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9. 執事は、企む
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リリーの了承を得てから、魔法で時を止めている時限定ではあるが、 2人は恋人同士のように過ごすようになった。
リリーは仕事が滞りなく引き継がれるように資料を残したいと希望し、フォッグもそれを了承した。終わりがあると思うと頑張れる。リリーの顔色は明るくなり、肌艶も良くなった。
相変わらずリリーの評判は良くない。だけど、明らかに明るくなったリリーを見つめる王太子の視線が変わり始めていた事に、フォッグは不安を覚えていた。
「なぁリリー、早いとこ姿を消した方が良いんじゃねぇか?」
「そうね。大体資料は出来たし……。もうなんだかどうでも良くなっちゃったわ。ねぇフォッグ、わたくしは妹を虐める悪女なんですって。さっきフォッグが居ない時に視察に出たら、領民に散々罵られたわ!」
「リリー……なんで嬉しそうに報告するんだよ……」
「だって、わたくしは要らないという事でしょう?! 必死で仕事を引き継ぎしようと思ってだけど、馬鹿馬鹿しくなってきたの!」
「そこは怒れよ! なんで嬉しそうなんだよ! オレと暮らすんなら、嘘も誤魔化しも無しだからな! 悔しくねぇのかよ! 悲しくねえのかよ!」
「……もう散々怒ったし、悲しんだわ。それでも民を見捨てられない。そう思ってた……。いいえ、そう、思わされていた。冷静になれば、仕事をしているのはわたくしだけではないわ。わたくしが代行しているのは、あくまでも王太子殿下のお仕事だけ。お父様の仕事もやってるけど、立派な跡取りが居るらしいし、領民もわたくしなんて要らないそうだし……、なんでこんなに頑張ってたのか分からなくなってきたの」
「リリーはもう一生分働いた。リリーを馬鹿にしたヤツら全員、地獄に堕ちれば良い……」
隠していた両目が、仄暗い色で光る。片方は、赤。片方は、青。魔力が高まり、隠蔽が解けたのだ。
魔族の血を引くフォッグが本気になれば、言葉通りの事が実行出来る。
「フォッグ!」
「なんだ?」
闇堕ちしていたのが幻だったのではないか。そう思わせるような優しい笑みでリリーの頭を撫で、優しく口付けをすると、リリーがジタバタと暴れ出した。
「もう! 目! 最近元に戻る事が多いわ! 気をつけて! それから、誰も地獄に堕としたりしなくて良いわ! 復讐なんてする気はないの。本当にどうでも良いの。フォッグが優しくしてくれるから、なにもかもどうでも良くなったの。意地悪な婚約者も、愛してくれない両親も、駒としか思っていない国王様や王妃様も。お友達だって、ホントはお友達じゃなかったのよね。ただ、王太子の婚約者であるわたくしが便利だっただけ。こんなの、要らない。全部欲しいって言うあの子に差し上げるわ」
「なにもかも、要らねぇのか?」
「フォッグだけは別よ! それとも、フォッグもあの子の方が良い?」
「あ? 冗談でもやめてくれよ。自分だけが悪いのって嘘泣きして、息を吐くように嘘を吐くような女、話すのも嫌に決まってんだろ」
「……そう聞いて安心するなんて、わたくしは嫌な女ね」
「オレもあのクソ王太子をリリーが嫌ってるって知って安心したんだから、おあいこだ。オレは、全員切り刻んでやりたいくらいなんだが……」
「そんな事しなくていいわ! それより問題なくこの国を出て、……その、早く一緒に暮らしましょう」
「ああもう、可愛いなぁ。なら、明日にでも出て行くか?」
「待って! きちんと婚約を解消しないとトラブルになるわ! でも、殿下はわたくしに婚約破棄の書面なんて叩きつけて下さらないし……」
残念そうに言うリリー。完全に基準がおかしくなっている。離縁状や解雇状をしょっちゅう叩きつけられる方が異常である。
「あんなクズ、放っておけば良いんだけど……リリーを探されても面倒だよな。事故で死んだと見せかけて姿を消すとかどうだ?」
「それ良いわね。殿下はわざわざわたくしを探したりなさらないでしょうけど、事故に見せかければ完璧ね」
「いや、分かんねぇぞ。オレは気が気じゃねぇんだ。あの王太子、最近リリーをいやらしい目で見てやがるんだよ」
「まさか……パーティーでのエスコートもおざなりなのに?」
「最近、リリーはますます綺麗になった。そのせいだろうな。大人しくあの嘘吐きと仲良くしてくれりゃあ良いのに……」
「……気持ち悪いわ」
吐き捨てるようにリリーは呟いた。フォッグは、思わず吹き出す。
「ふ、ははっ……マジで言ってる?」
「だって! あんなにベタベタベタベタ色んな女性といちゃついてるくせに、なんでわたくしにまで目を付けるの?! 気持ち悪いわ! わたくしは……フォッグにだけ触れられたいのに……」
「……あんまり可愛い事言ってると、我慢出来なくなりそうだ……頼むから煽んないでくれよ……」
