【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第4章 竜は泉で静かに踊る

第3話 ベレニスを説得する方法

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 魔獣が攻めてきたという情報に、道行く人々は我先にと避難を始めている。
 空気が一気に緊張感に満ちた中を私たちは駆け抜けた。

 どうやら相手はコボルトの群れ。
 強さは個体差があるが、仲間を次々呼ぶ習性があるので厄介な存在だ。

 北の門へと咆哮と奇声を発しながら真っ直ぐに走ってくる魔獣の群れに、その門を守る衛兵たちが応戦していた。
 コボルトの数は10体程度。奴らの増援が来る前に倒さなくては。

 私たちは門番たちに助太刀し、一体一体を確実に仕留めていった。
 リョウの漆黒の剣とベレニスのレイピアがコボルトの皮膚を裂き、フィーリアの魔導具と私の炎魔法が轟音を響かせる。
 後方ではヴィレッタの唱える神聖魔法が周囲を淡い光で包み、衛兵たちの傷を癒す。

 そして、最後の1匹が地に伏したのを確認してから私は周囲を見渡した。
 怪我人はヴィレッタに癒されて死者はなし。良かった、良かった。

「よくあるんですか?」

 門番や駆けつけた衛兵にリョウが尋ねる。

「いや、初めてだな。こっちの門の先はとこしえの森でね。時折魔獣がうろちょろしているが、真っ直ぐこの街に攻撃してくるなんて今まではなかったよ」

 衛兵はリョウにそう返答した。

 とこしえの森。
 ファインダ、ベルガー、ダーランド、3つの王国間にまたがる広大な森で、人が一度足を踏み入れたら二度と戻って来ない迷いの森として有名だ。

 私は門番たちから離れて、とこしえの森を見つめる。
 ラフィーネの街から北東に10キロ程の場所にあるこの森は、紅葉の葉に覆われた巨木が立ち並び、その隙間から漏れる光が幻想的な雰囲気を醸し出している。
 しかし同時に、何か得体の知れない不穏な空気が漂っているようにも感じられた。

「あんたら凄いな。その鎧はアランの傭兵かい? また何かあったら助力を頼むよ」

 衛兵の隊長っぽい人は、リョウの肩をポンと叩き、そう言ってその場を去っていった。

「とこしえの森というと、ベレニスさんの故郷のエルフの里もあるっすよね。ちょっと気になるし、行ってみるっすかね」

「魔獣が襲ってきたのも気になりますが、ベレニスの故郷なのですか? 里帰りがてら向かうのはいかがでしょうか?」

 フィーリアの提案にヴィレッタが驚いて、ベレニスは嫌な顔をした。

「行きたければ行けば? 私はここで待っているわ」

「いやいや、ベレニスさんがいなければ、とこしえの森でエルフの里に辿り着けないどころか出られなくなるっすよ」

「うっさいわねえ。フィーリアだってドワーフなんだから、感覚で出ることはできるわよ」

 フィーリアの言葉に、ベレニスは耳を尖らせて拒絶する。

「宿に戻って寝るわ! 里なんか行ってられないわよ!」

 そう言って、ベレニスは宿の方へとスタスタ去ってしまった。

「ローゼ、どうしましょう? ベレニスがあんなに不機嫌になるなんて珍しいですね」

「まあ、普段の言動から、里が嫌で家出しているっぽいしなあ」

 ヴィレッタの言葉に、私はベレニスの背中を見ながらそう囁いた。

 エルフの里自体は行ってみたいが、ベレニスが嫌がっているなら無理に誘うのは気が引ける。
 旅路は楽しく過ごしたいし。
 でも、やっぱり森から蠢く得体のしれない気配は気になる。

「わたくしも、森の方角から禍々しい気配を感じます」

「魔女と聖女がそう思うなら、自分が感じているのも気のせいじゃなさそうっすねえ。4年前に近くを通った時と違って、ビクッとする感覚っす。ベレニスさんも感じていると思うっすよ。ですので説得はできると思うっす」

 おお、さすがフィーリア。ちっちゃいのに頼もしい発言だよ。

「あ、あんたら森に行く気か?」

 門兵の1人に声をかけられた。

「やめとけ。先日も屈強そうな冒険者の男が1人、単身で森へ入っていったが、未だ帰還していない。自殺行為だよ」

 職務もあるのだろうが、心配そうな目をして私たちに忠告してくれた。

「行くのを止めなかったんですか?」

「そりゃ止めたさ。ただ、こういうのは何だが、あんたら全員よりその男は強そうだったんだ。気配っていうか、オーラっていうか、まあそんな感じだな。だから引き留める間もなく森に行ってしまったんだよ」

 門兵の言葉にリョウが反応する。

「どんな男でしたか?」

「どんなって、大柄で厳つくて黒髪に無精髭で……ああ、そうそう黒い鎧でロングソードを背負っていたな」

 その特徴を耳にして、リョウの顔が険しくなった。

「気になるの?」

「ああ、ノイズかもしれん。是が非でも森に入って確かめたい」

 ノイズの名前を口にした瞬間、リョウの瞳に怒りの炎が灯った。
 無意識のうちに握りしめた拳が、過去の記憶と共に震えているように。

 ノイズ・グレゴリオ。
 パルケニア王国の貴族の出でデリムの叛乱の中心人物。

 リョウはノイズの率いた少年兵の1人だった。
 最期はノイズ自ら少年兵を皆殺しにして逃亡した。
 リョウは重傷だったがアラン傭兵団に保護され、今に至っている。

 どうしてそんな男が、とこしえの森に?
 まさかコボルト襲来もノイズの仕業なのだろうか?

