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34.二年前
ミランダとヒースが会話をしている頃、トムはエドガーの元にいた。
「なるほどね。それじゃあ分からない訳だ。王妃の所でもなく、兄上の所でもない。普通の客室に紛れさせているなんて思わなかったよ。あそこ、隠し部屋があるのか。良いことを聞いた。見張りは?」
「いないようです。ただ、アルフレッド殿下が部屋を出る様子はありませんね。会えるのはニコラス様を含めて二人だと聞きました。いつもニコラス様が付いておられるわけではないようです」
「多分、勝手に部屋を出たら廃嫡だと脅されているのだろう。まさかあそこに潜んでいるとは思わなかったなぁ」
「王弟殿下の知らない隠し部屋もあるのですね」
「そりゃあるよ。ニコラスはマークしていたけど、あそこは貴族達が当たり前に使うし、ニコラスもよく寝泊まりしていたから怪しいと思わなかった」
「あそこは、本来は王族の方がいる場所ではないということですか?」
「その通り。だから気付けなかった」
トムがサラサラと隠し部屋の間取りを描くと、エドガーが口笛を吹いた。
「ねぇ、ここに行ったのは初めて?」
「いいえ」
「やっぱり。ニコラスがいたのなら、近づいたりしていないだろう? ここは初見で気付ける場所じゃない。ニコラスが消えた部屋にも入ったことがあるだろう?」
「あります。隠し部屋には気付けませんでしたけど」
「今回は、入っていないよね?」
「ええ、ニコラス様に見つかったら終わりですし。ご命令は、アルフレッド殿下の居場所を特定する事でしたから無駄なリスクを負う必要はありません。ソフィア嬢は、未だに行方が分かっていません。引き続き捜索します。俺は執事をやめた方が良いですか? それとも、まだ侵入していた方が良いでしょうか?」
「すぐ辞めれば警戒される。通常業務を続けてくれ。今後は城で諜報活動をするな」
「かしこまりました」
「トム、君はいつから城に侵入していた?」
「二年前からです」
「ずいぶん前だね。城に侵入するリスクは分かっているよね?」
「見つかれば即処刑ですよね。だから侵入する時は身元が分からないようにしていました」
「若いのに、肝が座っているなぁ。死ぬのは怖くなかった?」
「怖くなかったですね。あの頃は」
「今は?」
「怖いです」
エドガーは目を細め、僅かにほほ笑んだ。
「正直だね」
「嘘を吐いても露見するのですから正直にお答えするしかないでしょう」
「まぁ、そうだね。正直な部下を持てて嬉しいよ」
「俺はまだ、エドガー様の影ではありません。貴方に逆らうつもりはありませんが、部下ではない」
「その方が都合いいからね。けど、君を手放す気はないよ。たとえ、ミランダが平民になると言ってもね」
「ミランダが平民として平穏に暮らせるなら、俺はここに来ていません。エドガー様以外の王族は信用できない。だったら、貴方に縋るしかないでしょう」
思い詰めた表情のトムを見て、エドガーは気付いた。あの夜会まで兄やアルフレッド、エドガーやミランダ自身すら知らなかったミランダの価値。それを、目の前で震えている少年は知っているのだと。
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