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うん、異世界。
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目に飛び込んできたのは、銀髪君の変容した姿と金髪君のひれ伏した姿だった。
『逆光で見にくいけど、銀髪君の背中にキラキラしたものが生えてるような?』
面倒くさいから一旦金髪君のことは放っておこう。
銀髪君の姿をバレないように盗み見る。
銀髪君の背中からは、蜂のものに似た4枚の銀羽が生えている。
そして額からは黒い2本の触角がピンと立っている。
手首やかかとからは銀色の尖りが突き出ており、ヒールを履いた女王のような厳格さがにじみ出ていた。
『獣耳は友達の影響で知ってたけど、触角美青年は始めて見たなぁ。頭の触覚がピコピコ動いててかわいい』
虫より太めの触角が音もなく動いているのを見て目を細めていると。
「限度を知れ。愛の真綿で絞め殺すほどおろかに成り下がるな」
冷え冷えとした声と目線が金髪君を刺す。
銀髪君改め、妃蜂君の体から痺れるような威圧が発されている。
『本当に女王様みたいだ』
凛としていて、怖いけれどかっこいい。
妃蜂君がするりと机から降りた。
ピンと張った羽が、日光の粒子を纏ったようにキラキラと光る。
かかとの針をカツカツと鳴らして歩き、土下座している金髪君の前にモデル立ちで立ち止まった。
「熊維、面を上げろ。婚約者に傅かせるのは不本意だ」
場に合わないカタカナが聞こえた気がする。
でも声は冷たいままだし、気のせいか。
「おおせの通りに、妃蜂様」
『熊維、お前もか』
蜂に変身した恋人に向かってハニーって食べる気満々では。
物理的にも性的にも危険だから逃げて、妃蜂君。
熊維君は、王子のような振る舞いで差し出された妃蜂君の手を嬉しそうに取っている。
立ち上がった後も甘い目線をぶつけ合っていて、自分たち以外は世界に居ないかのようだった。
『あ、熊維君の頬に羽模様の叩かれた跡がある。羽でビンタされたのかな。』
羽の強度すごいな。人を吹っ飛ばせるのか。
僕がようやく状況整理をし終えたところで、ふと強い視線を感じた。
『あれ、妃蜂君と目があってる気が…』
「…少々かしましいな。」
熊維君を椅子に座らせた妃蜂君の意識の矛先が、僕に向けられる。
三白眼で睨まれて、びくりと体を揺らしてしまう。
「常とはずいぶん振るまいが異なるようだが。まさか」
『まずい、バレた』
自分の顔から血の気が引いていくのが分かる。
妃蜂君の顔に嘲る色が満ちる。
こんな状況なのに、俳優みたいに見事な表情だと感心してしまう。
「身体に住み着く片割れ、憎悪の化生に取り変わられたのではないだろうな。」
色白の青年の美しい唇は、笑んでいるように見える。
しかし、目で、気配で、『捕らえる』意志を伝えてくる。
答えを間違えればろくな目には合わないだろう。
無難な答えを探そうと前世の知識をフル稼働してみても、こんな修羅場の攻略法に覚えはなかった。
『幼少の頃に親が離婚したときだって、母親が育ててくれることになったから親を選ばずに済んだし。というか物心付いてないから覚えてないし。こんな恐怖の選択迫られたことないよぉ』
しかも妃蜂君の言った言葉の意味が分からない。
身体に何かいるんだろうか。
『え、怖』
今すぐ体を確認したいが、急に脱ぎだしたら不審者だ。
でも口ぶりからして平和な寄生タイプではなさそうだ。
『どうしよ、「片割れとか憎悪の化生とかって何?」って聞いても良いのか…?』
「ボクは未だに背中に住んでるよ。気にかけてくれてありがたい限りだ」
僕の背中に亀裂が入り、背中の皮が口を動かすように伸縮する。
『後ろ誰も居ないのにバッチリ声が聞こえた…。てか背中が喋ってる?』
謎の声に対して妃蜂君は不快そうに眉をひそめる。
「魂だけの存在が私に話しかけるな。きさまが表に出てくれば合法的にその体を殺せるというのに」
