婚約破棄計画書を見つけた悪役令嬢は

編端みどり

文字の大きさ
1 / 49

1.婚約破棄計画書

「これは……なに?」

 いつものように婚約者の仕事を代行していたミランダは独り言を呟いた。

 ミランダは侯爵令嬢で、10歳の頃に王太子の婚約者になった。現在17歳だ。結婚まで、あと半年。ミランダが18歳になった日に王太子アルフレッドとミランダは式を挙げる。

 結婚準備は着々と進んでおり、ミランダは王城に引っ越しを済ませ、政務を行なっている。王にも、王妃にも認められている。

 特に王妃はミランダを気に入っており、一緒に仕事をして毎日のようにお茶を飲む。この後も、王妃とのティータイムの予定が入っている。

 ティータイムの前に、王太子の執務室でアルフレッドが放置した書類を整理しようとしたミランダは、とんでもない物を見つけてしまった。

「婚約破棄……計画書……?」

 ミランダが見つけたのは、アルフレッドとミランダの婚約破棄計画書だった。
読みにくい字で書かれたそれは、ミランダの悪女ぶりが5枚に渡って綴られており、婚約破棄をして男爵令嬢のソフィアと結婚するべきだと書かれている。

 ソフィアがいかに優秀で、王妃に相応しいのか10枚に渡って綴られたそれを全て読み終えたミランダは、吐き気がしてうずくまった。

「これ……アルフレッドの字じゃ……なによこれ……どうしてこんなものが……」

 これがもし、聞き覚えのない令嬢の名が書かれていればいくら婚約者のアルフレッドの字でも吐き気を催したりはしなかっただろう。

 しかしミランダは、ソフィアを知っていた。

 直接会った事はないが、婚約者であるアルフレッドがソフィアの話をしていた。ミランダを一切褒めないアルフレッドが、優秀だ、素晴らしい令嬢だと誉め称えていたので僅かに胸が痛んだのを覚えている。

 王妃もソフィアは優秀なのでミランダの侍女にしたいと言っていた。

 ミランダは、王妃が認めるなら侍女に推薦するのも悪くないと思っていた。つい先日、父に手紙を書いてソフィアの調査と見込みがある令嬢なら侍女にならないか打診して欲しいと書いて送ったばかりだ。

 調査結果はまだ届いていない。家族に今すぐ会いたいと思ったミランダは、婚約破棄計画書を隅々まで読み込み記憶してから、未処理書類の一番下に置いた。他の書類も全て確認し、期日と万が一処理されなかった場合どうなるか確認する。期日はひと月以上あり、どの書類も処理されなくても王と王妃に同じものが回っているので王族の誰かが決裁すれば仕事が進む。最悪、止まってしまっても大きな影響はない。

 そのような書類しか回されなくなった婚約者を情けなく思いながら、ミランダは涙を堪えて深呼吸した。

 アルフレッドの仕事が遅いと誰もが知っているので、最近はアルフレッドに回る書類が少なくなっていた。文官達は可能な限り王や王妃に決裁を回し、アルフレッドに回す書類は最低限。ミランダが実家に帰れば、アルフレッドに書類を回す文官はいないのでこれ以上書類が増えることはない。

 文官達の合言葉は、あと半年の我慢。ミランダが結婚し王族になれば、ミランダの決裁で仕事を進められるようになるからだ。

 ミランダは、小声で情報を整理し始めた。

「式の準備だと言えば、帰れるわよね……ううん、いっそソフィア嬢の件を言い訳にして……王妃様のお茶会で帰宅の許可を取って、晩餐の時に報告して……今夜中に帰れば……なんとか覚えていられる。その前に、アルフレッドと話をする? いや、それは無理……忘れちゃう……影も……家なら……」

 ミランダは何度も深呼吸を繰り返し、溢れる涙をハンカチで拭い化粧を直して部屋を出た。汚い字で書かれた婚約破棄計画書が、書類の一番下で潰されていた。
感想 78

あなたにおすすめの小説

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

婚約破棄されましたが、貴方はもう王太子ではありませんよ

榎夜
恋愛
「貴様みたいな悪女とは婚約破棄だ!」 別に構いませんが...... では貴方は王太子じゃなくなりますね ー全6話ー