 とにかく私たちもベレニスを説得するため、宿へと戻るのだった。

 宿のベッドの上で、あの手この手でベレニスに説得を試みる私たち。

 ベレニスは、枕を抱き締めてイヤイヤと首を振っている。

「ノイズっていう、邪教に協力し、大陸七剣神にして大陸最悪の人物って呼ばれている男が森に入ったかもしれないの。そして今日、森からこのラフィーネの街にコボルトが襲撃に来た。無関係だと思う? 私は関係あると考えてる」

「わたくしは森の瘴気が気になります。あの森に、ベレニスの仲間のエルフたちがいるなら尚更心配です」

 私とヴィレッタがベレニスの説得を続ける。

 でも……ベレニスはイビキをかいて爆睡しだした。

 おい。このタイミングで寝るなよ。

「しゃあないっすね。お2人も休んでくださいっす。明日の朝、自分が説得するっすから」

「フィーリアはどうやってベレニスを説得するの? その手段が気になるんだけど」

「ん~。ベレニスさんは自由気儘でお金が好きで、欲望を優先する困った性格っすけど、根は優しくて面倒見がいいっす。だから仲間のためと言えば大丈夫っすよ。……多分」

「そうですね。ベレニスはわかってくれると信じてます」

 フィーリアの言葉に、ヴィレッタは微笑んだのであった。

 う~ん。なんかもう一押し欲しいかなあ。
 でも良い案は浮かばないし、とりあえず寝よう。

 そして眠って目覚めた朝。
 朝日が窓から差し込む中、ヴィレッタは丁寧に髪をとかしていた。
 フィーリアは眠そうな目をこすりながら、荷物の最終確認をしている。
 宿の1階からは朝食の香ばしい匂いが漂ってきていた。

 案の定、私の足を枕にして寝ているベレニスを起こし、ふわ~っと寝ぼけ眼の彼女の両肩に手を置き、不意に言葉が浮かぶ。

「ベレニス! 私のためにエルフの里に案内して!」

 私はベレニスの目を見てお願いする。
 そう、純粋なお願いだ。
 嘘を見破れるベレニスには、曖昧で不誠実なお願いは逆効果だ。
 だから嘘偽りのない素直な気持ちを彼女にぶつけた。

「ローゼのために? フフン♪ しょうがないわねえ。高くつくわよ♪」

 と、ベレニスはニヤリと笑ったのであった。

「ありゃ、ローゼさん直球っすねえ。でも、それが一番効果的な気がするっす」

 フィーリアはあくびをしながら暢気な声で口にした。

「ベレニス。わたくしもフィーリアも、きっとリョウ様も同じ想いです。わたくしはベレニスの力になりたいですし、ベレニスの力をわたくしも借りたいと思っています」

 ヴィレッタはベレニスの手を握り、真摯にお願いする。

「もう。しょうがないなあ。私にドーンと任せてよね♪ ほら、フィーリアも何か言いなさいよ♪」

「……う~ん。そっすねえ……報酬として洗濯当番10回免除でどうっすか?」

 おい! フィーリア!
 いい雰囲気だったのに、空気が変わってベレニスが真顔になっちゃったぞ。

「それを早く言いなさいよ! もう水が冷たいでしょ? だから、嫌々やってたのよ」

 ベレニスは上機嫌になった。
 それほど魅力溢れるフィーリアからの提案だったのだろう。

 ……私、なんか損した気分。
 私とヴィレッタの真摯な言葉を返せ~。

「あとは傭兵に土下座でお願いされたら完璧ね♪ フフ~ン♪ 早く着替えて傭兵のとこに行きましょ♪」

 と、ベレニスは目をキラキラさせながら笑うのだった。

 ……おいおい。
 まあいいか。前向きになれたなら何でもいいや。

 着替えを済ませて一階へと降りる私たち。
 そして案の定、宿の裏庭で朝の鍛錬をしているリョウと合流。

 いきなり土下座を要求するベレニスに、私の説明を聞いて頭を下げる礼節は弁えているリョウ。
 その背中を足蹴にするベレニス。

 おい! なんでだー‼

 それから私たちは、ため息を吐くリョウも加えて宿で朝食を済ませてから、とこしえの森へと向かったのであった。
 
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