以心伝心で恋して――富総館結良シリーズ②――

せとかぜ染鞠

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5 襲来

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 アパートドアの把手を握るなり,静電気が走り,手を離した。携帯が鳴る――聴蝶の番号だ。
 応答する――泣き叫んでいる!
「やめろ! 妹に触るな!」観空の怒号が響いて通信が途切れた――
 道路へ走り出て手をあげるが,疾走する車は勿論,タクシーも停まらない。夜の街を駆け抜けた。
 病院に着いた――外見から異変は感じられない。エレベーター乗り場に来れば,大勢の人間でごった返している。混雑を搔き分けて進もうとすれば,守衛や面会者たちから順番を待てと叱責される。急いでいるのだと弁明しても埒はあきそうにない。
 非常階段を駆けあがる。
 8階に辿り着いたとき,若い医者からこの先は関係者以外立ち入れないと制止された。一つ頷いて引き返すと見せかけるなり,独学で習得したカンフーチョップをお見舞いした。一発で気絶する。白衣の内側に覗く拳銃を拝借した――
 9階の踊り場を過ぎ,足音を潜めて階上へと急ぐ。10階に達するまでに男の声が漏れ聞こえてきた。
「警察なんかに連絡してみろ――犠牲者が増えるだけだ。乙,観念して指示に従え。さもないと,あの患者も,その兄貴も今死ぬことになるぞ。それだけじゃない。おまえが任務を果たさないなら飛行船はただちに爆破する。そうなりゃ,この街の人間が何人犠牲になるのかねぇ?……おまえが忠誠心を示せば,犠牲者は飛行船の乗客だけで済むんだよ」
 非常扉をうっすら押して隙間をつくり内部の様子を覗き見る。聴蝶がベッドの脚もとで両手首と両足首を縛りつけられ,その脇に観空が横たわっている。白いスーツが深紅に染まっている――観空は撃たれたのだ!
 2人の前に路傍が立ち塞がり,彼の頸部には銃口が突きつけられている。ライフル銃を構える男は頭部からすっぽりと黒光りする防護服を纏っていた。
 苦しげに顔を歪める観空が私に気づき,来るな,逃げろと手話で言ってくる。そんなつもりは毛頭ないと手話で言い返す。諦めたみたいな表情で観空が視線を流す。その先に窓外を見る防護服の2人が立っている。1人が欠伸をしながら用を足してくると非常扉へ近づいてきた。
 息を殺して扉の動きにあわせて背中を壁に押しつけ身体を平らにのばした。踊り場に出てきた男が階段をおりようとして,ふと顔を横様にむけた。
 口を押さえて腹部を蹴りあげる。命中させるはずの部分が逸れて肋骨の砕ける音がした。血を吹きながらしなだれかかる相手の防護服を脱がし,それを身につける。両眼の部分だけ素材が切りかわり,視界が効くように製造されてあった。
 男の体を下の踊り場まで引きずりおろし,折り返す階段の陰に隠してから,何気ない風を装い,フロアに足を踏みいれ,そのまま集中治療室に入った。
 観空と聴蝶がすぐに気取ってぎょっとした顔つきをする。聴蝶と目のあった路傍が小さく息をのみ,私を見た。
「ボス!――」窓外を監視する男が声を発した。「飛行船が来ました!」
「命令に従え!」ライフルを構える悪党の首領が引き金に触れた。「やるんだ!」そう怒鳴るなり,銃を連射する。
 聴蝶が悲鳴をあげた。その傍らでベッドの寝具に無数の穴が空き,ピローの詰め物が一帯を白く埋め尽くすほどに舞い飛んで充満した。
「分かった! 任務を遂行する!」路傍が叫んだ。
 首領が銃口を上むけた。「よし,いいだろう――屋上へ出ろ!」
 路傍が両手を首の後ろで組みつつ治療室を出ていく。首領も路傍に続き,手下の男に顎で合図した。「女も連れてこい!」
「話が違うじゃないか!――」詰め寄る路傍を銃口で押し返す。「保険だよ! おまえが馬鹿な真似をしないようにするためのな――約束を守れば,無事に帰してやるから」
「無事って,そのとき彼女はまた……」路傍の言い淀んだ拍子に,首領は腹を揺すった。「はっはっはっはっはっ――そうさ,感染しているさ。だが,また治してやればいいだろう? おまえなら治せるんだから」
「彼女に防護服を着せてもいいだろ?」
「駄目だ。それじゃ意味がない。おまえには未来永劫大いに活躍してもらいたいのさ――女が感染するから,おまえは何処かの病院に身を寄せるんだ。いくらおまえだって設備のない場所じゃ,治療は難しいからな。女が感染しないなら,おまえは女を連れて我々の監視の行き届かないところへ逃げてしまうじゃないか――さあ,期待しているぞ。素晴らしい働きを披露してくれ」
 首領に再度促された手下が聴蝶の腕を摑んだ。
「聴蝶,逃げろ!――」観空が手下に体あたりした。聴蝶は前のめりに駆けたが,数歩行ったところで転倒した。
「ふざけやがって!――」首領が銃口を観空にむけた。
「やめろ!」路傍が首領の前で両腕を広げた。「彼を撃ったら,俺は何もしない」
 首領の歯軋りが聞こえた。「……愛する女の兄貴は大事にしたいよなぁ……まるで人間同然の感情をもっていやがる。所詮は鉄の塊に過ぎねぇロボットがよぉ」
 聴蝶が震える瞳で路傍を見た。路傍は顔を背けて非常階段へとむかった。
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