57 / 315
第2章 英雄の最期
第15話 謎の魔女
しおりを挟む
ベルガー王国ザガン伯爵領は、ドワーフの隠れ里の渓谷の西側にある。
その領主邸の伯爵のもとに、見知らぬ魔女が面会を求めてきたと報告が入った。
魔女は1人でやってきたという。
「もうすぐ日が暮れる、追い返せ。それでなくとも忙しいのに、魔女ごときの相手などしてられるか」
ザガン伯爵は面倒くさそうに手を振り、追い返すように指示を出した。
だが……
「それはご無体な、お話ぐらい聞いて頂けるほうがよろしいかと」
いつの間にか、ザガン伯爵の背後に立っていたのは黒いフードを目深に被った女。
その女の口元は笑みを浮かべている。
報告に来た者はどういった理由か不明だが、不自然に眠りについていた。
ザガン伯爵は恐怖のあまり、慌てて椅子から転がり落ちながら、手を前に伸ばして女を退かそうとした。
「聞けば、王都への近道である山道に盗賊が住み着いたとか。さぞお困りでしょう」
だが女は一向に下がる気配もなく、それどころかザガン伯爵の目の前にまでやってくる。
……フードの隙間から見える女の口元は、笑みの形のままであった。
その女から発せられる異様な威圧感に、ザガン伯爵は脂汗を流して震えることしかできないでいた。
「な、何者だ! だ、誰ぞ! 誰かおらぬか!」
ザガン伯爵は大声で叫ぶが、誰1人駆けつける気配もなく、ただ女と2人きり。
「人口も少なく、旅人や冒険者も寄らぬこの地では、宰相様への賄賂を工面するのもお辛いでしょう。……どうです? 私に全て任せてみては」
「な、なんぞ方策があるというのか! そ、そうか! 私の家来になるというのじゃな! 良かろう。そなたを召し抱えよう!」
女の言葉を受けて、ザガン伯爵は思いつきでそんな提案をした。
だが女は高笑いする。
「家来などと畏れ多いですわ。私はただ伯爵様の出世のお手伝いをさせて頂くだけです。……そうですね。まずは盗賊を始末しましょう。盗賊が貯めたお宝を我が物にするために」
ザガン伯爵は女の言葉の意味をつかめず、ただ呆然と見つめるしかできない状態だった。
女は、そんなザガン伯爵に構わずに話を続ける。
「近くにドワーフの隠れ里があるのをご存知でしょうか?」
「あ、あるらしいというのは昔から言われておる。だが、詮索するなとも代々言われておる」
「何故?」
「刺激して争いになっても、屈強な戦士の多いドワーフに勝てぬからよ。……それに連中が世に流通している武具、それがなくなればドワーフの機嫌を損ねたとして、この私が大陸中から責められるからな」
ザガン伯爵はドワーフの隠れ里への興味はなかった。
けれど、少しでも悪感情を持たれないようにと、最低限の情報だけは持っていたのだ。
女は予想通りの回答だったのか、満足して頷く。
「そのドワーフの里に、現在アランの傭兵が滞在しております。その人物に依頼をするのは如何でしょう?」
「ほう?」
ドワーフを盗賊にぶつけるのが策なのかと勘ぐっていたが、意外な情報とまともな思考にザガン伯爵は女のことを少し見直した。
アランの傭兵といえば一騎当千と誉れ高い。
現団長のグレン・アルバースは単身盗賊の拠点を襲い、数百の首級を上げた話もある。
「アランの傭兵か。ふむ悪くない。丁重に我が領にお迎えしよう。使者を出すので、そなたに道案内を頼んで良いか?」
「ええ、喜んで。では準備が出来たらお声がけください」
「そのほう、名はなんと申す? それとアランの傭兵の名は?」
「アランの傭兵の名はリョウ・アルバース。私の名はルシエンと申します。以後、お見知りおきしていただければ幸いです」
ザガン伯爵はルシエンという名を知らなかったが、リョウ・アルバースという名には聞き覚えがあった。
だが、どこで聞いたかは思い出せなかった。
そして女……ルシエンのフードから見える口元は、笑みの形のままであった。
その領主邸の伯爵のもとに、見知らぬ魔女が面会を求めてきたと報告が入った。
魔女は1人でやってきたという。
「もうすぐ日が暮れる、追い返せ。それでなくとも忙しいのに、魔女ごときの相手などしてられるか」
ザガン伯爵は面倒くさそうに手を振り、追い返すように指示を出した。
だが……
「それはご無体な、お話ぐらい聞いて頂けるほうがよろしいかと」
