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第6章 雪原は鮮血に染まる
最終話 死闘バアフィン戦(後編)
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(嘘……でしょ……⁉)
先ほどの反撃で、私の魔力はほぼ完全に枯渇していた。
クリスも満身創痍で、もうまともに動ける状態ではない。
「さあ、第二幕と行こうか。もう少しだけ、僕を愉しませておくれよ。人間が希望を打ち砕かれて絶望に染まる瞬間を見るのが、僕は何よりも好きなのだから」
バアフィンは、まるで指揮者のように優雅に手を振る。
その合図で、魔獣たちが再び私たちに襲いかかってきた。
もう、魔法を放つ力はほとんど残っていない。
クリスも、必死に牙と爪で応戦しているが、その動きは明らかに鈍い。
攻撃を当てることすら、ままならなくなってきている。
疲労と魔力欠乏で、意識が朦朧としてきた。
バアフィンは、そんな私たちの無様な戦いを、心底楽しそうに嗤いながら眺めている。
それでも、私たちは戦い続けた。倒れても、倒れても、立ち上がり、襲い来る魔獣を打ち払い続けた。
雪原は、おびただしい量の魔獣の死骸と、私たちの流した血でどこまでも赤く染まっている。
その時、不意にバアフィンの動きが変わった。
彼は、つまらなそうにため息をつくと、私に向かって指先を向けた。
瞬間、私の身体に七色の光を放つ鎖が無数に絡みつき、動きを完全に封じられた!
これは……バアフィン自身の能力…⁉
「やれやれ、思ったよりしぶといねえ。まだ意識を保っているとは。面倒だが仕方ない。次はこのまま拘束された状態で戦ってもらおうか?」
バアフィンが嘲笑うと、身体に絡みつく鎖がギリギリと締め付けられて呼吸すら苦しくなる。
クリスが私を助けようと魔獣の群れを突破しようとするが、無数の魔獣に阻まれて近づくことすらできない。
(もう……だめ……かも……)
「ふむ。なかなか有益なデータが取れたよ。今の人間も、千年前と大して変わっていないようだね。これなら、これから先も、たっぷりと楽しめそうだ」
バアフィンは満足そうに頷くと、その右手に禍々しい紫色の渦を生み出した。
闇魔法……! その渦が、私に絡みつく七色の鎖と混ざり合い、激痛が全身を貫いた!
「あああああっ!」
たまらず、私は雪原に膝をついた。
「じゃあ、さようなら。僕の復活劇の、最初の記念すべき犠牲者だ。名も知らぬ魔女の小娘よ、光栄に思うがいい」
バアフィンが私を見下ろして冷酷に嗤う。
クリスが何かを叫んでいるが、もうその声も遠い。
バアフィンの右手から放たれる闇の渦が、ゆっくりと私の身体を覆い尽くそうとする。
(まだ……! 首を締め付けられていても、口は……動く!)
私は、最期の最期まで足掻くことを決めた。
残された、ほんの僅かな魔力の残滓を生命力と共に燃焼させる覚悟で!
『我が……魔力の……源たる……生命の灯火よ……今こそ……!』
血反吐を吐きながら、私は最後の呪文を紡ぐ。
目標は、目の前のバアフィン!
「へえ、まだそんな力が残っていたのかい。面白い。だが、無駄だと言っているだろう?」
(知っている……! でも私が、あんたに殺される仲間たちの夢を、何度見たと思っているの!)
バアフィンの魔法反射能力……!
アニスの記憶が教えてくれる。あれは周囲の冷気を利用して空間を微妙に歪ませ、魔法の軌道を逸らすもの。
完全な反射ではない。理論さえ理解していれば、対処は可能なはず!
私は反射される角度を計算し、僅かに軌道をずらして、最後の魔力を叩きつけた!
『全てを放出し……魔力となりて……顕現せよっ!』
私の身体から放たれた光の奔流が炎槍となり、バアフィンへと殺到する!
「ハハハ! だから無駄だと言っ……なっ⁉」
バアフィンは油断していた。
光は彼の張った反射の壁をすり抜け、その胸部で炸裂した!
轟音と共に爆風が吹き荒れる。やったか⁉
爆煙が晴れると、そこには白い貴族服を鮮血で染め、肩で息をしながらも、まだ立っているバアフィンの姿があった。
地にポタポタと血が滴り落ちている。
致命傷には、至らなかったか……!
