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第二十話

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「イオス様……ご存知でしたか」

「フランツから兄貴に情報が漏れているのは分かっていたが、いくつかフランツすら知らなかった事を邪魔された事があるからな。兄貴に情報を流したのが誰かは言わなくて良いよな?」

「はい……私です。大変申し訳ありませんでした」

「構わない。オレはさっき言っただろう? オレの近くに居る人間は信用ならないと。オレは宰相を信じていなかったんだ、宰相がオレを信じる必要はない」

「今後は、イオス様に信頼して頂けるよう努めて参ります。どうか、皇帝を目指して頂けませんか?」

「兄貴にオレの事を話してた理由はあったんだろ? ちゃんと話せ。信用するかはそれからだ」

「はい。私はイオス様が何度も毒を盛られたり、暗殺されかかっているのは分かっておりました。そして、それをフォス様が仕組んでいることも。私が表立ってイオス様を庇えば、イオス様がもっと危険になるであろう事も理解しておりました。ですから、フォス様にイオス様の情報をお渡ししていました」

「情報は、いつから渡していた?」

「1年程前からです」

「オレが宰相から情報が漏れていると気がついたのは半年前だ。半年もオレを誤魔化すとはさすがだな。それで、情報を渡したのはオレの為とでも言うのか? 確かに半年程は、毒は仕掛けられたが、暗殺はなかったな。それも貴様のお陰だとでも?」

イオスは、冷たく言い放った。それは確かに王の風格があり、宰相は跪く。

「……イオス様の味方である私が寝返れば、イオス様への悪意が薄まるとは思っていました。ですが、保身があったのは事実です。このままフォス様が皇帝になるなら、多少媚を売る方が良いと判断しました」

「それで、今は兄貴からどんな指令を受けていたんだ?」

「マリア様が妾のままなのか、イオス様の伴侶を目指すのか判断せよとの仰せでした」

「お前は、なんと報告する?」

「イオス様は、皇帝になる事を諦めておられます。マリア様ともひとときの癒しを求めたに過ぎません。イオス様は、もうすぐ死ぬだろうと申されていました。どのような意図で仰ったかは、私には教えて下さいませんでした。イオス様の願いは、イオス様が居なくなったらマリア様を保護して欲しい、それだけでした。そう、報告致します」

「最後のマリアを保護する話は報告するな。マリアは戯れでそろそろ飽きるだろうと伝えろ。オレは未だにセーラの面影を追っていると報告しろ」

「御意」

「オレが不甲斐ないから失望した、兄貴の為に働くと伝えてオレを支持する貴族を集めろ。出来るな?」

「もちろんです。お任せ下さい」

「期待しているぞ。デュバル公爵」

イオスは、半年ぶりに宰相の名を呼んだ。それは、もう一度だけ信用するという事。だが、イオスは皇帝になるとは断言しない。まだ自分は真に信頼されている訳ではない。そう感じたデュバル公爵は、イオスの信頼を得る為に全力を尽くすと誓った。
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