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41.口付け
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「トム、お顔が真っ赤よ」
「うるせぇ」
「あら、貴族らしくないお言葉ね」
「俺が平民だろうと貴族だろうと、もう遠慮しねぇ。ミランダが俺を好きだって分かったからな」
「ふふ、もっと早くこの気持ちに気付いていれば、王妃教育なんてしなくて良かったのに」
「そしたらミランダが苦しまなくて済んだ。あんな風に、こっそり泣く必要だってなかった」
「ま、それも成長の糧になったし構わないわ。それに、今は幸せだもの」
「前向きだな。ミランダのそんなところも好きだぜ」
「嬉しいわ。あの人は、一度もそんなこと言ってくれなかった」
「やっぱ、未練あるか?」
「いーえ、全くないわ。言ったでしょ? わたくしはずっとトムが好きだったの。あの人が優しければ気持ちが移ったかもしれない。でも、あの人は優しくなかった」
「俺なら、ミランダを苦しめないのに……ずっとそう思っていた」
「あの頃は自分の気持ちに気付いてなかったけど、トムの顔を見ると安心したわ」
「その顔、ずいぶん可愛いな」
「この間の夜会で分かったわ。わたくしは、とってもとってもトムが好きみたい。だって、トムがシャーリー様と親しそうに話しているのを見て嫉妬したのよ。嫉妬なんて、一生しないと思っていたのに!」
「嫉妬? ミランダが?」
「そうよ。姉様に気付かれたわ。恥ずかしかった」
「あー……多分、他に気付いている奴はいねぇから安心しな」
「ほんと?」
「マリア様はミランダが大好きだし、事情もご存知だからな。あの時は仕事をしながらずっとミランダを注視していたそうだから、偶々気付いたのだろう」
「そっか。なら良いわ」
なにかを言いかけたミランダは、自らの言葉を飲み込んだ。言えない事を聞いても、互いにしんどいだけだから。ミランダの気遣いを感じ取ったトムは、そっとミランダの頭を撫でた。
「ミランダは、優しいな」
「なによ、急に。そんなこと言われたことないわよ」
「城の奴らの目が曇っているだけだ。ミランダを苦しめたあいつらはぶっ壊す」
「もう、そんな気ないくせに。発言が過激よ」
「そんな気、あるぜ。だっておかしいだろうよ。あんだけ大人がいたのに、なんでミランダ頼りなんだ」
「そうなのよね。ここに来てから、異常だったなって初めて気づいたわ。あそこにいる時は、何故かおかしいと思えなかったのよ」
「あの王妃、人を操るのが上手かったからなぁ」
「トムまさか、城に忍び込んでいたの?」
「おう。王妃の様子も見ていたぜ。影に見つからないようにするのが大変だったけど、見つからなかったし問題ねぇだろ」
「大ありよ! いくらトムが優秀でも、王家の影に見つかったら命はないわ。お願い、わたくしはここにいるわ。もう城に勝手に行ったりしないで」
「分かったよ。仕事以外で城に行ったりしねぇから」
「ありがとう。アルフレッド殿下に復讐しようなんて考えなくていいからね!」
「え、考えるだろ? ありとあらゆる方法で破滅させてやろうと思っているけど」
「やめて! 王族に手を出したらトムが危ないわ」
「ミランダの頼みでも、聞けねぇよ。ミランダが蔑ろにされていると分かった旦那様はなんとか婚約を解消できねぇか、色々奔走なさっていた。けど、その頃にはミランダなしじゃ政務が進まないようになっていてさ、あの馬鹿、本気で何もしねぇじゃん?」
「そうなのよ。あの頃は、王太子は忙しいのだから支えるのが当然だと思っていたわ」
「そう思う方が、楽だからな。やらされているだけの仕事は疲れるし、いつか疑問に思う日が来る。けど、自分の意思で選んだと思えば、責任感の強いミランダは仕事を投げ出したりしねぇ。王妃が刷り込んだせいもあるだろうけど、普通王族との婚約が無しになるなんてありえねぇだろ。だからミランダは、自分を守るためにあの男を支えようと思った。ま、全部俺の推測だけどさ。ミランダがそこまでして尽くしたのに、当たり前だと思っている王太子は許せない。だから、徹底的に潰す」
トムの目が怪しく光った。ミランダは、じっとトムを見つめ……トムの唇に自分の唇を重ねた。
「なっ!」
「ふふ、いつものトムだわ。さっきの怖いトムも素敵だけど、わたくしの為に怒る必要はないわ。だって、わたくしはとっても幸せだもの」
「ミランダ……俺が怖くねぇのか?」
「怖くないわ。どんなトムも好きよ。わたくしが知らないトムも、今目の前で真っ赤な顔で戸惑っているトムも素敵。トムがどこで何をしていても、わたくしはトムを信じるわ。だけど、一つだけ約束して」
「約束?」
「絶対、帰って来て」
「分かった。約束する」
「わたくし、初めて口付けをしたわ。責任取って、一生側にいて頂戴ね」
「俺だって初めてだよ」
「お互い初めてだったのね。ねぇトム」
「なんだよ……」
「なんだかとっても幸せなの。もう一回、いいかしら?」
「くっそ、相変わらず俺の気持ちを翻弄するのが上手いお嬢様だぜ。これだけ俺を煽ったんだ、覚悟しろよ」
トムはミランダの顎に手をかけ、柔らかな唇を乱暴に貪った。トムに翻弄されたミランダがぐったりしている頃、アルフレッドはバーナード侯爵家の領地にたどり着いた。誰もいない屋敷に転がる傷だらけの真珠をかき集めながら、ミランダを探した。しかしミランダは見つからなかった。影達に説得され、傷だらけの真珠を抱えて城に戻るアルフレッドはブツブツとミランダの名を呼び続けていた。
数日後、全ての影が自分の家の家紋を刻んだコインにアルフレッドの名を刻み、先祖代々伝わる廃墟に置いた。
「うるせぇ」
「あら、貴族らしくないお言葉ね」
「俺が平民だろうと貴族だろうと、もう遠慮しねぇ。ミランダが俺を好きだって分かったからな」
「ふふ、もっと早くこの気持ちに気付いていれば、王妃教育なんてしなくて良かったのに」
「そしたらミランダが苦しまなくて済んだ。あんな風に、こっそり泣く必要だってなかった」
「ま、それも成長の糧になったし構わないわ。それに、今は幸せだもの」
「前向きだな。ミランダのそんなところも好きだぜ」
「嬉しいわ。あの人は、一度もそんなこと言ってくれなかった」
「やっぱ、未練あるか?」
「いーえ、全くないわ。言ったでしょ? わたくしはずっとトムが好きだったの。あの人が優しければ気持ちが移ったかもしれない。でも、あの人は優しくなかった」
「俺なら、ミランダを苦しめないのに……ずっとそう思っていた」
「あの頃は自分の気持ちに気付いてなかったけど、トムの顔を見ると安心したわ」
「その顔、ずいぶん可愛いな」
「この間の夜会で分かったわ。わたくしは、とってもとってもトムが好きみたい。だって、トムがシャーリー様と親しそうに話しているのを見て嫉妬したのよ。嫉妬なんて、一生しないと思っていたのに!」
「嫉妬? ミランダが?」
「そうよ。姉様に気付かれたわ。恥ずかしかった」
「あー……多分、他に気付いている奴はいねぇから安心しな」
「ほんと?」
「マリア様はミランダが大好きだし、事情もご存知だからな。あの時は仕事をしながらずっとミランダを注視していたそうだから、偶々気付いたのだろう」
「そっか。なら良いわ」
なにかを言いかけたミランダは、自らの言葉を飲み込んだ。言えない事を聞いても、互いにしんどいだけだから。ミランダの気遣いを感じ取ったトムは、そっとミランダの頭を撫でた。
「ミランダは、優しいな」
「なによ、急に。そんなこと言われたことないわよ」
「城の奴らの目が曇っているだけだ。ミランダを苦しめたあいつらはぶっ壊す」
「もう、そんな気ないくせに。発言が過激よ」
「そんな気、あるぜ。だっておかしいだろうよ。あんだけ大人がいたのに、なんでミランダ頼りなんだ」
「そうなのよね。ここに来てから、異常だったなって初めて気づいたわ。あそこにいる時は、何故かおかしいと思えなかったのよ」
「あの王妃、人を操るのが上手かったからなぁ」
「トムまさか、城に忍び込んでいたの?」
「おう。王妃の様子も見ていたぜ。影に見つからないようにするのが大変だったけど、見つからなかったし問題ねぇだろ」
「大ありよ! いくらトムが優秀でも、王家の影に見つかったら命はないわ。お願い、わたくしはここにいるわ。もう城に勝手に行ったりしないで」
「分かったよ。仕事以外で城に行ったりしねぇから」
「ありがとう。アルフレッド殿下に復讐しようなんて考えなくていいからね!」
「え、考えるだろ? ありとあらゆる方法で破滅させてやろうと思っているけど」
「やめて! 王族に手を出したらトムが危ないわ」
「ミランダの頼みでも、聞けねぇよ。ミランダが蔑ろにされていると分かった旦那様はなんとか婚約を解消できねぇか、色々奔走なさっていた。けど、その頃にはミランダなしじゃ政務が進まないようになっていてさ、あの馬鹿、本気で何もしねぇじゃん?」
「そうなのよ。あの頃は、王太子は忙しいのだから支えるのが当然だと思っていたわ」
「そう思う方が、楽だからな。やらされているだけの仕事は疲れるし、いつか疑問に思う日が来る。けど、自分の意思で選んだと思えば、責任感の強いミランダは仕事を投げ出したりしねぇ。王妃が刷り込んだせいもあるだろうけど、普通王族との婚約が無しになるなんてありえねぇだろ。だからミランダは、自分を守るためにあの男を支えようと思った。ま、全部俺の推測だけどさ。ミランダがそこまでして尽くしたのに、当たり前だと思っている王太子は許せない。だから、徹底的に潰す」
トムの目が怪しく光った。ミランダは、じっとトムを見つめ……トムの唇に自分の唇を重ねた。
「なっ!」
「ふふ、いつものトムだわ。さっきの怖いトムも素敵だけど、わたくしの為に怒る必要はないわ。だって、わたくしはとっても幸せだもの」
「ミランダ……俺が怖くねぇのか?」
「怖くないわ。どんなトムも好きよ。わたくしが知らないトムも、今目の前で真っ赤な顔で戸惑っているトムも素敵。トムがどこで何をしていても、わたくしはトムを信じるわ。だけど、一つだけ約束して」
「約束?」
「絶対、帰って来て」
「分かった。約束する」
「わたくし、初めて口付けをしたわ。責任取って、一生側にいて頂戴ね」
「俺だって初めてだよ」
「お互い初めてだったのね。ねぇトム」
「なんだよ……」
「なんだかとっても幸せなの。もう一回、いいかしら?」
「くっそ、相変わらず俺の気持ちを翻弄するのが上手いお嬢様だぜ。これだけ俺を煽ったんだ、覚悟しろよ」
トムはミランダの顎に手をかけ、柔らかな唇を乱暴に貪った。トムに翻弄されたミランダがぐったりしている頃、アルフレッドはバーナード侯爵家の領地にたどり着いた。誰もいない屋敷に転がる傷だらけの真珠をかき集めながら、ミランダを探した。しかしミランダは見つからなかった。影達に説得され、傷だらけの真珠を抱えて城に戻るアルフレッドはブツブツとミランダの名を呼び続けていた。
数日後、全ての影が自分の家の家紋を刻んだコインにアルフレッドの名を刻み、先祖代々伝わる廃墟に置いた。
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