二口男に転生したらハイスペ従者に溺愛されてた

鑽孔さんこう

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ハードなスタート

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瞼の外側が激しく明滅する。
点滅が止むと、体の輪郭が熱と共に溶け始めた。

ん、待て待て。死んだら溶けるのか?!
それとも火葬炉で焼かれて灰にされ中…?

どちらにしても死んでからしか見られない景色だ。
どうしても見たいと目をこじ開けようとするが、瞼が鉛のように重い。

『ぬぬぬ、見せろ!』

お菓子を買ってもらえない駄々っ子のように心の手足をバタバタさせていると。

「わっ、むぐ」

突然、目の前に木の机が映し出された。
心の中で絶叫していた勢いで声が漏れそうになり、慌てて口を押さえる。

『は、へ、どこ…?…っ手、小っさ!誰?!こんなツルスベのお肌、僕じゃない!』

押さえた手はもちもちしていて、新雪のように白い。
軽く触れた唇もリップ要らずの潤いだ。
コマーシャルで見るようなシミ一つない手を、つい空にかざしてじっくり見る。
一拍遅れて、鮮やかな景色に目が移った。

『うわ、すげぇー!』

部屋の壁面を取り囲む豪奢な縁取りの窓、そこから望む彩り豊かな家々。
果てない家並みは、白壁を基調とし、その上から様々な色を塗ってある。家の前にもベランダにも、大きな植木鉢から多様な花が咲き誇っている。
というのに、高名なデザイナーが指揮を取ったかのような力強い美しさが街を覆っていた。

僕はそこで、景色の果てまで裸眼で見ることが出来ると気付き、今度こそ声を出しそうになった。

死ぬ前の眼鏡最優先な人生で何度『視力の良い眼球と交換したい』と思ったか。

『世界がキラキラしてる!すてき!』

単純な感想しか持てないのは体が10歳ぐらいに縮んでるからだ。きっとそうだ。

自分に言い訳をして、室内に目を戻す。
学舎だと思われるこの建物は、全体に白と金が多用されている。
窓枠や天井、壁、椅子の脚に至るまで、螺旋と植物モチーフを組み合わせた繊細な金細工が施され、窓の左右に留められたレースはシルクに金糸の刺繍が踊っている。
高級感がえげつない。
汚してしまったら、とか考えてないんじゃないのか。
それともその都度買い替えるのか。

視界にひらひらしたモノが引っかかり、目線を真上に向ける。
天井に円く植えられたミモザが、教室に吹き込む風で揺れていた。

『ぉえ?!生えてるぜあんちゃん』

架空の兄に呼びかけてみても、目の前の不思議な情景は変わらない。
モニターのような嵌め込みもなく、ただそこに群生しているといった体で、天井と壁の間に空いた隙間からの風を受けている。
そういえば天井と壁の隙間に果てがない。

『天井を浮かせてる?いや、んな訳…』

首をぐるりと巡らせて。

『浮いてるー!しかもちょっと上下してるー!』

オーマイガッと叫びたいのを我慢して、頭を抱えた。

『待っ…え?は?ファンタズィーな感ずぃ?』

爆走中の汽車並みにパニックになっている自分へ、生意気そうな声が飛び込んできた。

「相ノ瀬君は肌が生白くて気持ち悪いねぇ。死んでらっしゃるんじゃないか?」

ははは、と僕から離れた場所に居る2人の男子が笑うと、波紋のようにその周りの人たちも口を開き始める。

「相ノ瀬家はお金持ちだって聞いてたのにぃ、本当に期待外れだわぁ」
「あんな暗くて見栄えも悪い子、話しかけたくもないわ」
「お近づきになってこい、なんて嫌に決まってる。魔法も使えない、頭も悪いって、将来無望すぎだろ」

教室に居る20人のうち半数ほどは、明らかに僕に向かって嫌悪の目をぶつけてきている。

集団の中心に居る、最初に喋った子は、顔の濃い金髪イケメンだ。
隣の前下がりショートの銀髪君はミステリアスな美少年。
その周りを顔が整った人達が取り巻いている。

『ここ芸能学校だったりするのか?顔面太陽すぎて昇華しそうだ』

遮光メガネを通して見たいぐらい綺麗な集団だというのに、向けられているのは悪意という悲しい現実。
だが、それよりも。

『真ん中の金銀コンビ、キョリ感おかしくないか?』

中心的な存在であろう2人は長机の上に座っている。
それはまぁやんちゃなのだろうから良いとして、だ。

金髪君が銀髪君を太腿の上に乗せ、姫抱きのような格好で抱き寄せながら、頬や首筋にキスをしまくっているのだ。
銀髪君はたまにキスを返して、倍返しにあっている。

「っちゅ、ちゅっ、妃蜂ひほう、ちゅっ、愛してる妃蜂。っ、相ノ瀬君はその邪悪な目で死神でも呼び寄せているのかい?我が妃には触れさせないがな」

金髪君の溺れるような甘い声が、僕と目が合った瞬間に挑発する調子に変わり、最後は低音と鋭い睨みで威嚇された。

『すまん、NTR寝取りは地雷だ』

心の中では間髪容れずに答えるものの、口ではどう返答したものか。
相手の態度から考えるに、この体の前の持ち主は随分と寡黙で気弱だったのだろう。
なら、急に馴れ馴れしく話せば不自然になる。

『はぁ…同級生だろうし仲良くしたほうが良いよな…。んー、でもなぁ、苦手なタイプの集合地だし。仲良くなれるかなぁ…』

ゴーヤを初めて食べたときを思い出しながら、顔に笑顔をぺたりと貼り付ける。

「ぁー、こほん。すごく仲むつまじい様子だから、お互いのこと大好きなんだろーなーって見てたんだ。いやな思いさせてごめん」

軽くマイクテストをしてから、目の前のカップルへ褒め言葉を並べる。

『おぉ、すんごい綺麗なボーイソプラノ!こんな声に生まれたかったなぁ。あ、もう生まれてた』

ついつい己の声に聞き惚れてしまった。
教室に残る余韻までじっくり楽しむ。

『楽しんでるから早くディープキスを終わらせろよ長げぇよ、君のハニーが窒息するぞ?!』

仲むつまじい、辺りで銀髪君がはにかんでしまい、それを見た金髪君が覆い隠すように舌入りのキスを始めてしまった。
そのまま息継ぎ無しなので、見ているこちらは焦る。

銀髪君が危険を感じて金髪君をポカポカ殴りだした。
だが、金髪君は銀髪君の頭を離そうとしない。

『やべ、銀髪君が動かなくなってきた』

周りの友達が止めることを期待するも、クラスメイトは示し合わせたようにあらぬ方向を向いている。

『これ止めたほうがいいやつ?でも皆がそっぽ向いてるってことは、何か見ちゃいけないことが起こるって意味かもな…』

長いものには巻かれろ精神のもと、金銀コンビとは反対方向を見ることにする。
静かに外の景色へ目線を移した直後。

「パシンッ」

乾いた音が教室に響き渡った。
自分の体が岩のように固まる。
両手が反射的に半端な防御態勢を作る。

『勝手に体が防御したってことは、経験的に「殴られる」って判断したっていうことだよな…。暴力を受けてた期間があったってことか?』

この部屋に、この体の家族に、暴力を振るう人が居るかもしれないのか。
思考が一気に張り詰める。
緊張しながら音の発生源へ体を向けた。
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