62 / 66
62.コックは、泣く
しおりを挟む
「クリス、悪いんだけど夕飯は別で良いか?」
「分かったわ。お父様に呼ばれてるのね?」
「ああ、悪いけど頼むよ。食事は部屋で摂るか?」
「そうするわ」
クリステルの食事は、コックが自ら運んでくる。ファルに教えられてクリステルが生きていたと大喜びしたコックは、以前のような事があってはならないとクリステルの食事を自ら運ぶと言って聞かなかった。異例ではあったが、国王の許可を得て認められており、侍女やメイドもクリステルの過去を考えると妥当な判断だと納得していた。
クリステルの帰還に大いに貢献したコックだが、その功績は全てレミィ達の功績となっており、コックの活躍は本人の意思により内密にされた。真実は城内では国王とクリステル、ジルしか知らない。
彼は、仕事がしにくくなるのが嫌だからと自らの手柄を手放した。代わりに望んだ事は、生涯クリステルの食事を作りたいというものだった。
「クリステル様、食事をお持ちしました」
「ありがとう。コルトさん」
「なっ……私の名を覚えて下さったのですか……?」
「もちろんよ! わたくし、コルトさんのお料理を食べるのは今日が初めてなの。今までここで食べていたご飯は、その……保存食の方が美味しいくらいだったし……。コルトさんのご飯は、全部他の方のお腹に収まってしまっていたし、パーティーではほとんど食べられないし、社交のディナーの料理人は別の方でしょう? だから、とっても楽しみにしていたの! 早速頂きますわ」
無意識にコルトを魅了しつつ、クリステルは祈りを捧げてから夕食を食べた。一口食べると、クリステルは笑顔になりコルトに礼を言った。
「とっても美味しいわ! コルトさん! ありがとう!」
「はっ……。こ、光栄ですっ……」
コルトは、大粒の涙を流して泣き崩れた。クリステルは慌ててコルトにハンカチを渡す。控えていたメイドが近づこうとしたが、クリステルが止めた為に持ち場からは動けなかった。
そのまま食事を終えて、メイドが出した茶を一口飲んだクリステルは、メイドに聞いた。
「とっても美味しいわ。ねぇ、このお茶をジルにも飲んで欲しいの。わたくしが自分で淹れるから、茶葉を持って来て下さる?」
「……え……。いや、お茶は私が淹れます」
「どうして? 大好きな夫に自分の淹れたお茶を差し上げたいの。どうして駄目なの?」
「……それは……」
クリステルは、不愉快そうに顔を歪めてメイドに命じた。
「はぁ……。命令よ。今すぐ茶葉を持ってきてちょうだい」
「……かしこまりました」
メイドは顔を歪ませながら退出した。その隙に、クリステルは飲んでいた紅茶をハンカチに染み込ませてカップを空にした。
「お待たせ致しました」
「ありがとう。ちょっと淹れる練習をしようかしら。早速使ってみるわ。そうだ、ジルがあとどれくらいで戻って来れるか確認して頂ける?」
「まだかかるのではないかと……」
「だから、確認してって言ってるじゃない」
「かしこまりました」
メイドが退出すると、クリステルはすぐに茶葉を確認する。
「茶葉に盛るなんて迂闊な事はしないわね。まぁ良いわ。この茶葉も確保して……ん?」
クリステルは、茶葉の入っていた缶の上に茶葉とは違う物がある事を発見した。
「これは……」
それは、クリステルも採取した事のある毒草だった。即死効果はないが、ぼんやりして判断能力が無くなる。摂取して、1時間くらいでじわじわと効いてくるタイプのものだ。念の為に解毒薬を飲み、毒草と茶葉をハンカチに包む。
「なるほど……ね。やっぱり、駄目なのね……」
「クリス、ただいま」
「ジル! おかえりなさい!」
クリステルはジルに抱きつき、こっそりとハンカチを手渡す。ハンカチには、先程の紅茶、茶葉、毒草が入っている。
「悪い、今は休憩なだけだからすぐに戻らないといけないんだ」
「分かったわ。お茶淹れたかったのだけど……今度にするわ。無理を言ってごめんなさい。お茶は下げて頂ける? ジル、わたくしは今日はもう予定が無いからお部屋で大人しくしているわ」
「それが良い。湯浴みをして休んでいてくれ」
「ええ、そうするわ」
「それじゃ、あとは頼む」
明らかにホッとした様子のメイドが礼をしてジルを見送り、クリステルはメイドと侍女達に話しかけた。
「疲れてしまったのかしら。少しだけぼんやりするの」
「身支度を整えて、おやすみになってはいかがですか?」
「そうね。そうするわ。湯浴みの準備をして頂ける? それから、このお茶も下げて。また今度淹れるわ」
「かしこまりました」
メイドは、お茶を下げる時に明らかにホッとしていた。お茶を下げるメイドの背中を、クリステルは冷たい目で見つめていた。
「分かったわ。お父様に呼ばれてるのね?」
「ああ、悪いけど頼むよ。食事は部屋で摂るか?」
「そうするわ」
クリステルの食事は、コックが自ら運んでくる。ファルに教えられてクリステルが生きていたと大喜びしたコックは、以前のような事があってはならないとクリステルの食事を自ら運ぶと言って聞かなかった。異例ではあったが、国王の許可を得て認められており、侍女やメイドもクリステルの過去を考えると妥当な判断だと納得していた。
クリステルの帰還に大いに貢献したコックだが、その功績は全てレミィ達の功績となっており、コックの活躍は本人の意思により内密にされた。真実は城内では国王とクリステル、ジルしか知らない。
彼は、仕事がしにくくなるのが嫌だからと自らの手柄を手放した。代わりに望んだ事は、生涯クリステルの食事を作りたいというものだった。
「クリステル様、食事をお持ちしました」
「ありがとう。コルトさん」
「なっ……私の名を覚えて下さったのですか……?」
「もちろんよ! わたくし、コルトさんのお料理を食べるのは今日が初めてなの。今までここで食べていたご飯は、その……保存食の方が美味しいくらいだったし……。コルトさんのご飯は、全部他の方のお腹に収まってしまっていたし、パーティーではほとんど食べられないし、社交のディナーの料理人は別の方でしょう? だから、とっても楽しみにしていたの! 早速頂きますわ」
無意識にコルトを魅了しつつ、クリステルは祈りを捧げてから夕食を食べた。一口食べると、クリステルは笑顔になりコルトに礼を言った。
「とっても美味しいわ! コルトさん! ありがとう!」
「はっ……。こ、光栄ですっ……」
