって言っても、高笑いしながら魔法を無限に連打してくるのが目に浮かぶし」
「ローゼ……真面目に言ってるのね。それはそれでその光景も見たいけど、居場所もわからないんじゃ無理ね。てか傭兵! あんたも何か案を出しなさいよ! さっきから黙ってないで!」
ベレニスがリョウに掴み掛かる。
だが彼は動じない。
それどころか……
「俺が単身城に斬り込む。その隙にローゼとベレニスはビオレールを脱出して、策を練ればいいさ」
「何バカ言ってるの⁉」
とんでもない事を口にしたので、私は慌てて彼を制止する。
何か策があるならまだしも、単独での無謀な特攻なんて絶対に認められない。
それを実行すればリョウは死ぬ。
ビオレール城には、庇護されたであろうディアナやジーニアだけではなく、ビオレール兵に王国騎士たちが待ち構えている。
いくら剣の腕が立つと言っても、今の領主殺しの汚名を着せられて手配されているリョウでは……
いや、私たち3人が束になってもどうにもならない。
「運悪ければオルタナ殿と対峙して終わりだろうな。だが、気にするな。元々俺は、単身でトールを殺す目的でこの街に来たんだ。この騒動で、奴はビオレール領主代行の地位を手に入れた。現実に得をしているのはあいつだけだ」
「馬鹿言わないで。ちょっと冷静に……」
私が言い切る前に……
「傭兵さあ。ローゼが王女と知って、自分とは住む世界が違うからって余所余所しくなってない? 呆れたわ。そもそもローゼの復讐には、あんただって無関係じゃなくなったのに」
ベレニスが苛立ちながらリョウを睨む。
そうだ……言わなくっちゃ……
「ベレニス! それにリョウ!」
2人の間に入り込み深々と頭を下げる。
このタイミングでいいのかわからないけど言わなくちゃ。
「ごめん2人とも! 私が王女だって隠してて!」
ディアナとジーニアの襲撃を知らせる為に送った会話付きの魔力波は、ベレニスとリョウに私の正体がバレるキッカケにもなった。
2人は知らなかったとはいえ、私はその事実を2人に隠してきたのだ。
「少しだけ……私の話をしてもいいかな?」
リョウとベレニスが頷き、私は10年前の出来事を話しだした。
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