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希望を失った堕落へ……の道
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血で濡れる包丁を握る手が震える
こんなはずじゃなかったのに自然と上がる口角を必死に抑えながら私は思った。
結婚生活も早5年「なんでこんなことになってるんだろうな」と振りかぶられる拳を見ながら私は思った、
あの人と会ったのは大学のサークルだった。
内気だった私は人と話すことも出来ず友人も少なかった、唯一話せる人と言えば小さい頃からの幼なじみの結だった
結は人懐っこくて小さい頃から人気者だった
もちろん私はクラスの隅っこに居るような人間で、話しかけられた時は困惑したなんでこんな人気者が私なんかに、
「ねぇねぇ!」
と弾けるような笑顔で話しかけてきた 「な、なに」
「なによんでるの?」
私は本に視線を向けた
「太宰治、」
「むずかしいのよんでるねー」
その一言を言って結は友達の元へ走っていった
「ねぇねぇ灯ー」
小学校から変わらない弾けるような笑顔で言ってきた
「今日サークルの飲み会じゃん?どんな服着ようかなー」
「え、そうなの?」
「知らなかったの?」
知るわけない元々結が誘ってきたので入ったのだ興味などなかった
「私はーめっちゃお洒落しようかなー」
「結は私と違って可愛いからお洒落しなくてもお洒落に見えるよ」
「もーまたそんなネガティブなこと言って」
本当のことだ、結は万人受けするような美と性格を持ち合わせている
目は大きく二重で、今咲いたばかりの花の様な生き生きとした美しさと華がある
それに比べて私はそう際立って特別と言えるようなものは無い
所謂『普通』だった
勉強も普通、運動神経も普通
全部が『普通』だ
「ねぇ聞いてるー?」
そんなことを考えていたら横から結がひょこっと現れた
「ごめん、なんだっけ」
「もー、サークルの飲み会!!灯はどんな服着るの?」
「ん~…Tシャツにジーパンでいいかな」
「もー。ふつーだね」
「いいの普通で、普通が1番」
「ふーん、私はお洒落に行こっ」
「いいな、結は明るくて太陽みたい」
「灯も『灯』でしょ?それに太陽までいかなくても人を照らすことぐらいできるよ」
「名前だけだよそんなの」
私の父と母は私に明るい子になって欲しいと思って『灯』と名付けたらしい
そんなことも知らずにこんなネガティブな人間になってしまったと思うと両親には申し訳ないなと心の中で思った
「かんぱーい!!」
それと同時に皆がザワザワと騒ぎ出す
「えー何食べる何食べる?」
「えっ、と私は枝豆でいいかな」
「灯おっさんやん笑」
「そう、かな」
「はーい!私シーザーサラダ!!」
「結は枝豆とは違うなー!!」
「もーやめてよー」
「あはは、」
「おれ、刺し盛り~~」
やっぱり苦手だ、こういう雰囲気
そもそも私は図書館で静かに本を読んでる方が好きだ、こういう雰囲気は慣れていない
なんで入ったのだろうと心の中で後悔した
「てか、まさし刺身好きだよねーいっつも刺身頼むじゃん笑」
「でもこの前刺身でお腹こわしてたよね笑」
「いや、あれはマジで死ぬかと思ったんだぜ?!」
「ださっ笑」
「そう言えば、、うちの父ちゃん船乗りでよ、よく昔きいたんだよな。
「ここに沈めたら人は浮いてこない、ここの港に沈んだヤツらはいっぱいいるでも、誰一人見つかった奴は居ない」ってよく言ってたんだよなぁ」
「何それこわーい笑」