しかし奴の瞳からは先程までの余裕は消え失せ、燃えるような狂気と、私への純粋な憎悪が宿っていた。
「ふざけやがって……ふざけやがって! ふざけやがってぇぇぇっ! この僕に、この僕に傷を負わせるだと⁉ 初見で僕の反射に対応するなど、あり得ん! あり得んのだぁぁぁっ!」
バアフィンは獣のように咆哮し、憎悪に歪んだ顔で私を睨みつけた。
「貴様だけは許さん! この場で殺す! 塵も残さず、完全に消滅させてくれるわ!」
バアフィンが、震える右手で私に狙いを定める。
まずい、まだ何か強力な魔法を放つつもりだ!
私にはもう、魔力は欠片も残っていない!
それでも私は諦めなかった。
最後の力を振り絞り、貫かれた腹部の激痛に耐えながら、バアフィンの腹部に突き刺さっていた炎槍の残滓に、最後の意志を込めた!
「させるかっ!」
バアフィンが左手から闇の渦を放とうとした、その瞬間!
「ぐあああああっ⁉」
腹部に残っていた炎槍の魔力が暴発し、バアフィンの体勢を大きく崩す!
(今だ!)
『ローゼ!』
クリスが叫び、魔獣の群れを強引に突破して私の方へ向かってくる!
だが、バアフィンもまだ倒れてはいない。
奴はよろめきながらも、私に向けて最後の力を振り絞ろうとしている!
(相打ちにすら、なれない……⁉)
私は血の泡を吹きながらも、勝ち誇るかのように不敵な笑みをバアフィンに向けた。
(来い……もっと近くへ……!)
バアフィンは私の挑発に乗ったのか、あるいは止めを刺すためか、よろめきながら私へと近づいてくる。
(……来た!)
私は最後の力を振り絞り、血反吐を吐きながらも叫んだ!
バアフィンの足首を、残された最後の力で強く握りしめながら!
「クリス! 私ごとブレスを!」
私の覚悟を悟ったバアフィンの顔が、驚愕と恐怖に歪む。
「く、狂っている……! 貴様は、狂った人間だ……! まるで……アニス……いや、魔王様のように……!」
バアフィンは反射的に私を攻撃しようと左手を翳すが、腹部の傷がそれを許さない。
クリスの口から放たれたのは、彼女の持つ最大出力の、全てを焼き尽くすかのような灼熱のブレス。
それはもはや赤ではなく、中心が白く輝くほどの高熱を帯びていた。
それが、私と、私に掴まれたバアフィンを、等しく飲み込んでいった。
(ごめんね、みんな……リョウ……)
意識が遠のく中で、私は最後に仲間たちの顔を思い浮かべていた。
***
第7章『絶望の鐘』に続く。
先ほどの反撃で、私の魔力はほぼ完全に枯渇していた。
クリスも満身創痍で、もうまともに動ける状態ではない。
「さあ、第二幕と行こうか。もう少しだけ、僕を愉しませておくれよ。人間が希望を打ち砕かれて絶望に染まる瞬間を見るのが、僕は何よりも好きなのだから」
バアフィンは、まるで指揮者のように優雅に手を振る。
その合図で、魔獣たちが再び私たちに襲いかかってきた。
もう、魔法を放つ力はほとんど残っていない。
クリスも、必死に牙と爪で応戦しているが、その動きは明らかに鈍い。
攻撃を当てることすら、ままならなくなってきている。
疲労と魔力欠乏で、意識が朦朧としてきた。
バアフィンは、そんな私たちの無様な戦いを、心底楽しそうに嗤いながら眺めている。
それでも、私たちは戦い続けた。倒れても、倒れても、立ち上がり、襲い来る魔獣を打ち払い続けた。
雪原は、おびただしい量の魔獣の死骸と、私たちの流した血でどこまでも赤く染まっている。
その時、不意にバアフィンの動きが変わった。
彼は、つまらなそうにため息をつくと、私に向かって指先を向けた。
瞬間、私の身体に七色の光を放つ鎖が無数に絡みつき、動きを完全に封じられた!
これは……バアフィン自身の能力…⁉
「やれやれ、思ったよりしぶといねえ。まだ意識を保っているとは。面倒だが仕方ない。次はこのまま拘束された状態で戦ってもらおうか?」
バアフィンが嘲笑うと、身体に絡みつく鎖がギリギリと締め付けられて呼吸すら苦しくなる。
クリスが私を助けようと魔獣の群れを突破しようとするが、無数の魔獣に阻まれて近づくことすらできない。
(もう……だめ……かも……)
「ふむ。なかなか有益なデータが取れたよ。今の人間も、千年前と大して変わっていないようだね。これなら、これから先も、たっぷりと楽しめそうだ」
バアフィンは満足そうに頷くと、その右手に禍々しい紫色の渦を生み出した。
闇魔法……! その渦が、私に絡みつく七色の鎖と混ざり合い、激痛が全身を貫いた!
「あああああっ!」
たまらず、私は雪原に膝をついた。
「じゃあ、さようなら。僕の復活劇の、最初の記念すべき犠牲者だ。名も知らぬ魔女の小娘よ、光栄に思うがいい」
バアフィンが私を見下ろして冷酷に嗤う。
クリスが何かを叫んでいるが、もうその声も遠い。
バアフィンの右手から放たれる闇の渦が、ゆっくりと私の身体を覆い尽くそうとする。
(まだ……! 首を締め付けられていても、口は……動く!)
私は、最期の最期まで足掻くことを決めた。
残された、ほんの僅かな魔力の残滓を生命力と共に燃焼させる覚悟で!
『我が……魔力の……源たる……生命の灯火よ……今こそ……!』
血反吐を吐きながら、私は最後の呪文を紡ぐ。
目標は、目の前のバアフィン!
「へえ、まだそんな力が残っていたのかい。面白い。だが、無駄だと言っているだろう?」
(知っている……! でも私が、あんたに殺される仲間たちの夢を、何度見たと思っているの!)
バアフィンの魔法反射能力……!
アニスの記憶が教えてくれる。あれは周囲の冷気を利用して空間を微妙に歪ませ、魔法の軌道を逸らすもの。
完全な反射ではない。理論さえ理解していれば、対処は可能なはず!
私は反射される角度を計算し、僅かに軌道をずらして、最後の魔力を叩きつけた!
『全てを放出し……魔力となりて……顕現せよっ!』
私の身体から放たれた光の奔流が炎槍となり、バアフィンへと殺到する!
「ハハハ! だから無駄だと言っ……なっ⁉」
バアフィンは油断していた。
光は彼の張った反射の壁をすり抜け、その胸部で炸裂した!
轟音と共に爆風が吹き荒れる。やったか⁉
爆煙が晴れると、そこには白い貴族服を鮮血で染め、肩で息をしながらも、まだ立っているバアフィンの姿があった。
地にポタポタと血が滴り落ちている。
致命傷には、至らなかったか……!
しかし奴の瞳からは先程までの余裕は消え失せ、燃えるような狂気と、私への純粋な憎悪が宿っていた。
「ふざけやがって……ふざけやがって! ふざけやがってぇぇぇっ! この僕に、この僕に傷を負わせるだと⁉ 初見で僕の反射に対応するなど、あり得ん! あり得んのだぁぁぁっ!」
バアフィンは獣のように咆哮し、憎悪に歪んだ顔で私を睨みつけた。
「貴様だけは許さん! この場で殺す! 塵も残さず、完全に消滅させてくれるわ!」
バアフィンが、震える右手で私に狙いを定める。
まずい、まだ何か強力な魔法を放つつもりだ!
私にはもう、魔力は欠片も残っていない!
それでも私は諦めなかった。
最後の力を振り絞り、貫かれた腹部の激痛に耐えながら、バアフィンの腹部に突き刺さっていた炎槍の残滓に、最後の意志を込めた!
「させるかっ!」
バアフィンが左手から闇の渦を放とうとした、その瞬間!
「ぐあああああっ⁉」
腹部に残っていた炎槍の魔力が暴発し、バアフィンの体勢を大きく崩す!
(今だ!)
『ローゼ!』
クリスが叫び、魔獣の群れを強引に突破して私の方へ向かってくる!
だが、バアフィンもまだ倒れてはいない。
奴はよろめきながらも、私に向けて最後の力を振り絞ろうとしている!
(相打ちにすら、なれない……⁉)
私は血の泡を吹きながらも、勝ち誇るかのように不敵な笑みをバアフィンに向けた。
(来い……もっと近くへ……!)
バアフィンは私の挑発に乗ったのか、あるいは止めを刺すためか、よろめきながら私へと近づいてくる。
(……来た!)
私は最後の力を振り絞り、血反吐を吐きながらも叫んだ!
バアフィンの足首を、残された最後の力で強く握りしめながら!
「クリス! 私ごとブレスを!」
私の覚悟を悟ったバアフィンの顔が、驚愕と恐怖に歪む。
「く、狂っている……! 貴様は、狂った人間だ……! まるで……アニス……いや、魔王様のように……!」
バアフィンは反射的に私を攻撃しようと左手を翳すが、腹部の傷がそれを許さない。
クリスの口から放たれたのは、彼女の持つ最大出力の、全てを焼き尽くすかのような灼熱のブレス。
それはもはや赤ではなく、中心が白く輝くほどの高熱を帯びていた。
それが、私と、私に掴まれたバアフィンを、等しく飲み込んでいった。
(ごめんね、みんな……リョウ……)
意識が遠のく中で、私は最後に仲間たちの顔を思い浮かべていた。
***
第7章『絶望の鐘』に続く。
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