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33.義務
「そうね。前はそう思っていたのに、城に行ってからはそう思えなくなっていたわ」
「とんでもない奴らだ。すまなかった、気付けず辛い思いをさせた」
「わたくしはなにも言わなかったもの。分かるわけないわ」
「けど、トムは気付いた。里帰りしたミランダの様子がおかしいのは、影が見張っているせいだと思っていた。ミランダもそう言っていたから、信じてしまって。けど、トムは違った。それだけではないと気付いていた。ミランダからあの男爵令嬢を調べて欲しいと連絡が来た頃、トムは城に侵入して王太子達を調べた。トムが帰って報告を受けてすぐ、あのとんでない計画書を読んだミランダが帰ってきた」
「え⁈ 城に侵入って……今みたいに使用人としてじゃないわよね?」
「密偵として、だな」
「影がたくさん潜んでいるのに! そんな無茶をしたの⁈」
「見つかったら終わりだからな。命懸けだったと思うぞ」
「うう……トムが無事で良かったわ。ねぇ、今は大丈夫なのかしら?」
「分からん。だが、ミランダと婚約が整ったし、仮の身分もある。無茶はしないと思うぞ」
「お兄様、正直に言い過ぎですわ。不安になってきたではありませんか」
「絶対なんてない。今回は王太子が単純だったから助かったが……」
ヒースが突然、無言になった。なにかに気付き、考え込んでいる様子だ。
「お兄様?」
「あ……ああ、すまないミランダ。今頃、王太子はどこにいるのだろうと思って」
「どうかしら……国王陛下は、まだ諦めていないご様子だったから……おそらくニコラス辺りを付けて鍛え直している最中だと思うわ」
「ニコラスか。彼は真面目だからな。最後まで王太子に付き添うだろう。彼が付きっきりで鍛えれば、まだ望みはあるのか?」
「可能性としては、数パーセントといったところかしらね。大多数の貴族はエドガー様を支持していると思うわ。うちが王太子派を抜けたのも大きいわね。いくら国王陛下に絶大な権力があっても、貴族の意向を無視できない。アルフレッド殿下解任の審議は、きっと開かれる。エドガー様を支持している貴族達がこの好機を逃すわけない」
「過半数の貴族が認めない場合は王太子ではなくなるのだったか?」
「三分の二よ。まぁでも、過半数も間違いではないわ。過半数の貴族が認めなければ、大抵は国王が王太子を切り捨てるもの。支持されない王はいらない。それがこの国の決まりごとよ。ところでお兄様、侯爵家の跡取りなのに詳しく知らないってどういうこと?」
「はは、すまん、すまん。ほら、うちは伯爵家だったし」
「侯爵になって、何年経つと思っているのよ!」
「ミランダが王妃教育を受けるために城に行ってからだから……かれこれ五年前か」
十二歳になってすぐ、ミランダは城に引っ越した。
「もうそんなに前になるのね」
「帰ってくる度に淑女らしくなるミランダを見て、俺もしっかりしないといけないと思った。だからマリアに助けて貰いながら、苦手な勉強を頑張った。ミランダも頑張っていると思えば、不思議と頑張れたよ。だけど、まだまだだな」
「お兄様……」
「だが、そんな俺だからできることもある。マリアは、俺が平民になってもついていくと言ってくれた。マリアの家族も、認めてくれた。だから、俺達の未来を気にする必要はない。ミランダ、本当はどうしたい? もう貴族に嫌気がさしているのではないか? トムと一緒なら、どこでだって暮らしていける。トムはミランダを好いている。ミランダと結婚する為なら貴族でもなんでもするだろう。彼はそれができる。だが、ミランダが平民として暮らしたいと言えば……」
「お兄様、それは無理よ。トムはおそらく、エドガー様の庇護下にあるわ。トムは優秀よ。実力主義のエドガー様がトムを放っておくわけない。わたくしもトムと同じ。王族の秘密は知らなくても、使える人材……使える駒を野放しにするほど、あの方は優しくない」
「だが……ミランダはずっとつらい思いをしてきて……」
「貴族として生まれて、貴族として育てられたのだから、義務を果たす必要があるわ。お兄様だって、平民になっても領民達を守るつもりはあるでしょう?」
「もちろんだ。平民になるなら、商会でも作ってみんなを雇おうと思っていたぞ」
「でしょ。お兄様は貴族の義務を果たしている。トムは貴族の義務を果たす覚悟がある。エドガー様は、王族の義務を果たしているわ。でも……アルフレッド殿下は王族の義務を面倒だとわたくしに押し付ける。あれだけ優秀な侍従や側近がいるのに、義務を果たす覚悟もない。アルフレッドが不要だと言えば、ニコラス達は何もできない。王妃になるわたくしが支えればなんとかなると思っていたけど、わたくしだけが頑張っても仕方ない。だから、彼は王になってはいけないの。わたくしは、民を守る為にアルフレッドを見捨てると決めた。ふふ、まるで悪役ね」
「民を第一に考えるのは貴族や王族なら当然だ。それに、見捨てられる行為をする方が悪い」
「相変わらず辛辣ね。もう少し婉曲な表現を学んでちょうだい」