そうなんだ……じゃあ完全犯罪って事、
不謹慎だったが、何故か、
興味が湧いてしまった…
「灯ーのんでるー?」
舌っ足らずになりながら結が近づいてきた
「全然飲んでないじゃ~ん」
「ちょっと、ゆ、ゆい、程々にしなよ?」
「わかってるってぇ」
そう言いながらまた友人と飲み始めた
「はぁ」
溜息をつきながら私は箸を動かした
「灯、大丈夫?」
そう言ってきた人はいつも端っこにいる存在感の無い山田春だった。
名前は知っていたが話したことは無かった
「あ、大丈夫ですえっと、春さん、でしたっけ、」
「そう。知っててくれたの?ありがとう。
春でいいよ同い年なんだし、」
「じゃあ春くんで、」
「あ、うん、よろしくね。」
そう言って手を差し出した。そこから話が時間とともに進んでいった。
しかし、この出会いが私の歪んだ人生の始まりだった
「そろそろお開きにするかー」
そう声が聞こえてきた
スマホを見れば終電まであと少しだった
もうそんなに経つのか、
春くんと話していたらあっという間だった
「灯、LINE交換しない?」
「あ、うんいいよ」
春くんのQRコードを読み込んでいると
「猫、飼ってるんだ」と私のホーム画面を指さししながら言ってきた
「あぁそう かわいいんだぁデブだけどね笑」
「へー、名前は?」
「大福 真っ白で丸っこいから食いしん坊でさ癒されるんだよね」
「ふーん、いいなぁ灯にそんなに好かれてて」
そう言うと彼は私の顔をじっと見つめてきた
目を、逸らせなかった
「灯ー?終電間に合わなくなるよ」
結の一言でハッとして
「じ、じゃあまた」
と逃げるように出ていった。
「あー楽しかったねー!のみすぎちゃったよぉ」
「、、、」
「、灯?」
「あっごめん、」
「どうしたの?さっきからおかしいよ?」
「ごめん、」
「平気ならいいんだけど、てかこの前さー」と結は話し始めるが頭に入らなかった
彼の目を見てから、
彼の目には愛おしいものを見つめてるかのような、憎いものを見てるような...
『執着にもなりそうな好き』が、感じ始め
その日から、
私の頭の中から彼が離れなくなった
、
、
、
、
、
、
、
、
「あ、」
早く帰ろうと大学を出たそこには、彼がいた
飲み会から数日たった今日
今日は結もバイトで、サークルもなかった。
結もいないし帰って本でも読もうかなと思っていた
「暑いなー、」
みんみんと蝉たちがやかましく鳴く、
暑苦しい夏の午後、
「あ、やっとでてきた」
そう言いながら彼は歩いてきた
「春、、、くん、?」
「もー待ちくたびれたよ」
「あ、ご、ごめん。どうして居るの?」
「灯待ってたんだよ一緒に帰ろうと思って」
そう言いながら大学を出た瞬間手を引いてきた
「あの、手、、」
「あ、ごめんね」
「それにしても、今日は暑いねー」
「え、あ、うん」
「、、、」
夏の午後の蒸し暑い沈黙がのしかかる
私の気持ちと同じように、、、蒸し暑かった
結以外と帰ることなんて無かったから何を話せばいいか分からない、
「あ、そういえば駅前にカフェ、できたらしいですよ?」
「へー、そんなんだ。行ってみよっか」
「え、で、でも私今日財布、忘れちゃって」
「俺が奢るから。ね?」
「あ、じゃあ、お言葉に甘えて。」
ちりん、ちりん、と風鈴の音が心地よく鳴る
店内に入ると客が疎らに居る
落ち着いた店内で空調と換気扇の音、時々
コーヒーカップとソーサーがぶつかる音だけがした。
席に着き、メニューを開くと色々なスイーツや飲み物が書いてある
「灯は何飲む?」
「んー、と」
正直お腹が空いていないお昼も食べたので
