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第十話

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今日は顔合わせの日だ。姉は3日前に旅行に行っているからあと数日は帰ってこない。天国だわ。

だけど両親は、姉に会えなくてイライラしている。ホントにわたくしのことはどうでも良いのね。

「シャーリー! きちんとアイリーンが選んだドレスを着なさい!」

お母様……。そのドレスは、お姉様のドレスの中で最高クラスにダサいのよ。勘弁して欲しいわ。

「お母様! ですがもうお時間がありませんわ! お姉様がドレスを用意してくれているなんて知らなかったの。遅刻したら、わたくしが嫌われるだけなら良いけど、デミック公爵家の顔を潰してしまったらお父様やお母様にご迷惑がかかるわ」

先生の教え、その8。無茶を通そうとされた時は、相手が頭が上がらなかったり逆らえない者を把握して、話題に出してみろ。あくまでもさりげなく。わざとらしくしてはいけない。

「……そうね。時間がないから行きましょう、あなた」

「うむ、遅刻はさすがにまずい」

助かったわ……。ギリギリまで部屋にこもって姿を見せなくて正解ね。

………………

「ようこそ、グラール伯爵。伯爵夫人」

相変わらずクリストファー様は名乗らないわね。お父様やお母様は気がついてないのかしら?

「シャーリー様、お久しぶりです」

「お久しぶりです。クリストファー様。本日はよろしくお願い致します」

カテーシーをする。名前をちゃんと呼べば失礼にはならないけど、正式な礼もきちんとしておきましょう。

あら? お父様もお母様も、どうして固まっていらっしゃるのかしら?

「礼儀正しいお嬢様ですね。ご両親の教育が行き届いておられる」

「……そ、そうですな。ありがとうございます」

「そうなんですの! 我が家は娘の教育にお金は惜しみませんの」

ふぅ、貴族なら嘘つく時くらい上手につきなさいよ。目が泳いでるし、そもそもわたくしの事情をクリストファー様もご存知なんだから、嫌味でしかないのに。

「実は妹のエリザベスと、シャーリー様はご友人でね。夜会で知り合ったそうなんだ」

なるほど、先生の事は秘密ですね。ラジャーです。

「ええ、最近夜会で仲良くなったの」

「何故言わなかった!」

「お父様にお話した事もあるわよ。お忘れ?」

ケイリー様の愛人の件はエリザベスから聞いたって伝えたでしょうに。嘘だって話を聞かなかったくせに。クリストファー様の前なら罵倒はしないでしょうし、きっちり訂正してやるわ。もし罵倒したら記録玉に証拠はあるから出してやる。

「忘れる事もありますよ。それより、フレッドが遅れていてね。先にご両親に結婚の条件だけお伝えするようにって言われているんだ。辺境伯は、代々持参金を受け取らない事が習わしなんですよ。かわいい娘ですから持参金をご用意したかったでしょうが、辺境伯のしきたりですので……もしよろしければ、持参金を無しとして頂けないでしょうか?」

なるほど。先にこちらから提示するのね。さすがだわ。両親はニヤリと笑ったけど、いやぁ! 残念だって下手な演技をして誤魔化していたわ。
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