【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第6章 雪原は鮮血に染まる

第22話 雪原

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 ファインダ王国ガーデリア領直前の街グシュタードに到着したのは、王都リオーネを出て8日後であった。
 街道沿いに位置する街らしく、通過点として利用する旅人や行商人が多く、宿も複数軒建ち並んでいるようだ。

 活気のある、それでいてどこか落ち着いた雰囲気の街並みは、旅の疲れを癒すのにちょうど良さそうだ。
 石畳の道には馬車の轍が深く刻まれ、その両脇には色とりどりの花が植えられた木箱が並べられていた。

 通りにはパン屋から甘い香りが漂い、鍛冶屋の金槌の音と、行商人の賑やかな声が混ざり合う。
 建物の壁には鮮やかな色の絵が描かれており、それぞれの家が個性豊かに彩られている。

 リョウが御者台から降り、馬2頭を近くの厩舎に預ける。
 街の賑わいの中に溶け込むように、私たちは入っていった。

「大雪と聞いてたけど、積もってないわね」

 早速食事と、酒場に入って街の様子を見渡しつつ、ベレニスが呟いた。

「大雪なのはガーデリアより北側の地域で、元々雪原地帯として有名ですね」

 ヴィレッタが指で丁寧に地図上のルートをたどりながら説明する。
 地図には主要都市や街道、そして山脈や川といった地理的な情報が克明に記されている。
 その詳細な地図は、旅の安全と効率的な計画立案に欠かせないものだ。

 ただ、その横にある『ガーデリア完全攻略マニュアル』っていうスイーツ店特集本って何?

 ベレニスが早速手を伸ばし、レオノールとクリスもフィーリアも行きたい店にチェックを入れているけど、ズルいぞ、私も混ぜろ。

「ガーデリア領といえば、良質なワインが有名っすね。そこにも立ち寄ってみたいっす」

 フィーリアが、ガーデリア領のワインについて語り始めた。

「あんた飲めないのに何言ってるのよ。てか私たちで飲めるのってローゼとクリスぐらいじゃない」

 ベレニスはフィーリアの熱弁を遮るように言うと、フィーリアは苦笑いを浮かべた。

「ノンノン、ベレニスさん。ガーデリアのワインは宝石より価値が高いと言われるほどっす。その一本を持っていたお蔭で、大口の取引を成立させた商人は大勢いるっすよ」

 ガーデリアワインの価値の高さを熱っぽく語るフィーリアは、大きく目を輝かせながらワインのボトルを想像するかのように両手を広げた。

 ふ~ん、単なる酒ではなく、一種のステータスシンボル、あるいは縁起物として扱われているのかな。

「まあ、そこにも寄るとして、リョウはどこか寄りたい場所ある?」

 私がそう言いながら、丸印だらけになった本を手渡した。

「俺は、まあ冒険者ギルドで……」

 困惑気味に呟くリョウ。
 相変わらず真面目な奴め。

「魔獣が増えています。気を引き締めなければなりません」

 ヴィレッタが話題を変えて魔獣の増加について言及するけど、スイーツ店特集本に、元々チェックが多かった事実はなかったことにできないからね。

「ここまでの道中も、多くの魔獣が襲って来ましたね! 街道沿いに出没するなんて、今まで珍しかったのに当たり前になりつつあります」

 レオノールも魔獣の増加を実感している様子だ。

 旅人や商人が襲撃される率が、遥かに増していた。

 魔獣の増加傾向は、人々の生活圏を脅かし、世界がゆっくりと狂っていくのを肌で感じる。

 私たちもこの8日間、毎日魔犬やコボルト、ゴブリンといった相手と遭遇した。
 私たちの敵ではないけど、旅路で毎日戦闘になるということは、どこかで人々が襲われている証拠でもあるだろう。
 犠牲者が出ている話を耳にすると心が痛む。

「魔王軍宰相クレマンティーヌの復活、未だに目立った動きはないっすが、これが影響してると思っていいっすね」

 フィーリアの想像に、私たちは身体が引き締まって拳に力が入る。

 邪教『真実の眼』を率いる六賢魔が禁忌の実験により、千年以上前に封印された魔王軍宰相を復活させたという情報。

 私たちの身近な存在をも巻き込み、世界を揺るがすほどの脅威となって迫っていると実感する。

 それに、新年幕開けと共に起きた、ファインダ王国王都リオーネでの邪教の魔女脱獄事件。

 そこで私とヴィレッタは、邪教の魔女に連れ去られたはずの幼馴染、ベルガー王国公爵令嬢シャルロッテ・ルインズベリーが邪教に協力していた魔女だったという事実を知る。
 レオノールも、女子寮で仲良くなったルリア・ニーマイヤーが邪教の魔女であった事実を知ってしまった。

 彼女たちは投獄されていた邪教の魔女にしてファインダ王国侯爵令嬢、リリ・クラークとロロ・クラークを脱獄させたのだ。

『『目覚めの時は近い。その時まで待つ』』

 私を見て呟いたリリとロロの無表情の言葉。

 色々わからない上に、翻弄されっぱなしだ。
 目覚めとは何か? 六賢魔とクレマンティーヌはどこにいるのか?