胃になにか入る気がしなかった
「じゃあ、珈琲で、」
「そんだけでいいの、遠慮してない?」
「い、いやいやお腹が空いてないので、」
「そ。じゃあ頼むね すいませーん」
彼が定員を呼び注文をしている中、
私はまだ戸惑っていた。
彼は何故私を連れてきたのだろうと、
「灯?」
彼の声で現実に引き戻される
「あ、ごめんなさい。ぼーっとしてて、」
「ううん、僕も突拍子も無く連れてきてごめんね」
「いえ、あのなんで私を此処に?」
「ああ、単純に灯と話したかったんだよ」
「え、私と、?」
そこにデザートと珈琲が運ばれてきて、話が中断した
「まず食べよっか」
「、はい」
珈琲を口に含む
口の中に残る、珈琲の苦い味や香りの気配
灯はこの癖のある苦味が好きなのだ
珈琲を堪能していると、彼が口を開く
「僕ね、灯と居ると落ち着くんだよね」
彼がそう言って優しそうに微笑む
心の内側に小さな波が打つ
「え、ぁ そう、なんですか?」
「うん、灯と居ると心がぽかぽかするんだ」
「え、」
『太陽みたいだね』
「あ、ぇ 」
心が何故か満たされていく。
こんな私にも、そう、言ってくれる人が居る
この何気ない一言で、今まで生きてきて、
味わったことの無い感情の、始まりだった…
瞼に涙を馴染ませて俯く、
透明な二粒の水滴が瞬きと一緒に弾き出された。
「、ふふ 綺麗だね」
春くんの手が私の頬をするりと撫でる
暖かい
彼の、顔が近づく
口が曲がりそうなしょっぱいなみだ
彼の口が私の瞼にそっと触れた
「しょっぱいね」
彼が唇をペロッと、舌なめずりをした
、
、
、
、
、
、
、
「美味しかったね」
「、うん」
帰り道、ぽそぽそと言葉を交わしながら歩く
「ふ、キスのせいで味わからなかった?」
「ぇ、あ、いや...わからなかったです、」
「あは。じゃまた今度来ようね、
その時は味わって、ね?」
「ぁ、はい」
「じゃあ、僕こっちだから また明日ね」
「はい、又明日、」
、
、
、
、
気が付くと家の前居た、
無意識に帰っていたようだ
「あれ、私どうやって帰った、?」
悶々と頭を捻ると彼の顔が思い浮かんだ
私の瞼に交わした、
甘くて、しょっぱい、
瞼のキス
「わぁぁぁあっ」
思い出すと顔に熱が集まる、
『太陽みたいだね』
彼が言った言葉、
「太陽、か、ふふ。」
心がぽかぽかする。
彼もこういう気持ちだったのかと思うと心が満たされていく、
「早く明日にならないかな、」
、
、
、
、
、
それから私は春くんに思いを伝えた
春くんは二つ返事で快くOKしてくれた
春くんはとても喜んでいてずっとにっこにこだった。
そこまで喜んでくれるとこっちまでにこにこになってしまう、
なんて罪な男だ
それから私達は何処に行くにも一緒
春くんはとても優しかった
優しさなどというものも、彼にすれば愛と同じに消耗しない固形物の様な存在に思われるだろうか
幸せな時間は有意義に過ぎていった
結婚してから春くんは変わった、
鉄槌を鶏卵に打ち下ろす様な暴力
毎日のように、貶され、罵倒され、殴られ
終いには、
「お前なんか、居なくなればいい」
存在をも、否定する
ただ、そんな春くんも優しい時がある
暴力をした後
「あぁ、ごめんね、そんなつもりじゃ、」
「違うんだ、灯、お前の為なんだよ、全部」
「俺は、お前がいなきゃ、あぁ」
「愛しているよ」
お手本のようなDV男の典型的な人だ
分かっているのだ、
分かっているのだけれど 離れられない
依存という名の鎖で繋がれている
我ながら 醜いなぁ、としみじみ思う