口付けだけで我慢するのも限界だ。そう思ったフォッグは、更に暗躍する決意をした。
一刻も早く、愛する人と共に過ごす為に。
リリーは仕事が滞りなく引き継がれるように資料を残したいと希望し、フォッグもそれを了承した。終わりがあると思うと頑張れる。リリーの顔色は明るくなり、肌艶も良くなった。
相変わらずリリーの評判は良くない。だけど、明らかに明るくなったリリーを見つめる王太子の視線が変わり始めていた事に、フォッグは不安を覚えていた。
「なぁリリー、早いとこ姿を消した方が良いんじゃねぇか?」
「そうね。大体資料は出来たし……。もうなんだかどうでも良くなっちゃったわ。ねぇフォッグ、わたくしは妹を虐める悪女なんですって。さっきフォッグが居ない時に視察に出たら、領民に散々罵られたわ!」
「リリー……なんで嬉しそうに報告するんだよ……」
「だって、わたくしは要らないという事でしょう?! 必死で仕事を引き継ぎしようと思ってだけど、馬鹿馬鹿しくなってきたの!」
「そこは怒れよ! なんで嬉しそうなんだよ! オレと暮らすんなら、嘘も誤魔化しも無しだからな! 悔しくねぇのかよ! 悲しくねえのかよ!」
「……もう散々怒ったし、悲しんだわ。それでも民を見捨てられない。そう思ってた……。いいえ、そう、思わされていた。冷静になれば、仕事をしているのはわたくしだけではないわ。わたくしが代行しているのは、あくまでも王太子殿下のお仕事だけ。お父様の仕事もやってるけど、立派な跡取りが居るらしいし、領民もわたくしなんて要らないそうだし……、なんでこんなに頑張ってたのか分からなくなってきたの」
「リリーはもう一生分働いた。リリーを馬鹿にしたヤツら全員、地獄に堕ちれば良い……」
隠していた両目が、仄暗い色で光る。片方は、赤。片方は、青。魔力が高まり、隠蔽が解けたのだ。
魔族の血を引くフォッグが本気になれば、言葉通りの事が実行出来る。
「フォッグ!」
「なんだ?」
闇堕ちしていたのが幻だったのではないか。そう思わせるような優しい笑みでリリーの頭を撫で、優しく口付けをすると、リリーがジタバタと暴れ出した。
「もう! 目! 最近元に戻る事が多いわ! 気をつけて! それから、誰も地獄に堕としたりしなくて良いわ! 復讐なんてする気はないの。本当にどうでも良いの。フォッグが優しくしてくれるから、なにもかもどうでも良くなったの。意地悪な婚約者も、愛してくれない両親も、駒としか思っていない国王様や王妃様も。お友達だって、ホントはお友達じゃなかったのよね。ただ、王太子の婚約者であるわたくしが便利だっただけ。こんなの、要らない。全部欲しいって言うあの子に差し上げるわ」
「なにもかも、要らねぇのか?」
「フォッグだけは別よ! それとも、フォッグもあの子の方が良い?」
「あ? 冗談でもやめてくれよ。自分だけが悪いのって嘘泣きして、息を吐くように嘘を吐くような女、話すのも嫌に決まってんだろ」
「……そう聞いて安心するなんて、わたくしは嫌な女ね」
「オレもあのクソ王太子をリリーが嫌ってるって知って安心したんだから、おあいこだ。オレは、全員切り刻んでやりたいくらいなんだが……」
「そんな事しなくていいわ! それより問題なくこの国を出て、……その、早く一緒に暮らしましょう」
「ああもう、可愛いなぁ。なら、明日にでも出て行くか?」
「待って! きちんと婚約を解消しないとトラブルになるわ! でも、殿下はわたくしに婚約破棄の書面なんて叩きつけて下さらないし……」
残念そうに言うリリー。完全に基準がおかしくなっている。離縁状や解雇状をしょっちゅう叩きつけられる方が異常である。
「あんなクズ、放っておけば良いんだけど……リリーを探されても面倒だよな。事故で死んだと見せかけて姿を消すとかどうだ?」
「それ良いわね。殿下はわざわざわたくしを探したりなさらないでしょうけど、事故に見せかければ完璧ね」
「いや、分かんねぇぞ。オレは気が気じゃねぇんだ。あの王太子、最近リリーをいやらしい目で見てやがるんだよ」
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「最近、リリーはますます綺麗になった。そのせいだろうな。大人しくあの嘘吐きと仲良くしてくれりゃあ良いのに……」
「……気持ち悪いわ」
吐き捨てるようにリリーは呟いた。フォッグは、思わず吹き出す。
「ふ、ははっ……マジで言ってる?」
「だって! あんなにベタベタベタベタ色んな女性といちゃついてるくせに、なんでわたくしにまで目を付けるの?! 気持ち悪いわ! わたくしは……フォッグにだけ触れられたいのに……」
「……あんまり可愛い事言ってると、我慢出来なくなりそうだ……頼むから煽んないでくれよ……」
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一刻も早く、愛する人と共に過ごす為に。
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