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⑭息子の反乱

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クリストフ様は、わたくし達の案内をしながら積極的に王族の方々と親交を深めていた。

わたくし達は、クリストフ様の17歳の誕生日にあわせて訪問したので、我々以外にも外交に来ている王族は多い。わたくしも過去ではお兄様と訪問した。

その時は1週間程滞したのだけど、お忙しいからとあまりクリストフ様と話す機会はなかった。パーティではエスコートして頂いただけだ。

今回は、わたくし達の滞在期間は一カ月もある。しかも、リュカはクリストフ様と一緒にあちこちで色々な方々にお会いしている。王族、貴族、有力商人。王族でお会いした方は適齢期の女性も多く、クリストフ様が婚約者を見定めているのではないかと噂になった。

わたくしは、お茶会に参加しながら噂を集めた。イザベラ様の評判はあまり良くないとご本人は仰っていたが、お優しく穏やかな方だと評判は良かった。あまり悪い評判は聞かれなかったが、たまに幼い面をお見せになるらしく、一部の令嬢からはとても嫌われていた。

でも、イザベラ様が怒るのはたった1人の人物を馬鹿にされた時だけらしく、密かに彼女を慕っている方も多かった。

こうして様々な準備を行い、クリストフ様の誕生日パーティの日が訪れた。

イザベラ様の侍女をしていたアンは、あれからリリアに扱かれている。公爵家に許可を取り、アンはわたくしの部屋にずっと居る。彼女は孤児で孤児院から拾われて来たらしい。最低限の立ち振る舞いを教えられたら、散々悪口を教え込まれてイザベラ様に付けられたらしい。

彼女は、隙をみてクリストフ様に危害を加えるよう指示されていた。危害といっても、一発平手打ちをしろと言われただけだったけど、それで彼女も公爵家も終了だ。カドゥール国の恐ろしい法律を知らなかったので、教えたら泣き崩れていた。

アンが城に連れて来られるのはパーティの時くらいだったらしい。パーティでも、イザベラ様から休憩室を出ないように言われていたので、素直にイザベラ様の言う事を聞いていた。もし、アンとクリストフ様が会っていたら過去の悲劇が繰り返されるところだった。

あまり自分で考える事が出来ず、指示に従う事しか出来ないアンは、国王の指示に疑問を持っていなかった。

出自からして怪しいと、リュカやクリストフ様がこっそり調べたところ、とんでもない事が分かった。

アンは、国王陛下の隠し子だった。お忍びで通っていた娼婦が産んだ子だったそうだ。娼婦は、出産時に亡くなっている。王妃様は嫉妬深いので、知られる訳にいかないと放置していたらしい。

だけど、王族の血筋を放っておく事は出来ない。アンが大きくなり、王族の特徴が現れ始めた。隠しきれなくなる事を悟った国王陛下は、イザベラ様の侍女としてアンを紹介した。ブエ公爵は、国王の秘密を知っていたらしい。だから、保護するつもりでアンを雇ったそうだ。

国王は、公爵に感謝するフリをしながら邪魔な者達をまとめて消そうとしていたんだろう。過去でアンを処刑したのが誰なのかは分からないが、国王陛下自ら手を下したのかもしれない。

リュカも、クリストフ様もその事実を知った時はとても怒っていた。お兄様に頼み事をしたいと、手紙を書くリュカは怖い顔をしながらペンを走らせており、使用人達を怯えさせていた。

「父上、僕の伴侶は僕が決めて良いと仰っていましたよね?」

誕生日の挨拶をしたクリストフ様は、そう宣言した。国王陛下は、嬉しそうに頷いている。

リュカとクリストフ様は、わざと国王陛下が誤解するような行動を取り続けていた。

お会いしていた婚約者候補と思われる方々は、既に別の方と縁を結んでいる。2人は、たくさんの人と会いながら気が合いそうな人達を引き合わせていた。

縁結びをした代償に、ちょっとだけお願い事をしてわざとクリストフ様の婚約者候補であると誤解されるような行動を取って貰った。

全員、国王陛下の理想通りの身分や財力を持っている。だから、国王陛下は誰を選んでも安泰だと思っている。

「ああ、好きにしなさい。もちろん、お相手が了承してくれればだけどな。まずは打診するから、後で言いなさい」

「いえ、この場でプロポーズをしたいと思っています。お断りは……されませんよ。事前にお話しはしてありますから」

チラリと、王族の皆様が集まるエリアを見るクリストフ様。満足そうに頷く国王陛下。

「なら、教えてくれ。どこの国の姫君と結婚するんだ?」

「彼女です」

クリストフ様は、迷わずイザベラ様の手を取りました。イザベラ様はこっそりと王族の皆様が集まるエリアに隠されて居ました。

縁結びをした王族の方々が、快く協力して下さったのです。

「イザベラ・ド・ブエ様。愛しています。どうか私と結婚して下さい」

「はい。喜んで。わたくしもクリストフ様を愛しておりますわ」

「なっ! なっ! 何故!!!」

「どうされたのですか? 父上。伴侶は僕が選んで良いと仰いましたよね? イザベラは公爵令嬢です。法的に問題ありませんよね? 母上も元々は公爵令嬢なのですから。勿論、ブエ公爵のご許可は頂いておりますよ。それに、母上にも紹介済みです。母上は大賛成してくれましたよ」