離れなきゃ、離れなきゃ、と心の中では思っていても、
身体が、自分自身が、彼を
春くんを、離さない
そして今日も
春くんの 『愛』を鞭の様に、浴びる
嗚呼 限界だ
毎日の様に殴られ、貶され
心も、体も、限界だった
そう思いながらリビングの椅子にもたれ掛かった
「おい」
肩が、びくっ、とはねた
自分でも気づかずうちに椅子から立ち上がっていた、膝がガクガクと震えている
足元が遠かった
まるで、自分がとても高いところに立たされているようだった
心臓が鞭にでも打たれたように痛い、
「ご飯、まだ作ってなーいの?」
彼はそう言いながら私の髪の毛を乱暴につかみぐいっと、自分の方にむかせた。
「ぁ、ごめ、んなさ、」
「ちっ、役立たずだなぁ!!」
ガタガタと大きな音を立てて転がった
自分でも状況が理解出来なかった
食卓に投げ飛ばされたようだ
「いま直ぐにつくれ!!!」
「、は、はい」
重い腰を上げてよろよろと立ち上がった
「ちっ、」
彼はがたっと乱暴な音を立てながら椅子に座った
私はキッチンにたち、食材を切ろうと、包丁を取り出した
魚を取り出し、捌こうとした時、ふと
大学時代に聞かされていたことを思い出した
『そう言えば、、うちの父ちゃん船乗りでよ、よく昔きいたんだよな
「ここに沈めたら人は浮いてこない、ここの港に沈んだヤツらはいっぱいいるでも、誰一人見つかった奴は居ない」ってよく言ってたんだよなぁ』
ひゅっ、と喉が鳴る音がした
なんて事を思い出していたなのだろう
ない、ない、無い、決して無い、
この手で、彼を、春くんを、
殺めたい、など、
嗚呼、でも、殺したら、今の苦しみが
この体に、心に、ギチギチと縛り付けている
この苦しみが、無くなる、
嗚呼、なんて、素敵なことなのだろう
そう思うと、切羽詰まった絶望感が、
刹那に、殺意に変わった
こめかみで脈打つ血流に、
死ネ
死ネ
死ネ
と、意識の残響がこだまする
そう
私は料理をしていた包丁を手にしていたんだ
私はゆっくり、ゆっくりと、春くんに、近ずいた
視界がぐらぐらと、揺れる
ふーっふーっ、と息を殺して、
その鋭いブツを
私は勢いよく振り下ろした
独特な、肉が切れる音がした
「っあ''、」
春くんは勢いよく振り向いた
いつもの自信満々な顔とは裏腹に
この世の終わりかのような顔をしていて、
「あはっ」
私は自然と笑みが零れた
私はもう一度包丁を振り下ろした
だが、春くんは勢いよく椅子から立ち上がり避けた
「ふ、ぐ、ぁあ''や、めろ」
よろよろと後ずさる
私は距離を詰めていく
あぁ、気持ちがいい、
いつもは彼が私に絶望を味合わせてくれる
「あぁ、貴方いつもは私に新しい気持ちを気づかせてくれる」
「ありがとうっ」
だが、
今度は私が貴方に、味合わせてあげよう
ぶるりっ、と体が震えた
「んふっ、」
「やめ、てくれ、おね、あ''ぁ、」
キラッと銀色の包丁が光る
彼の目にはどんな私が映っていたのだろうか
醜いだろうか
怖いだろうか
それとも、
歓喜に、満ちていただろうか
勢いよく振り下ろす、
気持ちの良い、肉の、切れる音と同時に
ぱきんっ、と鎖が割れる、音がした
「あーあ、」
「料理するはずの、包丁なのになぁ」
春くんと一緒に料理作ろうねっ、て話してたっけ、
血溜まりの上を、水溜まりをぱちゃぱちゃと
はしゃぐ、子供のように、歩く。
「ごめんねぇ、こんな事に使っちゃって」
汚れちゃった
「今度から、ちゃぁんと、使ってあげるね」
銀色の包丁に映った私は
『灯』の様に、
輝いていた
「あはっ」
お父さん、お母さん、、
結!!!
