3 / 49
3.最後の贈り物
ミランダは、茶会が終わるとすぐに家に戻る準備を始めた。自室で少し気を抜いたミランダは、小さなため息を吐く。
「あの、ミランダ様……」
普段は黙って仕事をする侍女のマリアが、意を決してミランダに話しかけた。
「どうしたの? マリア」
「ミランダ様だけが、我慢……」
すぐにマリアの言いたいことを察したミランダは、マリアの言葉を遮った。
「側妃の件よね。王妃様が正しいわ。マリアもそう思うでしょ?」
「は……はい」
戸惑いながら返事したマリアにミランダは笑顔で話しかける。
「アルフレッド殿下もよくソフィア嬢の話をしているもの。王の癒しになる方はたくさんいるべきよ。今は側妃様がいらっしゃらないけど、王に側妃様がいるのは普通の事よ」
マリアの目をじっと見つめてから、天井裏に視線を移す。マリアはハッとした顔をして、黙って頭を下げた。
「侍女と聞いていたからソフィア嬢を側妃にしようとなさってるなんて知らなくて。王妃様のお心に気付かなくて、申し訳ないことをしたわ。だからね、急いでお父様にご相談しないといけないの。王妃様も、ソフィア嬢が公爵令嬢なら正妃にしても良いとおっしゃっていたでしょう? わたくしはお会いしたことがないから分からないけれど、きっと素晴らしいご令嬢なのよ。わたくしは、王家に忠誠を誓っているわ。国王陛下や王妃様、アルフレッド殿下の望みを叶えなければいけないと思ってるの」
侍女たちは、ミランダに監視が付いていると知っているので個人的な会話をしないようにしている。
だが、王妃やアルフレッドの振る舞いがあまりに酷いときは、マリアのようにミランダを慰めようとする。
しかしそれは、王家を批判する行いに他ならない。以前、ミランダを庇った侍女が解雇されてからミランダは侍女たちが何かを言おうとすると先回りして王家を褒めるようになった。
マリアは目に涙を浮かべて口を閉ざし、仕事に集中した。荷造りを済ませたミランダは、宝石箱をマリアに手渡した。
「お世話になった侍女の皆さんにお礼をしたくて用意したの。結婚後もお世話になるし今後もよろしくということでお渡ししようと思っていて。本当はわたくしから直接お渡ししたかったのだけど、王妃様のご命令だから急いで家に戻らないといけなくて。だからマリア、この宝石箱にある真珠を侍女のみんなに渡して下さらない? みんなも、マリアに協力して欲しいの。マリア、一粒手に取ってみて」
「ミランダ様、これは……」
宝石をミランダから手渡されたマリアは、目を見開いた。
「うちの特産の真珠よ。王妃様に毎年献上しているサイズの半分もないけれど、美しいでしょう? 一粒ずつになってしまうからささやかなものだけれど、良かったら受取って欲しいの。大きさがそれぞれ違うのは、許して頂戴」
真珠は、三分の一だけミランダの家の家紋が刻まれていた。サイズが違うとミランダが説明しながら家紋のない真珠をマリアに見せる。伯爵令嬢でとある男の婚約者でもあるマリアは、家紋付きの宝石がもつ意味を知っていた。ミランダがこの宝石を自分に託した理由を理解したマリアは、黙ってミランダに頭を下げた。
影はミランダを監視しているが、真珠に刻まれた小さな家紋には気付けない。
会話さえしなければ、ミランダの真意が王家に伝わることはない。
「あの、ミランダ様……」
普段は黙って仕事をする侍女のマリアが、意を決してミランダに話しかけた。
「どうしたの? マリア」
「ミランダ様だけが、我慢……」
すぐにマリアの言いたいことを察したミランダは、マリアの言葉を遮った。
「側妃の件よね。王妃様が正しいわ。マリアもそう思うでしょ?」
「は……はい」
戸惑いながら返事したマリアにミランダは笑顔で話しかける。
「アルフレッド殿下もよくソフィア嬢の話をしているもの。王の癒しになる方はたくさんいるべきよ。今は側妃様がいらっしゃらないけど、王に側妃様がいるのは普通の事よ」
マリアの目をじっと見つめてから、天井裏に視線を移す。マリアはハッとした顔をして、黙って頭を下げた。
「侍女と聞いていたからソフィア嬢を側妃にしようとなさってるなんて知らなくて。王妃様のお心に気付かなくて、申し訳ないことをしたわ。だからね、急いでお父様にご相談しないといけないの。王妃様も、ソフィア嬢が公爵令嬢なら正妃にしても良いとおっしゃっていたでしょう? わたくしはお会いしたことがないから分からないけれど、きっと素晴らしいご令嬢なのよ。わたくしは、王家に忠誠を誓っているわ。国王陛下や王妃様、アルフレッド殿下の望みを叶えなければいけないと思ってるの」
侍女たちは、ミランダに監視が付いていると知っているので個人的な会話をしないようにしている。
だが、王妃やアルフレッドの振る舞いがあまりに酷いときは、マリアのようにミランダを慰めようとする。
しかしそれは、王家を批判する行いに他ならない。以前、ミランダを庇った侍女が解雇されてからミランダは侍女たちが何かを言おうとすると先回りして王家を褒めるようになった。
マリアは目に涙を浮かべて口を閉ざし、仕事に集中した。荷造りを済ませたミランダは、宝石箱をマリアに手渡した。
「お世話になった侍女の皆さんにお礼をしたくて用意したの。結婚後もお世話になるし今後もよろしくということでお渡ししようと思っていて。本当はわたくしから直接お渡ししたかったのだけど、王妃様のご命令だから急いで家に戻らないといけなくて。だからマリア、この宝石箱にある真珠を侍女のみんなに渡して下さらない? みんなも、マリアに協力して欲しいの。マリア、一粒手に取ってみて」
「ミランダ様、これは……」
宝石をミランダから手渡されたマリアは、目を見開いた。
「うちの特産の真珠よ。王妃様に毎年献上しているサイズの半分もないけれど、美しいでしょう? 一粒ずつになってしまうからささやかなものだけれど、良かったら受取って欲しいの。大きさがそれぞれ違うのは、許して頂戴」
真珠は、三分の一だけミランダの家の家紋が刻まれていた。サイズが違うとミランダが説明しながら家紋のない真珠をマリアに見せる。伯爵令嬢でとある男の婚約者でもあるマリアは、家紋付きの宝石がもつ意味を知っていた。ミランダがこの宝石を自分に託した理由を理解したマリアは、黙ってミランダに頭を下げた。
影はミランダを監視しているが、真珠に刻まれた小さな家紋には気付けない。
会話さえしなければ、ミランダの真意が王家に伝わることはない。
あなたにおすすめの小説
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)
婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに
hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。
二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。