婚約破棄された王女は暗殺者に攫われる

編端みどり

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24.王女は料理をする

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「この調味料に、猪の肉をつけ置きして焼くと、臭みが取れて食べやすくなるよ」

「そうなんですね。どれくらいつけると良いですか?」

「あんまり長くやると肉が腐っちゃうから……冬場なら1時間、夏場なら30分。今は、春先だから良いけど、真夏は川の水とかで冷やしながらやらないと肉が傷んじゃう。だから、夏場は肉を切り分けたらすぐ焼いて食べるよ。塩でも充分美味しいし、調味料はあんまり使わないかな」

「いつもの味付けは塩ですからね」

「お金に余裕がある時だけ、この調味料を買うの。でも、お高いからこんなにたっぷり使うの初めて」

「そーそー、今回は良い仕事だよ。依頼人は太っ腹だもんね」

「そうですね。今のところ危険もありませんし」

「あの……野盗はよく出てくるんですか?」

クリステルは恐る恐る冒険者達に聞いた。

「出るよ。9割くらいは出るね」

「出れば危険手当が貰えるけど、本音は面倒だから出会いたくないよね。特に、今回は」

「どうしてですか?」

「だって、クリスさんに怪我させないようにしないと」

「へ……? 怪我くらい構いませんけど」

キョトンとした顔で答えたクリステルの言葉は、冒険者達に即座に否定された。

「駄目だよ!」

「そうですよ! 依頼人は守りませんと!」

「……でないと、あたしらの命が危ないじゃない」

「「ファルっ!」」

ボソリと呟いたファルの声は、クリステルには届かなかったが、仲間達はしっかり聞こえており、慌ててファルを咎めた。

「ご、ごめん! なんでもない! とにかく今は何も出て来ないから良いじゃない。男性陣が薪を集めて来てくれるし、今のうちに仕込みを終わらせちゃおう」

あからさまな誤魔化しだったが、クリステルは料理に夢中で気が付かなかった。

「これを焼くんですね。外で焼くのは初めてで上手くいくか不安です」

「簡単だよ。今回は使わないけど、これくらい平べったい石なら、焚火で温めて肉を焼くフライパン代わりにも使えるし、他にも森にある物で色々料理する技はあるよ。クリスさん達みたいに馬車なら、道具を載せれば良いからこんな事しなくて良いけどね。あたしらみたいに徒歩で移動する人なら知ってて損はない知識だね」

「ファルさんは凄いですね。とても物知りです」

「そんな事ないよ。あたしよりレミィの方が物知りだもの。ルカはとっても強いしね。あたしは弓は得意だけど、それだけ。野営の知識は親が叩き込んでくれたから自信あるけど、文字も読めなかった。レミィが助けてくれなきゃ、とっくに騙されてどっかに売られてたかもね。今は簡単な文字は読めるし、お金の使い方も分かったから仲間にしてくれたみんなには感謝してるよ」

「あら、改まってどうしました?」

「いやぁ……感謝を伝えるのも大事かなって思って。クリスさんって、すっごい真っ直ぐ褒めてくれるからくすぐったいけど嬉しいし。ちょっとは見習おうと思って」

「そうね! 私もレミィに感謝してるわ。私も文字が読めなかったし、誰も私と組んでくれなくて困ってたのよね」

「ちょっと! 改まって何ですか?!」

「「照れてる照れてる」」

「ただいまー……」

「おかえりぃ! 見てみて! めちゃくちゃ美味しそうでしょ?」

「おお……美味そうだな……」

「ガウス、どうしたのですか? 顔色が悪いですよ?」

「なんもねぇ、なかなか薪がなくて疲れただけだ。こんなもんで足りるか?」

「充分だよ! 早速焼くね!」

「ジル、おかえりなさい!」

「ただいま。クリス、久しぶりの料理は楽しかったか?」

「はい! でもね、まだ終わってないの。さっきね、ファルさんが野営で出来る料理の仕方を教えてくれたの。石の上でお肉を焼いたり出来るんですって! 道具もあるけど、やってみたいの」

「それってクリスでも出来るのか?」

「出来ますよ。よければ教えますよ」

「本当に?! 教えて欲しいわ!」

「負担にならないなら、頼んでも良いか?」

「もちろんです!」

「じゃあ、出来るまであっち行ってて! 出来たら見せるから!」

「分かった。さっきガウスと見回りしたけど、この辺に野盗は居ないし、魔物の気配もなかった。食事を作る間くらい離れても問題ないだろう。ファル、頼んだ。オレは荷物の整理をしているから、出来たら呼んでくれ」

「分かったわ! ファルさん、教えて!」

「はーい、まずこっちね」

クリステルとファルは、仲良く食事の準備を始めた。だが、冒険者達はジルの言葉の意味を聞き逃さなかった。ファルは、わざとクリステルをジル達から引き離してジルと仲間達が会話する隙を作った。

野盗の気配を感じ取って警戒していた冒険者達は、何故急に野盗の気配が消えたのか、何故ガウスの顔色が悪かったのかを察していた。

「危険手当は、今回は無いぞ」

そう言ったガウスの言葉で、何が起きたか正確に把握したレミィとルカは冷や汗をかいた。

「オレは渡しても構わなかったんだがガウスに断られたんだ」

「受け取ったら、レミィが怒ると思ってな」

「ええ、その通りよ。さすがガウスね」

「ここから先は、開けた道だから野盗は出ないと思います。油断は禁物ですけどね」

ルカは、愛用の剣を使わなくて済んだ事を少し残念に思いながらも、今回はこれで良かったと思っていた。ガウスの顔色から察するに、野盗は全てジルの手で息の根を止められたのだろう。

あのガウスが、顔色を悪くするなんて……ジルはどんな戦い方をしたのか。根っからの戦闘狂なルカは気になって仕方なかったが、それはジル達と別れてからガウスを問い詰めようと決めた。

「そうか。オレは街道には詳しくないんだ。ほとんど王都を出た事がないからな。やっぱり、お前達を雇って良かったよ」

そう言って笑う依頼人が、あまりに恐ろしかったから。
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