コルトは、大粒の涙を流して泣き崩れた。クリステルは慌ててコルトにハンカチを渡す。控えていたメイドが近づこうとしたが、クリステルが止めた為に持ち場からは動けなかった。
そのまま食事を終えて、メイドが出した茶を一口飲んだクリステルは、メイドに聞いた。
「とっても美味しいわ。ねぇ、このお茶をジルにも飲んで欲しいの。わたくしが自分で淹れるから、茶葉を持って来て下さる?」
「……え……。いや、お茶は私が淹れます」
「どうして? 大好きな夫に自分の淹れたお茶を差し上げたいの。どうして駄目なの?」
「……それは……」
クリステルは、不愉快そうに顔を歪めてメイドに命じた。
「はぁ……。命令よ。今すぐ茶葉を持ってきてちょうだい」
「……かしこまりました」
メイドは顔を歪ませながら退出した。その隙に、クリステルは飲んでいた紅茶をハンカチに染み込ませてカップを空にした。
「お待たせ致しました」
「ありがとう。ちょっと淹れる練習をしようかしら。早速使ってみるわ。そうだ、ジルがあとどれくらいで戻って来れるか確認して頂ける?」
「まだかかるのではないかと……」
「だから、確認してって言ってるじゃない」
「かしこまりました」
メイドが退出すると、クリステルはすぐに茶葉を確認する。
「茶葉に盛るなんて迂闊な事はしないわね。まぁ良いわ。この茶葉も確保して……ん?」
クリステルは、茶葉の入っていた缶の上に茶葉とは違う物がある事を発見した。
「これは……」
それは、クリステルも採取した事のある毒草だった。即死効果はないが、ぼんやりして判断能力が無くなる。摂取して、1時間くらいでじわじわと効いてくるタイプのものだ。念の為に解毒薬を飲み、毒草と茶葉をハンカチに包む。
「なるほど……ね。やっぱり、駄目なのね……」
「クリス、ただいま」
「ジル! おかえりなさい!」
クリステルはジルに抱きつき、こっそりとハンカチを手渡す。ハンカチには、先程の紅茶、茶葉、毒草が入っている。
「悪い、今は休憩なだけだからすぐに戻らないといけないんだ」
「分かったわ。お茶淹れたかったのだけど……今度にするわ。無理を言ってごめんなさい。お茶は下げて頂ける? ジル、わたくしは今日はもう予定が無いからお部屋で大人しくしているわ」
「それが良い。湯浴みをして休んでいてくれ」
「ええ、そうするわ」
「それじゃ、あとは頼む」
明らかにホッとした様子のメイドが礼をしてジルを見送り、クリステルはメイドと侍女達に話しかけた。
「疲れてしまったのかしら。少しだけぼんやりするの」
「身支度を整えて、おやすみになってはいかがですか?」
「そうね。そうするわ。湯浴みの準備をして頂ける? それから、このお茶も下げて。また今度淹れるわ」
「かしこまりました」
メイドは、お茶を下げる時に明らかにホッとしていた。お茶を下げるメイドの背中を、クリステルは冷たい目で見つめていた。
3
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています
みゅー
恋愛
アレクサンドラ・デュカス公爵令嬢は舞踏会で、ある男爵令嬢から突然『悪役令嬢』として断罪されてしまう。
そして身に覚えのない罪を着せられ、婚約者である王太子殿下には婚約の破棄を言い渡された。
それでもアレクサンドラは、いつか無実を証明できる日が来ると信じて屈辱に耐えていた。
だが、無情にもそれを証明するまもなく男爵令嬢の手にかかり最悪の最期を迎えることになった。
ところが目覚めると自室のベッドの上におり、断罪されたはずの舞踏会から1週間前に戻っていた。
アレクサンドラにとって断罪される日まではたったの一週間しか残されていない。
こうして、その一週間でアレクサンドラは自身の身の潔白を証明するため奮闘することになるのだが……。
甘めな話になるのは20話以降です。
虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。
ラディ
恋愛
一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。
家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。
劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。
一人の男が現れる。
彼女の人生は彼の登場により一変する。
この機を逃さぬよう、彼女は。
幸せになることに、決めた。
■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です!
■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました!
■感想や御要望などお気軽にどうぞ!
■エールやいいねも励みになります!
■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。
※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。
悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜
見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。
ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。
想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
妹のために愛の無い結婚をすることになりました
バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」
愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。
婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。
私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。
落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。
思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる