婚約破棄された王女は暗殺者に攫われる

編端みどり

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16.暗殺者は出発を急ぐ

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「さっき聞いたの。ジルが暗殺をするふりをしてみんなを保護していたって」

「なんで言うんですか?!」

「ジルが姫様に王妃の言うままに暗殺を繰り返した男だと誤解されたままではいけないと思ってな……しかし良かったな。姫様はジルと生きたいとまで仰せになったぞ。国王陛下に報告せねば……」

そう言って、アーテルはまた泣き出した。

「しなくていいですよ! あと、泣かなくていいです。さっさと涙を拭いてくださいよ!」

「いや、これは重大事項だ。必ず報告する」

アーテルはジルから受け取ったハンカチで涙を拭い、クリステルに目配せをした。クリステルは慌てて、父からの手紙を暖炉に放り込んだ。

「ん? クリス、それは何?」

「お父様からの手紙よ。読んだら破棄しなきゃいけないから」

クリステルは、ジルに手紙の内容を知られないように平静を装った。しかし、ジルはクリステルの僅かな変化に気が付いた。

「なんか、困る事書いてあった?」

「い、いいえ! 大丈夫よ!」

ジルは、クリステルの目をじっと見つめて再度聞いた。

「オレに言いたくないことが書かれてた?」

「そんな事……」

「嘘だね。おおかた親父や兄貴の事でも書かれてたんだろ? あいつらもう処刑された?」

「ジル……どうして分かるの……?」

「姫様、そこは嘘でも誤魔化すところですぞ。ジルに気遣いは不要でしたな。結論から言えばまだ生きてるが、取り調べが済み次第解放され、そのまま我々が始末することになったぞ」

「あー……やっぱそうなるか。王妃の実家に戻られると厄介だもんね。城の内部情報もある程度知ってるし、かといってこのまま雇う訳にもいかないし。あいつらオレの事恨んでるだろうなぁ。ねぇ、王妃はどうなるの?」

「証拠は着々と揃っているからな。おそらく離婚程度では済まないだろう。場合によっては、貴族への見せしめとして公開処刑になるかもしれぬ」

「王子は?」

「今のところクリステル様の暗殺に関わった証拠は挙がっていない。だが、ジルが用意していた偽の依頼書を破棄したのはヒュー王子だ」

「ばりばり関わってんじゃん」

「だが、それは状況証拠なのだ。母を守るために疑わしいものを処分したと言われたらどうなる?」

「そっか……王妃の証拠は大量だけど、ヒュー王子の証拠はあんまりないのか」

「そういった意味では、ヒュー王子こそ厄介だ。警戒するに越したことはない。第一王子なだけあって、権力はあるからな。クリステル様の死に王子が疑問を持てば、簡単に生きている事を調べ上げられる」

「王子の手駒、増えてきたもんねぇ」

「うむ、少し癇癪持ちではあるが、人心掌握術は国王陛下以上だからな。影も何人かはヒュー王子寄りになってきている。実際、ヒュー王子が依頼書を破棄した時に付いた影の数名は、ヒュー王子は何もしてなかったと報告してきた。ジルが生きている事を知っているのは、私とマリアだけなのが幸いだな」

「なるほどね。オレの事知ってるのは、国王陛下の忠臣だけか」

「そうだ。だから早めに王都を出た方が良い。クリステル様を守りたいなら、今の王都は危険だ」

「分かった。クリス、すぐに出発しようと思うんだけど、良いかな?」

「さっき少し寝たし大丈夫よ! でも、護衛の都合は大丈夫なの?」

「うん、依頼したらすぐにでも出発したいって言ってたから。荷物の都合もあるし、一旦連れと確認するって言って待機してもらってる。だから、馬車と荷物持って行けばすぐに出れるよ」

「どこに行くつもりだ?」

「とりあえず港町のポッタかなぁ。悩んでるとこ」

「そうか、気を付けて行けよ。姫君は旅に慣れておられない。無理はさせるなよ」

「オレがそんな事すると思う?」

「愚問だったな。クリステル様、どうかお幸せに」

「ありがとう。お父様によろしくね」
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