「外では上手くやっている。信頼する妹の前でくらい、素の自分を出しても良いだろう」
兄は妹に笑いかけながら、未来の弟に会う為、エドガーを訪ねようと決めた。ふと沸いた疑問を解決しなければ、大事な妹は任せられないと思ったからだ。
「とんでもない奴らだ。すまなかった、気付けず辛い思いをさせた」
「わたくしはなにも言わなかったもの。分かるわけないわ」
「けど、トムは気付いた。里帰りしたミランダの様子がおかしいのは、影が見張っているせいだと思っていた。ミランダもそう言っていたから、信じてしまって。けど、トムは違った。それだけではないと気付いていた。ミランダからあの男爵令嬢を調べて欲しいと連絡が来た頃、トムは城に侵入して王太子達を調べた。トムが帰って報告を受けてすぐ、あのとんでない計画書を読んだミランダが帰ってきた」
「え⁈ 城に侵入って……今みたいに使用人としてじゃないわよね?」
「密偵として、だな」
「影がたくさん潜んでいるのに! そんな無茶をしたの⁈」
「見つかったら終わりだからな。命懸けだったと思うぞ」
「うう……トムが無事で良かったわ。ねぇ、今は大丈夫なのかしら?」
「分からん。だが、ミランダと婚約が整ったし、仮の身分もある。無茶はしないと思うぞ」
「お兄様、正直に言い過ぎですわ。不安になってきたではありませんか」
「絶対なんてない。今回は王太子が単純だったから助かったが……」
ヒースが突然、無言になった。なにかに気付き、考え込んでいる様子だ。
「お兄様?」
「あ……ああ、すまないミランダ。今頃、王太子はどこにいるのだろうと思って」
「どうかしら……国王陛下は、まだ諦めていないご様子だったから……おそらくニコラス辺りを付けて鍛え直している最中だと思うわ」
「ニコラスか。彼は真面目だからな。最後まで王太子に付き添うだろう。彼が付きっきりで鍛えれば、まだ望みはあるのか?」
「可能性としては、数パーセントといったところかしらね。大多数の貴族はエドガー様を支持していると思うわ。うちが王太子派を抜けたのも大きいわね。いくら国王陛下に絶大な権力があっても、貴族の意向を無視できない。アルフレッド殿下解任の審議は、きっと開かれる。エドガー様を支持している貴族達がこの好機を逃すわけない」
「過半数の貴族が認めない場合は王太子ではなくなるのだったか?」
「三分の二よ。まぁでも、過半数も間違いではないわ。過半数の貴族が認めなければ、大抵は国王が王太子を切り捨てるもの。支持されない王はいらない。それがこの国の決まりごとよ。ところでお兄様、侯爵家の跡取りなのに詳しく知らないってどういうこと?」
「はは、すまん、すまん。ほら、うちは伯爵家だったし」
「侯爵になって、何年経つと思っているのよ!」
「ミランダが王妃教育を受けるために城に行ってからだから……かれこれ五年前か」
十二歳になってすぐ、ミランダは城に引っ越した。
「もうそんなに前になるのね」
「帰ってくる度に淑女らしくなるミランダを見て、俺もしっかりしないといけないと思った。だからマリアに助けて貰いながら、苦手な勉強を頑張った。ミランダも頑張っていると思えば、不思議と頑張れたよ。だけど、まだまだだな」
「お兄様……」
「だが、そんな俺だからできることもある。マリアは、俺が平民になってもついていくと言ってくれた。マリアの家族も、認めてくれた。だから、俺達の未来を気にする必要はない。ミランダ、本当はどうしたい? もう貴族に嫌気がさしているのではないか? トムと一緒なら、どこでだって暮らしていける。トムはミランダを好いている。ミランダと結婚する為なら貴族でもなんでもするだろう。彼はそれができる。だが、ミランダが平民として暮らしたいと言えば……」
「お兄様、それは無理よ。トムはおそらく、エドガー様の庇護下にあるわ。トムは優秀よ。実力主義のエドガー様がトムを放っておくわけない。わたくしもトムと同じ。王族の秘密は知らなくても、使える人材……使える駒を野放しにするほど、あの方は優しくない」
「だが……ミランダはずっとつらい思いをしてきて……」
「貴族として生まれて、貴族として育てられたのだから、義務を果たす必要があるわ。お兄様だって、平民になっても領民達を守るつもりはあるでしょう?」
「もちろんだ。平民になるなら、商会でも作ってみんなを雇おうと思っていたぞ」
「でしょ。お兄様は貴族の義務を果たしている。トムは貴族の義務を果たす覚悟がある。エドガー様は、王族の義務を果たしているわ。でも……アルフレッド殿下は王族の義務を面倒だとわたくしに押し付ける。あれだけ優秀な侍従や側近がいるのに、義務を果たす覚悟もない。アルフレッドが不要だと言えば、ニコラス達は何もできない。王妃になるわたくしが支えればなんとかなると思っていたけど、わたくしだけが頑張っても仕方ない。だから、彼は王になってはいけないの。わたくしは、民を守る為にアルフレッドを見捨てると決めた。ふふ、まるで悪役ね」
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