【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第3章 公爵令嬢の選択

第8話 公爵令嬢ヴィレッタ

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 熱心な女神フェロニアの信仰者であるレスティア公爵家の令嬢ヴィレッタが、この時刻に教会を訪れるのは、教会側も予測していた。

 帰省先から戻り、本日王城に呼ばれているという情報が教会側にも伝わっていたからだ。

 その内容も把握していた。
 王の側室になると公表するためと。

 そんな公爵令嬢を避けるかのように、司祭たちが外出したのもまた必然。
 祝辞を述べて、宰相の耳に王派との疑いを持たれたくはなかったからだ。
 見習いシスター扱いのジーニアを残したのは、せめてもの温情。

 レスティア公爵家は、先王時代は王に次ぐ貴族の筆頭だった。
 多くの貴族から尊敬を集め、また多くの貴族から憎しみも買っていた。
 先代フリッツ・レスティアの死去後、レスティア公爵家は政治の本流から外れ、没落している。

 それでも、王国内におけるレスティア公爵領は肥沃な土地が多く、レスティア公爵家の財力に恐れを抱く貴族も多い。
 多くの貴族は、先王時代に吸えなかった甘い汁を飲めるテスタ宰相の政権に満足し、支持している。
 現在権勢を振るう、シャイニング公爵家を支持する彼らにとって、お飾りの王とヴィレッタの婚約は鼻で笑う些事とはいえ、未来の脅威を想像しないわけがない。

 一方で騎士の多くは、王の復権と先王時代の自由な空気を恋しがり、テスタ宰相の政権を危険視している。
 そこへレスティア公爵家が、王の強力な外戚として政治に口出しできるようになれば、現在の均衡が崩れテスタ宰相の政権が崩壊する可能性に賭けているのだ。

 そのレスティア公爵家の筆頭である公爵令嬢が教会を訪れれば、どうなるか?
 それは火を見るより明らかだ。
 宰相派から無茶苦茶な言いがかりをつけられる恐れがあった。

 だから司祭たちは外出した。
 王宮の陰謀に巻き込まれないために。

 そして私は今、教会の礼拝堂で女神フェロニア像の前で祈りを捧げる少女を見ている。

 私たちに少女は気づかない。
 魔法で気配を消しているのもあるが、少女の祈りが真剣だったから。

 ヴィレッタ……10年ぶりだね。
 その青い髪も青いドレスも、姿を見て一目でわかったよ。
 ねえヴィレッタ、そんな熱心に女神に何をお願いしているの?

 悩み事があるなら聞きたい。
 聞いて昔のように一緒に悩みたい。
 幼馴染として貴女の前に姿を見せたい。

 でも、それはできない。
 今の私は王女ではなく、冒険者の魔女。
 ローゼマリー王女はすでに死んだ存在なのだから。

 それでも、必ずヴィレッタは私が助ける!

 祈りを捧げるヴィレッタと、横にいる従者の女性を見つめ、ジーニアは祭壇にて不気味にシスターを演じている。

 ジーニアがおかしなことをしでかさないか注意しながら、私はリョウたちとバネッサなる元教会のシスターの暗殺者の出現を待つ。

 バネッサ・トリトリン。
 8年前のファインダ王国との戦争で亡くなったトリトリン子爵家の唯一の生き残り。

 ジーニアから得た情報だとこうだ。

 彼女は戦後、借金もあり子爵の地位と家を売り払い、教会に引き取られ、シスターとして生活していた。

 それは表向きだったのか、そこを付け込まれたからなのかは定かではない。
 いつからか、シャイニング家の密偵のような役回りをするようになり、シャイニング公爵派から暗殺を任されるようになったという。

「バネッサってシスターは、あたしがここに来る前に失踪扱いになったけど、あたしは知ってたのさ。そいつが危ない奴だってのを。情報源? キヒ♥ そこまでは教えないよぉ。信じるかはあんたら次第。失踪したのは大きな暗殺をするた~め。誰がやったかわからなくするためさ。キヒ♥ さ~て、王女様は見事に公爵令嬢を助けられるか? はたまた、王女だとバレて命を奪われるのかなぁ? ……さぁどっちだろうねぇ♥」

 この暗殺依頼の黒幕がシャイニング公爵であると辿り着けるかは不明だ。

 失踪していたバネッサがいつ暗殺依頼を引き受けたかはわからないが、相当入念に準備がされたはず。

 どこから現れるかわからない暗殺者。
 私たちはヴィレッタを守りつつ、バネッサを捕らえなければならない。
 そうすれば、シャイニング家の陰謀を暴けるはず。

「熱心に祈られているようですが、何か悩み事でも?」

 ジーニアがヴィレッタに声をかけた。

「いえ、大陸が平和で生きとし生けるものが、等しく幸せでありますようにと祈っていました」

 ヴィレッタの返答にジーニアは微笑みを返した。

「公爵令嬢のヴィレッタ様に、そのように祈って頂けて女神様も喜んでいますわ」

「ありがたきお言葉です」

 嘘つけジーニア! あんたは大陸の平和なんて、これっぽっちも望んでいないくせに。

 私は心の中でそう叫んでしまう。

 ジーニアとヴィレッタが微笑む。
 そして別れ、ヴィレッタは教会から立ち去ろうとする。

「見ない顔のシスターでしたね。随分若く、手に剣ダコがあるようでした」

「エマ、人にはそれぞれ事情があります。詮索は失礼ですよ」

 ヴィレッタに咎められ、エマと呼ばれた従者はシュンと項垂れた。
 ジーニアの口元が歪む。

「キヒ♥」

 教会を出ようとするヴィレッタとエマへ白刃が襲う。
 静寂で荘厳な教会の中で、狂気の渦が舞い上がった。
 
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