私、いま、 輝いてるかなぁ。
今 一番幸せだよ。
こんなはずじゃなかったのに自然と上がる口角を必死に抑えながら私は思った。
結婚生活も早5年「なんでこんなことになってるんだろうな」と振りかぶられる拳を見ながら私は思った、
あの人と会ったのは大学のサークルだった。
内気だった私は人と話すことも出来ず友人も少なかった、唯一話せる人と言えば小さい頃からの幼なじみの結だった
結は人懐っこくて小さい頃から人気者だった
もちろん私はクラスの隅っこに居るような人間で、話しかけられた時は困惑したなんでこんな人気者が私なんかに、
「ねぇねぇ!」
と弾けるような笑顔で話しかけてきた 「な、なに」
「なによんでるの?」
私は本に視線を向けた
「太宰治、」
「むずかしいのよんでるねー」
その一言を言って結は友達の元へ走っていった
「ねぇねぇ灯ー」
小学校から変わらない弾けるような笑顔で言ってきた
「今日サークルの飲み会じゃん?どんな服着ようかなー」
「え、そうなの?」
「知らなかったの?」
知るわけない元々結が誘ってきたので入ったのだ興味などなかった
「私はーめっちゃお洒落しようかなー」
「結は私と違って可愛いからお洒落しなくてもお洒落に見えるよ」
「もーまたそんなネガティブなこと言って」
本当のことだ、結は万人受けするような美と性格を持ち合わせている
目は大きく二重で、今咲いたばかりの花の様な生き生きとした美しさと華がある
それに比べて私はそう際立って特別と言えるようなものは無い
所謂『普通』だった
勉強も普通、運動神経も普通
全部が『普通』だ
「ねぇ聞いてるー?」
そんなことを考えていたら横から結がひょこっと現れた
「ごめん、なんだっけ」
「もー、サークルの飲み会!!灯はどんな服着るの?」
「ん~…Tシャツにジーパンでいいかな」
「もー。ふつーだね」
「いいの普通で、普通が1番」
「ふーん、私はお洒落に行こっ」
「いいな、結は明るくて太陽みたい」
「灯も『灯』でしょ?それに太陽までいかなくても人を照らすことぐらいできるよ」
「名前だけだよそんなの」
私の父と母は私に明るい子になって欲しいと思って『灯』と名付けたらしい
そんなことも知らずにこんなネガティブな人間になってしまったと思うと両親には申し訳ないなと心の中で思った
「かんぱーい!!」
それと同時に皆がザワザワと騒ぎ出す
「えー何食べる何食べる?」
「えっ、と私は枝豆でいいかな」
「灯おっさんやん笑」
「そう、かな」
「はーい!私シーザーサラダ!!」
「結は枝豆とは違うなー!!」
「もーやめてよー」
「あはは、」
「おれ、刺し盛り~~」
やっぱり苦手だ、こういう雰囲気
そもそも私は図書館で静かに本を読んでる方が好きだ、こういう雰囲気は慣れていない
なんで入ったのだろうと心の中で後悔した
「てか、まさし刺身好きだよねーいっつも刺身頼むじゃん笑」
「でもこの前刺身でお腹こわしてたよね笑」
「いや、あれはマジで死ぬかと思ったんだぜ?!」
「ださっ笑」
「そう言えば、、うちの父ちゃん船乗りでよ、よく昔きいたんだよな。
「ここに沈めたら人は浮いてこない、ここの港に沈んだヤツらはいっぱいいるでも、誰一人見つかった奴は居ない」ってよく言ってたんだよなぁ」
「何それこわーい笑」
そうなんだ……じゃあ完全犯罪って事、
不謹慎だったが、何故か、
興味が湧いてしまった…
「灯ーのんでるー?」
舌っ足らずになりながら結が近づいてきた
「全然飲んでないじゃ~ん」
「ちょっと、ゆ、ゆい、程々にしなよ?」
「わかってるってぇ」
そう言いながらまた友人と飲み始めた
「はぁ」
溜息をつきながら私は箸を動かした
