30 / 52
ルビーのブローチを渡すまで逃しません
10. リアムの戸惑い
しおりを挟む
「あ、あの……」
何かを言いかけて、真っ赤な顔でオロオロしているカーラさん。参ったな。彼女は同僚なのに。
私は、ポール・ド・バルタチャ様の領地が気に入った。今までのようにすぐに辞める気はない。
……辞めたくないなんて思ったのは初めてだ。
バルタチャ家の領地は、とても居心地が良い。誰もがポール様とエリザベス様を慕っているからだ。
イアンも領民に慕われている方だと思うが、領民のポール様やエリザベス様への態度は今まで見てきたどの領地よりも暖かい。リンゼイ子爵家の領地に閉じ込められていた時は、貴族は怖いものだと誰もが思っていた。だけど、ポール様やエリザベス様は尊敬されているが距離がとても近い。
ポール様が子爵になると、自分の子どもを祝福するように領民達がポール様を祝った。ポール様もエリザベス様も、嬉しそうに領民の祝福を受けていた。
学校が始まれば、まだ読めるかあやしい手紙を毎日のようにエリザベス様に持って来る子ども達。エリザベス様は大切そうに手紙を読んでおられた。イアンの手紙と同じように、子ども達からの手紙を大切に扱っておられた。領民の名前や顔を覚えていて、細かな気配りをするエリザベス様。領地に滅多に来ないのに、来ると領民に囲まれて年相応の笑みを見せるポール様。このふたりは、私の知る貴族の中で最も貴族らしく、最も平民に近い。
貴族らしい貴族はたくさん見てきた。平民のような貴族も知っている。だが、エリザベス様とポール様はそのどちらでもない。
こんな貴族も、存在するんだな。
イアン達と親しくなった時と同じくらい、いや、それ以上に驚いた。こんな場所には、もう巡り会えないだろう。
イアンの願いだから、ポール様が成人するまでは代官を辞めないと上司には伝えてある。イアンの名前が効いたらしく、五月蝿い上司は嬉々として受け入れてくれた。
その間に、自分の抱えている仕事を全て片付ける。国王陛下には、話を通してある。笑顔で受け入れて頂けた。なんなら私からの命令にしてしまえば良い。そんな事まで言って頂けた。
私は、ポール様が成人したらバルタチャ家に仕える。正式な発表はポール様が成人してエリザベス様が結婚してからだが、既にポール様とエリザベス様の許可は得てある。大歓迎だと、とても喜んで頂けた。
やっと見つけた居場所だ。逃してたまるか。
カーラさんとは長い付き合いになる。彼女の態度や、ソフィアの言動から察するに、どうやら私はカーラさんに好かれてしまったようだ。
彼女はとても強く優秀だ。
エリザベス様が結婚したら、イアンが雇う事になるだろう。だけど、今は同僚だ。
職場で恋人を作るなんて、面倒な事になる。
確かに、彼女はソフィアが友人になるだけあってとても素晴らしい人だ。今まで私にアプローチしてきた女性とは違う。
ただ自分を見てくれと主張してくる人に興味は持てない。だが、カーラさんのように遠回しに好意をアピールされると、どうしたら良いか分からない。
ソフィアはすっかりカーラさんが気に入ったらしい。我々を放置して、笑顔で去って行った。
困った。彼女は王都に詳しくない。ソフィアの言う通り案内くらいはしたほうが良いだろう。だが、変な期待を持たせても困る。
私はもう30歳を超えている。まだ若いカーラさんには、私より良い男性がたくさんいるだろう。
何かを言いかけて、真っ赤な顔でオロオロしているカーラさん。参ったな。彼女は同僚なのに。
私は、ポール・ド・バルタチャ様の領地が気に入った。今までのようにすぐに辞める気はない。
……辞めたくないなんて思ったのは初めてだ。
バルタチャ家の領地は、とても居心地が良い。誰もがポール様とエリザベス様を慕っているからだ。
イアンも領民に慕われている方だと思うが、領民のポール様やエリザベス様への態度は今まで見てきたどの領地よりも暖かい。リンゼイ子爵家の領地に閉じ込められていた時は、貴族は怖いものだと誰もが思っていた。だけど、ポール様やエリザベス様は尊敬されているが距離がとても近い。
ポール様が子爵になると、自分の子どもを祝福するように領民達がポール様を祝った。ポール様もエリザベス様も、嬉しそうに領民の祝福を受けていた。
学校が始まれば、まだ読めるかあやしい手紙を毎日のようにエリザベス様に持って来る子ども達。エリザベス様は大切そうに手紙を読んでおられた。イアンの手紙と同じように、子ども達からの手紙を大切に扱っておられた。領民の名前や顔を覚えていて、細かな気配りをするエリザベス様。領地に滅多に来ないのに、来ると領民に囲まれて年相応の笑みを見せるポール様。このふたりは、私の知る貴族の中で最も貴族らしく、最も平民に近い。
貴族らしい貴族はたくさん見てきた。平民のような貴族も知っている。だが、エリザベス様とポール様はそのどちらでもない。
こんな貴族も、存在するんだな。
イアン達と親しくなった時と同じくらい、いや、それ以上に驚いた。こんな場所には、もう巡り会えないだろう。
イアンの願いだから、ポール様が成人するまでは代官を辞めないと上司には伝えてある。イアンの名前が効いたらしく、五月蝿い上司は嬉々として受け入れてくれた。
その間に、自分の抱えている仕事を全て片付ける。国王陛下には、話を通してある。笑顔で受け入れて頂けた。なんなら私からの命令にしてしまえば良い。そんな事まで言って頂けた。
私は、ポール様が成人したらバルタチャ家に仕える。正式な発表はポール様が成人してエリザベス様が結婚してからだが、既にポール様とエリザベス様の許可は得てある。大歓迎だと、とても喜んで頂けた。
やっと見つけた居場所だ。逃してたまるか。
カーラさんとは長い付き合いになる。彼女の態度や、ソフィアの言動から察するに、どうやら私はカーラさんに好かれてしまったようだ。
彼女はとても強く優秀だ。
エリザベス様が結婚したら、イアンが雇う事になるだろう。だけど、今は同僚だ。
職場で恋人を作るなんて、面倒な事になる。
確かに、彼女はソフィアが友人になるだけあってとても素晴らしい人だ。今まで私にアプローチしてきた女性とは違う。
ただ自分を見てくれと主張してくる人に興味は持てない。だが、カーラさんのように遠回しに好意をアピールされると、どうしたら良いか分からない。
ソフィアはすっかりカーラさんが気に入ったらしい。我々を放置して、笑顔で去って行った。
困った。彼女は王都に詳しくない。ソフィアの言う通り案内くらいはしたほうが良いだろう。だが、変な期待を持たせても困る。
私はもう30歳を超えている。まだ若いカーラさんには、私より良い男性がたくさんいるだろう。
14
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。