「ええ、イザベラは教養が足りないと心配していたのですけど、全く問題ありませんでしたわ。王妃教育は必要でしょうけど、基礎は出来ていました。こんなに賢い子だなんて知らなかったわ」

イザベラ様に王妃教育の基礎を教えたのはわたくしです。機密ではないけれど、王妃教育を受けないと知らないであろう事を中心にお伝えしました。

初対面で、わたくしが王妃様に質問された内容も覚えていましたから、イザベラ様に全てお伝えしたところ全く同じ問答をされたそうです。

それらを完璧に受け答えしたイザベラ様は、王妃様を味方につけました。

そして、クリストフ様は王妃様に特大のお土産をプレゼント致しました。

「ねぇあなた? 反対なんてしないわよね? あなただってイザベラを気に入っていたでしょう? あなたの子を侍女に付けるくらいに」

「なぜ……それを……!」

ちょっと! 国王陛下、甘過ぎませんか?
言質を取られるのが早すぎるでしょう。

ま、この王妃様のオーラに当てられたら仕方ないかもしれませんわね。そんな王妃様の姿を見てもニコニコしているイザベラ様は凄いですわ。

「皆様、国王には御落胤がおりましたの。アン、いらっしゃい」

「はい」

綺麗に着飾ったアンが、イザベラ様の後ろから現れました。

「アンですわ。とっても国王陛下に似ているでしょう。間違いなく国王の子ですわ。目の色、髪、なによりも王族に代々出る痣。クリストフ、アン、腕を出して」

「「はい」」

クリストフ様とアンには、同じような痣があった。まるでカドゥール国の紋章のような形の痣は魔力を帯びて光っている。

「同じでしょう? 我が国の王族は、何故か皆同じところに痣があるの。魔力を帯びてるから偽造も不可能。わたくしが産んだのはクリストフだけ。でも、アンにも同じ痣があるわ。ねぇあなた、説明してちょうだい」

「あ……それはだな……!」

「アンは貴方の子? 違う? どっち?」

「……私の……子だ……」

「そう。貴方が嘘をつかないでくれて嬉しいわ。アンはブエ公爵が匿って下さっていたのよね?」

「ああ……そうだ……宰相……すまない」

「いえ、国に仕える者として当然の事をしたまでです。アン王女は、イザベラの侍女の振りをして下さっておりましたがもう充分でしょう。こうして王妃様もお認め下さったのですから」

「ええ! わたくしアンとも話をしたの。とても良い子よ。クリストフの婚約も決まったし、正式に王女として迎え入れましょう。アンはね、人を疑う事を知らないの。だからわたくし、少しは人を疑う事を覚えた方が良いと教えたのよ。そうしないと、騙されて殺されてしまうもの。ねぇ、あなた?」

「そそそ……そうだなっ!」

「良かったわね。アン。お父様の許可も取れたから、早速今日からお城で暮らしましょうね。もう準備もしてあるのよ」

「はい! ありがとうございます! 王妃様!」

「あら、貴女はもう王女よ。わたくしの事はお母様と呼んでちょうだい」

「……良いのですか? だって、私は……」

「本当のお母様はお亡くなりになってしまったけど、わたくしを母だと思って甘えてちょうだい。話は聞いているわ。辛かったわね」

「あ……わたし……あ、わぁぁぁん……」

アンは、王妃様の胸で泣き始めました。王妃様は確かに嫉妬深い方ですが、愛情深い方でもあります。

クリストフ様をとても大事にしておられましたからクリストフ様がアンの事を訴えれば話を聞いて貰える可能性が上がると思っていました。成功して良かったです。

呆然としている国王陛下に、クリストフ様が畳み掛けます。

「父上、可愛い妹も出来ましたし、僕も早く身を固めたいと思います。結婚式は、1年後でどうでしょう? 本当はもっと早い方が良いですけど、準備もありますから。僕はイザベラと一緒なら、どんな困難も乗り越えていける。彼女の明るい笑顔があれば頑張れます。そう思っていたから、幼い頃からイザベラを城に呼んでいたのでしょう? 父上の御慧眼に、心から感謝致します」

「あなた、素敵な子がクリストフと婚約してくれて良かったわね。アンにも婚約者を探さないとね。どなたか良い方はいらっしゃるかしら?」

「……そう……だな……」

「どうしたの? あなた? アンの事は知っていたでしょう? クリストフだって、あんなにイザベラと仲良くしていたじゃない。イザベラにクリストフと仲良くしてくれと言ったのは、あなたでしょう? 違っていたかしら? 違っていたなら、ちょっとお話ししましょう? お部屋で」

「いや! 問題ない! クリストフ、婚約おめでとう。イザベラ、クリストフを頼む。みんな、息子を祝ってやってくれ! 私は少し席をはず……」

「じゃあ、わたくしも行くわ。あなた」

「息子の晴れ舞台だからな! 結婚式の日取りも決めてしまおう! 今からみなさんのご予定を伺いますね! ああ、忙しくなってきた!」

「あら、残念。なら話し合いは後日にしましょうね。あなた」

今は乗り切れても、国王陛下は王妃様から逃れられないんでしょうね。楽しそうに笑う王妃様は、過去のクリストフ様にとてもよく似ておられました。
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