政略結婚の指南書

編端みどり

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1.政略結婚

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「ああ……今日もロバート様は素敵だわ」

「夫婦なのですから、眺めているだけでなく直接お話しすればよろしいではありませんか」

「だって……お顔を見たら何を話して良いか分からないんだもの。それに、お母様から頂いた指南書にも夫と距離を保てと書いてあるじゃない」

「その本を参考にしない方がよろしいかと。それに、浮気三昧で妻を放置するお父上と旦那様は違います」

「当たり前じゃない! お母様に全ての仕事を押し付けて遊び呆けるお父様とロバート様は違うわ!」

「分かっておいでなら、ご自分から近づきましょうよ。ご夫婦なのですから、人前で腕を組んでも問題ありませんよ」

「む、無理っ!」

だって、旦那様は……ロバート様はとってもかっこいい。お顔が近くなると、何を話して良いか分からなくなってしまうのだもの。

それに、お母様も夫と距離を取るようにって言ってたし、本にもそう書いてある。

「全く……面倒な物を渡したものですね」

歯に絹着せぬ物言いをする侍女のエイダは、机にある本を恨めしそうに見つめた。エイダはお母様の親友だ。家が没落して、侍女兼わたくしの教育係として我が家にやってきた。お母様から、人のいない時は本音を包み隠さず伝えるようにと命令されているので今のような言い方をするが、普段は粛々と仕事をしている優秀な侍女だ。

エイダの言う面倒な物とは、お母様が嫁入り道具と共に持たせてくれた政略結婚の指南書の事だ。お父様は、長女のわたくしが産まれた時溜息を吐いたそうだ。2年後弟が産まれて、跡取りができたのだからもう良いだろうとお母様と話す事はなくなったと聞いている。

そんなお母様を支えたのが、この指南書だったそうだ。

弟はお母様が養育して、とっても優しく強い子に育った。弟が15歳で成人して家を継ぎ、わたくしは17歳で政略結婚する事になった。

お相手は、辺境伯のロバート・ウィリアム・ミッチェル様。25歳だ。彼は女嫌いで有名で、夜会にほとんど現れない。辺境伯は国を守る大事な盾だから結婚は必須だ。だけど、たくさんの令嬢とお見合いをしても上手くいかなかったそうだ。

熊のようで怖いとか、目も合わせてくれないから女嫌いなのだとか、適当な噂が飛び交っていた。いつしか、ロバート様とお見合いをしたがる令嬢はいなくなった。見かねた王太子殿下がお相手探しを始められたが、高位貴族の女性はほとんどお相手が決まっているかロバート様を嫌っている令嬢ばかり。

その事を知ったお父様は素早かった。わたくしを上手く売り込んで、婚約を成立させたのだ。うちは伯爵家だから家柄も問題ないし、わたくしは評判がそれなりに良かったので王太子殿下はとても喜んで下さった。

まずはゆっくり話そうとお見合いを勧められたが、逃げられては困ると思ったお父様が娘は乗り気だと嘘八百を並べ、いきなり結婚式が執り行われる事になってしまったのだ。

お母様と弟は憤慨していたけれど、わたくしも貴族の娘。王家が斡旋して下さった縁談を断るなんてありえない。お母様と弟を説得して、縁談をお受けする事にした。
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