 私の師匠である魔女ディルが、六賢魔と行動を共にしていたという情報。
 一縷の望みを賭けて、魔女ディルの伝承が残るガーデリア領へと向かう私たちなのだ。

「そういえばローゼ、最近奇妙な夢は見ているのですか?」

 ヴィレッタの優しいまなざしに、私は少し言葉を詰まらせる。
 最近見た夢は断片的にしか思い出せないものの、そこに潜む不穏な空気は、私の心を強く締め付けていた。
 単なる悪夢というよりも、何か重要なメッセージが隠されているような、そんな感覚が残っていたから。

「うん、大丈夫。きっと変な夢を見たのはシャルロッテのことがあって動揺したからかも。あの時はみんなゴメンね。私の魔力が不安定になっちゃった影響で、みんなにも風邪を引かせちゃって」

「別に気にしなくていいわよ。ベッドで1日ぬくぬくできて、美味しい物も食べれたし」

「そうです! と言いますか、姉様も人間だと驚いたぐらいです!」

 おいこらベレニスにレオノール、少しはヴィレッタみたいに私を心配しろ。

「私も初めて風邪ってのを引いたよ~。ローゼに感謝しないとね~」

 クリス? 風邪はラッキーイベントじゃないぞ?

「ローゼさん、見た夢を思い出したら教えてくださいっすね。魔女の生態について興味深い現象っすので」

 フィーリア? 私を人間扱いしてないよね?

「変な夢だった、ぐらいしか覚えてないかな?」

 少し嘘。最近毎日見ている。
 徐々に輪郭がはっきりしているのを自覚している。
 ただ、もう魔力暴走はさせない。
 そんな思いが私の心に宿っていた。

「まあそんなことより、今日はゆっくり休んで明日にはガーデリアに到着するようにしよ」

 私のそんな声に、リョウもみんなも頷くのであった。

 翌日。

 グシュタードの喧騒を背に、私たちはガーデリア地方へと続く雪原を進んでいた。
 馬車が凍てついた土を踏むたび、鈍い軋みが車内に響く。
 空は灰色の雲に覆われ、陽光はどこにも見えず、白い大地は果てなく広がっている。
 遠くに霞む丘の影が、まるで動かぬ亡魂のように佇んでいた。

「うへえ、この景色、死んでるみたいね。何か派手なのが欲しいわ」

 ベレニスが窓に頬杖をついてぼやく。
 白銀の髪が肩に流れ落ち、緑の瞳が退屈そうに外を睨んでいる。

「派手なら魔獣が用意してくれるっすよ。昨日も襲ってきたし、今日も気を抜けないっす」

 フィーリアが地図を丸め、皮肉っぽく口にする。
 緑のツインテールが跳ね、茶色の目が私をチラリと見てきた。

 私は苦笑し、窓の外に目を向ける。

 御者台ではリョウが手綱を握る姿。
 黒髪が風に揺れ、黄土色の皮鎧が雪の白さに浮かぶ。
 腰の剣が静かに揺れ、いつでも戦える気配を漂わせていた。

 しばらく進むと、フタエゴとバラオビが嘶いた。
 視界に道端に黒い塊が横たわっているのが入る。

 近づくにつれ、それが商人の遺体だとわかった。
 服はズタズタに裂け、腕には深い爪痕が刻まれている。凍りついた顔は、恐怖で歪んだまま空を見上げていた。

 血の臭いが風に乗って鼻腔を刺す。
 どこかで嗅いだ記憶があるような、鉄錆のような匂いだ。
 その臭いに、私の胸がざわつく。

「うっ……魔獣に殺られたのかな~」

 クリスが鼻を押さえ、顔をしかめた。
 赤い髪が首に絡まり、赤い瞳が嫌そうに遺体から目を背けた。

 そのままにしてはおけないと、私たちは雪原で穴を掘って死体を埋葬し、女神フェロニアの信徒であるヴィレッタの祈りの言葉を私たちは耳にした。

 その行為も、胸に広がる重苦しさを拭い去るには足りない気分だ。

 しばらく進むも気分が晴れないまま、私は窓に額を預け、白い大地を眺めていた。
 どこまでも続く単調な景色に、寂しさが滲む。

(アニスの夢と現実が重なる……血の臭い、死の気配。同じ過ちを繰り返させない)

 その時、視界が歪み、耳元で風の音が変わる。
 まるで現実と異なる時間の流れが、私の意識を侵食していくかのように。
 
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