「灯、大丈夫?」
そう言ってきた人はいつも端っこにいる存在感の無い山田春だった。
名前は知っていたが話したことは無かった
「あ、大丈夫ですえっと、春さん、でしたっけ、」
「そう。知っててくれたの?ありがとう。
春でいいよ同い年なんだし、」
「じゃあ春くんで、」
「あ、うん、よろしくね。」
そう言って手を差し出した。そこから話が時間とともに進んでいった。
しかし、この出会いが私の歪んだ人生の始まりだった
「そろそろお開きにするかー」
そう声が聞こえてきた
スマホを見れば終電まであと少しだった
もうそんなに経つのか、
春くんと話していたらあっという間だった
「灯、LINE交換しない?」
「あ、うんいいよ」
春くんのQRコードを読み込んでいると
「猫、飼ってるんだ」と私のホーム画面を指さししながら言ってきた
「あぁそう かわいいんだぁデブだけどね笑」
「へー、名前は?」
「大福 真っ白で丸っこいから食いしん坊でさ癒されるんだよね」
「ふーん、いいなぁ灯にそんなに好かれてて」
そう言うと彼は私の顔をじっと見つめてきた
目を、逸らせなかった
「灯ー?終電間に合わなくなるよ」
結の一言でハッとして
「じ、じゃあまた」
と逃げるように出ていった。
「あー楽しかったねー!のみすぎちゃったよぉ」
「、、、」
「、灯?」
「あっごめん、」
「どうしたの?さっきからおかしいよ?」
「ごめん、」
「平気ならいいんだけど、てかこの前さー」と結は話し始めるが頭に入らなかった
彼の目を見てから、
彼の目には愛おしいものを見つめてるかのような、憎いものを見てるような...
『執着にもなりそうな好き』が、感じ始め
その日から、
私の頭の中から彼が離れなくなった
、
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、
「あ、」
早く帰ろうと大学を出たそこには、彼がいた
飲み会から数日たった今日
今日は結もバイトで、サークルもなかった。
結もいないし帰って本でも読もうかなと思っていた
「暑いなー、」
みんみんと蝉たちがやかましく鳴く、
暑苦しい夏の午後、
「あ、やっとでてきた」
そう言いながら彼は歩いてきた
「春、、、くん、?」
「もー待ちくたびれたよ」
「あ、ご、ごめん。どうして居るの?」
「灯待ってたんだよ一緒に帰ろうと思って」
そう言いながら大学を出た瞬間手を引いてきた
「あの、手、、」
「あ、ごめんね」
「それにしても、今日は暑いねー」
「え、あ、うん」
「、、、」
夏の午後の蒸し暑い沈黙がのしかかる
私の気持ちと同じように、、、蒸し暑かった
結以外と帰ることなんて無かったから何を話せばいいか分からない、
「あ、そういえば駅前にカフェ、できたらしいですよ?」
「へー、そんなんだ。行ってみよっか」
「え、で、でも私今日財布、忘れちゃって」
「俺が奢るから。ね?」
「あ、じゃあ、お言葉に甘えて。」
ちりん、ちりん、と風鈴の音が心地よく鳴る
店内に入ると客が疎らに居る
落ち着いた店内で空調と換気扇の音、時々
コーヒーカップとソーサーがぶつかる音だけがした。
席に着き、メニューを開くと色々なスイーツや飲み物が書いてある
「灯は何飲む?」
「んー、と」
正直お腹が空いていないお昼も食べたので
胃になにか入る気がしなかった
「じゃあ、珈琲で、」
「そんだけでいいの、遠慮してない?」
「い、いやいやお腹が空いてないので、」
「そ。じゃあ頼むね すいませーん」
彼が定員を呼び注文をしている中、
私はまだ戸惑っていた。
彼は何故私を連れてきたのだろうと、
「灯?」