いつの間にか、ザガン伯爵の背後に立っていたのは黒いフードを目深に被った女。
その女の口元は笑みを浮かべている。
報告に来た者はどういった理由か不明だが、不自然に眠りについていた。
ザガン伯爵は恐怖のあまり、慌てて椅子から転がり落ちながら、手を前に伸ばして女を退かそうとした。
「聞けば、王都への近道である山道に盗賊が住み着いたとか。さぞお困りでしょう」
だが女は一向に下がる気配もなく、それどころかザガン伯爵の目の前にまでやってくる。
……フードの隙間から見える女の口元は、笑みの形のままであった。
その女から発せられる異様な威圧感に、ザガン伯爵は脂汗を流して震えることしかできないでいた。
「な、何者だ! だ、誰ぞ! 誰かおらぬか!」
ザガン伯爵は大声で叫ぶが、誰1人駆けつける気配もなく、ただ女と2人きり。
「人口も少なく、旅人や冒険者も寄らぬこの地では、宰相様への賄賂を工面するのもお辛いでしょう。……どうです? 私に全て任せてみては」
「な、なんぞ方策があるというのか! そ、そうか! 私の家来になるというのじゃな! 良かろう。そなたを召し抱えよう!」
女の言葉を受けて、ザガン伯爵は思いつきでそんな提案をした。
だが女は高笑いする。
「家来などと畏れ多いですわ。私はただ伯爵様の出世のお手伝いをさせて頂くだけです。……そうですね。まずは盗賊を始末しましょう。盗賊が貯めたお宝を我が物にするために」
ザガン伯爵は女の言葉の意味をつかめず、ただ呆然と見つめるしかできない状態だった。
女は、そんなザガン伯爵に構わずに話を続ける。
「近くにドワーフの隠れ里があるのをご存知でしょうか?」
「あ、あるらしいというのは昔から言われておる。だが、詮索するなとも代々言われておる」
「何故?」
「刺激して争いになっても、屈強な戦士の多いドワーフに勝てぬからよ。……それに連中が世に流通している武具、それがなくなればドワーフの機嫌を損ねたとして、この私が大陸中から責められるからな」
ザガン伯爵はドワーフの隠れ里への興味はなかった。
けれど、少しでも悪感情を持たれないようにと、最低限の情報だけは持っていたのだ。
女は予想通りの回答だったのか、満足して頷く。
「そのドワーフの里に、現在アランの傭兵が滞在しております。その人物に依頼をするのは如何でしょう?」
「ほう?」
ドワーフを盗賊にぶつけるのが策なのかと勘ぐっていたが、意外な情報とまともな思考にザガン伯爵は女のことを少し見直した。
アランの傭兵といえば一騎当千と誉れ高い。
現団長のグレン・アルバースは単身盗賊の拠点を襲い、数百の首級を上げた話もある。
「アランの傭兵か。ふむ悪くない。丁重に我が領にお迎えしよう。使者を出すので、そなたに道案内を頼んで良いか?」
「ええ、喜んで。では準備が出来たらお声がけください」
「そのほう、名はなんと申す? それとアランの傭兵の名は?」
「アランの傭兵の名はリョウ・アルバース。私の名はルシエンと申します。以後、お見知りおきしていただければ幸いです」
ザガン伯爵はルシエンという名を知らなかったが、リョウ・アルバースという名には聞き覚えがあった。
だが、どこで聞いたかは思い出せなかった。
そして女……ルシエンのフードから見える口元は、笑みの形のままであった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!
ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。
その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。
ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。
それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。
そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。
※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる