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第九話

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「せ……洗礼……」

「とうした? ソレル公爵。まさかと思うが、マリー嬢は洗礼を受けていないのか? 茶会の参加が10歳からとなっていたのは、洗礼を受けた子である事と言う意味だったのだが、ソレル公爵とあろう者が分かってなかった訳ではあるまい?」

「そ……それは……」

「大丈夫だ。私はマリーさん以外と結婚する気はないからな。手続きに不備があっては困るので、先程神殿に行ってきた。ソレル公爵、マリーさんの洗礼の書類は私が取り寄せておいたよ。こちらで間違いないかい?」

そう言ってセドリックは、日付の部分に指を置いて父に書類を見せます。

父は何の事か分からないといった顔をしましたが、セドリックが畳み掛けるようにさすがソレル公爵、多額の寄付金だね。などと煽てた辺りでニヤリと笑って言いました。

「さすが王子! 仕事が早いですな!」

「ええ、私はマリーさんと絶対に結婚したいのです」

「まぁ、洗礼をしてないなどあり得ないからな。今回は息子の勇み足で書類を揃えてしまい申し訳ない。本来なら、きちんと私が神殿に行って調べないといけないのだが」

「父上、この書類に不備はありません」

「そ、そうです! 私はきちんとマリーに洗礼を受けさせました!」

「この謁見の間で虚偽を申した者は処罰されるからな。ソレル公爵が嘘を言う訳あるまい。セドリックが持参した書類に不備もないようなので婚約の手続きを進めて良いか? あとはソレル公爵のサインで婚約は成る。神殿長様もいらっしゃるので、すぐ受理していただく」

「はい! すぐにサインします!」

「公爵、きちんと読んでくれ」

「大丈夫です! 読みました!」

絶対読んでません。ですが、洗礼の事を指摘された父は慌てております。

どうやら、セドリックが書類を偽造したと思っているようですけど……そんな後からボロが出るようなお粗末な仕事をセドリックがする訳ありません。

日付までチェックしないあたり、相変わらず適当ですわね。そういえば父は書類仕事が苦手でした。

いつもわたくしに押し付けていましたよね。

……ああ、だから家を出さずに使用人のようにこき使おうとしたのですね。娘なら給金もかかりませんしね。

わたくしの見た目では、政略結婚の駒にはならないと思っていたのでしょう。それが予想外に王子の婚約者、父の脳内は、算盤がパチパチ弾かれている事でしょう。

「よし、神殿長、受理してくれ」

「かしこまりました。今この時をもってセドリック・ル・メディシスと、マリー・ド・ソレルの婚約を受理します。条件は、マリー嬢が結婚するまでは城で暮らす事。それから、ソレル公爵とマリー嬢との縁を切る事……」

「なっ……!」

「以上の条件をお互い同意の上承認した事を認めます。今回の契約内容は、すぐに神殿で公告致します。それではお幸せに」
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