彼の声で現実に引き戻される
「あ、ごめんなさい。ぼーっとしてて、」
「ううん、僕も突拍子も無く連れてきてごめんね」
「いえ、あのなんで私を此処に?」
「ああ、単純に灯と話したかったんだよ」
「え、私と、?」
そこにデザートと珈琲が運ばれてきて、話が中断した
「まず食べよっか」
「、はい」
珈琲を口に含む
口の中に残る、珈琲の苦い味や香りの気配
灯はこの癖のある苦味が好きなのだ
珈琲を堪能していると、彼が口を開く
「僕ね、灯と居ると落ち着くんだよね」
彼がそう言って優しそうに微笑む
心の内側に小さな波が打つ
「え、ぁ そう、なんですか?」
「うん、灯と居ると心がぽかぽかするんだ」
「え、」
『太陽みたいだね』
「あ、ぇ 」
心が何故か満たされていく。
こんな私にも、そう、言ってくれる人が居る
この何気ない一言で、今まで生きてきて、
味わったことの無い感情の、始まりだった…
瞼に涙を馴染ませて俯く、
透明な二粒の水滴が瞬きと一緒に弾き出された。
「、ふふ 綺麗だね」
春くんの手が私の頬をするりと撫でる
暖かい
彼の、顔が近づく
口が曲がりそうなしょっぱいなみだ
彼の口が私の瞼にそっと触れた
「しょっぱいね」
彼が唇をペロッと、舌なめずりをした
、
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、
「美味しかったね」
「、うん」
帰り道、ぽそぽそと言葉を交わしながら歩く
「ふ、キスのせいで味わからなかった?」
「ぇ、あ、いや...わからなかったです、」
「あは。じゃまた今度来ようね、
その時は味わって、ね?」
「ぁ、はい」
「じゃあ、僕こっちだから また明日ね」
「はい、又明日、」
、
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気が付くと家の前居た、
無意識に帰っていたようだ
「あれ、私どうやって帰った、?」
悶々と頭を捻ると彼の顔が思い浮かんだ
私の瞼に交わした、
甘くて、しょっぱい、
瞼のキス
「わぁぁぁあっ」
思い出すと顔に熱が集まる、
『太陽みたいだね』
彼が言った言葉、
「太陽、か、ふふ。」
心がぽかぽかする。
彼もこういう気持ちだったのかと思うと心が満たされていく、
「早く明日にならないかな、」
、
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それから私は春くんに思いを伝えた
春くんは二つ返事で快くOKしてくれた
春くんはとても喜んでいてずっとにっこにこだった。
そこまで喜んでくれるとこっちまでにこにこになってしまう、
なんて罪な男だ
それから私達は何処に行くにも一緒
春くんはとても優しかった
優しさなどというものも、彼にすれば愛と同じに消耗しない固形物の様な存在に思われるだろうか
幸せな時間は有意義に過ぎていった
結婚してから春くんは変わった、
鉄槌を鶏卵に打ち下ろす様な暴力
毎日のように、貶され、罵倒され、殴られ
終いには、
「お前なんか、居なくなればいい」
存在をも、否定する
ただ、そんな春くんも優しい時がある
暴力をした後
「あぁ、ごめんね、そんなつもりじゃ、」
「違うんだ、灯、お前の為なんだよ、全部」
「俺は、お前がいなきゃ、あぁ」
「愛しているよ」
お手本のようなDV男の典型的な人だ
分かっているのだ、
分かっているのだけれど 離れられない
依存という名の鎖で繋がれている
我ながら 醜いなぁ、としみじみ思う
離れなきゃ、離れなきゃ、と心の中では思っていても、
身体が、自分自身が、彼を
春くんを、離さない
そして今日も
春くんの 『愛』を鞭の様に、浴びる
嗚呼 限界だ
毎日の様に殴られ、貶され
心も、体も、限界だった
そう思いながらリビングの椅子にもたれ掛かった
「おい」
肩が、びくっ、とはねた
自分でも気づかずうちに椅子から立ち上がっていた、膝がガクガクと震えている
足元が遠かった
まるで、自分がとても高いところに立たされているようだった
心臓が鞭にでも打たれたように痛い、
「ご飯、まだ作ってなーいの?」
彼はそう言いながら私の髪の毛を乱暴につかみぐいっと、自分の方にむかせた。
「ぁ、ごめ、んなさ、」
「ちっ、役立たずだなぁ!!」
ガタガタと大きな音を立てて転がった
自分でも状況が理解出来なかった
食卓に投げ飛ばされたようだ
「いま直ぐにつくれ!!!」
「、は、はい」
重い腰を上げてよろよろと立ち上がった
「ちっ、」
彼はがたっと乱暴な音を立てながら椅子に座った
私はキッチンにたち、食材を切ろうと、包丁を取り出した
魚を取り出し、捌こうとした時、ふと
大学時代に聞かされていたことを思い出した
『そう言えば、、うちの父ちゃん船乗りでよ、よく昔きいたんだよな
「ここに沈めたら人は浮いてこない、ここの港に沈んだヤツらはいっぱいいるでも、誰一人見つかった奴は居ない」ってよく言ってたんだよなぁ』
ひゅっ、と喉が鳴る音がした
なんて事を思い出していたなのだろう
ない、ない、無い、決して無い、
この手で、彼を、春くんを、
殺めたい、など、
嗚呼、でも、殺したら、今の苦しみが
この体に、心に、ギチギチと縛り付けている
この苦しみが、無くなる、
嗚呼、なんて、素敵なことなのだろう
そう思うと、切羽詰まった絶望感が、
刹那に、殺意に変わった
こめかみで脈打つ血流に、
死ネ
死ネ
死ネ
と、意識の残響がこだまする
そう
私は料理をしていた包丁を手にしていたんだ
私はゆっくり、ゆっくりと、春くんに、近ずいた
視界がぐらぐらと、揺れる
ふーっふーっ、と息を殺して、
その鋭いブツを
私は勢いよく振り下ろした
独特な、肉が切れる音がした
「っあ''、」
春くんは勢いよく振り向いた
いつもの自信満々な顔とは裏腹に
この世の終わりかのような顔をしていて、
「あはっ」
私は自然と笑みが零れた
私はもう一度包丁を振り下ろした
だが、春くんは勢いよく椅子から立ち上がり避けた
「ふ、ぐ、ぁあ''や、めろ」
よろよろと後ずさる
私は距離を詰めていく
あぁ、気持ちがいい、
いつもは彼が私に絶望を味合わせてくれる
「あぁ、貴方いつもは私に新しい気持ちを気づかせてくれる」
「ありがとうっ」
だが、
今度は私が貴方に、味合わせてあげよう
ぶるりっ、と体が震えた
「んふっ、」
「やめ、てくれ、おね、あ''ぁ、」
キラッと銀色の包丁が光る
彼の目にはどんな私が映っていたのだろうか
醜いだろうか
怖いだろうか
それとも、
歓喜に、満ちていただろうか
勢いよく振り下ろす、
気持ちの良い、肉の、切れる音と同時に
ぱきんっ、と鎖が割れる、音がした
「あーあ、」
「料理するはずの、包丁なのになぁ」
春くんと一緒に料理作ろうねっ、て話してたっけ、
血溜まりの上を、水溜まりをぱちゃぱちゃと
はしゃぐ、子供のように、歩く。
「ごめんねぇ、こんな事に使っちゃって」
汚れちゃった
「今度から、ちゃぁんと、使ってあげるね」
銀色の包丁に映った私は
『灯』の様に、
輝いていた
「あはっ」
お父さん、お母さん、、
結!!!
私、いま、 輝いてるかなぁ。
今 一番幸せだよ。
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