「害のないボクらですら殺すとは、国家は随分ルールに厳しいんだね。それにしては…君の婚約者の考えに身分差ゆえの歪みがあるようだけど?」
カタカナ好きなのかな。
背中の喋ってる内容にだいぶ皮肉が入ってる気がする。
その証拠に妃蜂君の目つきがさらに悪くなったし。
「人のなり損ないが。」
妃蜂君は吐き捨てるように言って、くるりと僕らに背を向けた。
熊維君の隣の席に静かに座り、熊維君の腕が腰に巻かれるのを黙って受け入れている。
「誰か知らないけど、あんな仲のいいカップルに水差すのはよろしくないんじゃないか?」
あまりに痛々しい姿をしているのに耐えかねて、背中の皮肉屋に文句を言ってみる。
しかし、いくら待っても声が返ってくることはなかった。
『逆光で見にくいけど、銀髪君の背中にキラキラしたものが生えてるような?』
面倒くさいから一旦金髪君のことは放っておこう。
銀髪君の姿をバレないように盗み見る。
銀髪君の背中からは、蜂のものに似た4枚の銀羽が生えている。
そして額からは黒い2本の触角がピンと立っている。
手首やかかとからは銀色の尖りが突き出ており、ヒールを履いた女王のような厳格さがにじみ出ていた。
『獣耳は友達の影響で知ってたけど、触角美青年は始めて見たなぁ。頭の触覚がピコピコ動いててかわいい』
虫より太めの触角が音もなく動いているのを見て目を細めていると。
「限度を知れ。愛の真綿で絞め殺すほどおろかに成り下がるな」
冷え冷えとした声と目線が金髪君を刺す。
銀髪君改め、妃蜂君の体から痺れるような威圧が発されている。
『本当に女王様みたいだ』
凛としていて、怖いけれどかっこいい。
妃蜂君がするりと机から降りた。
ピンと張った羽が、日光の粒子を纏ったようにキラキラと光る。
かかとの針をカツカツと鳴らして歩き、土下座している金髪君の前にモデル立ちで立ち止まった。
「熊維、面を上げろ。婚約者に傅かせるのは不本意だ」
場に合わないカタカナが聞こえた気がする。
でも声は冷たいままだし、気のせいか。
「おおせの通りに、妃蜂様」
『熊維、お前もか』
蜂に変身した恋人に向かってハニーって食べる気満々では。
物理的にも性的にも危険だから逃げて、妃蜂君。
熊維君は、王子のような振る舞いで差し出された妃蜂君の手を嬉しそうに取っている。
立ち上がった後も甘い目線をぶつけ合っていて、自分たち以外は世界に居ないかのようだった。
『あ、熊維君の頬に羽模様の叩かれた跡がある。羽でビンタされたのかな。』
羽の強度すごいな。人を吹っ飛ばせるのか。
僕がようやく状況整理をし終えたところで、ふと強い視線を感じた。
『あれ、妃蜂君と目があってる気が…』
「…少々かしましいな。」
熊維君を椅子に座らせた妃蜂君の意識の矛先が、僕に向けられる。
三白眼で睨まれて、びくりと体を揺らしてしまう。
「常とはずいぶん振るまいが異なるようだが。まさか」
『まずい、バレた』
自分の顔から血の気が引いていくのが分かる。
妃蜂君の顔に嘲る色が満ちる。
こんな状況なのに、俳優みたいに見事な表情だと感心してしまう。
「身体に住み着く片割れ、憎悪の化生に取り変わられたのではないだろうな。」
色白の青年の美しい唇は、笑んでいるように見える。
しかし、目で、気配で、『捕らえる』意志を伝えてくる。
答えを間違えればろくな目には合わないだろう。
無難な答えを探そうと前世の知識をフル稼働してみても、こんな修羅場の攻略法に覚えはなかった。
『幼少の頃に親が離婚したときだって、母親が育ててくれることになったから親を選ばずに済んだし。というか物心付いてないから覚えてないし。こんな恐怖の選択迫られたことないよぉ』
しかも妃蜂君の言った言葉の意味が分からない。
身体に何かいるんだろうか。
『え、怖』
今すぐ体を確認したいが、急に脱ぎだしたら不審者だ。
でも口ぶりからして平和な寄生タイプではなさそうだ。
『どうしよ、「片割れとか憎悪の化生とかって何?」って聞いても良いのか…?』
「ボクは未だに背中に住んでるよ。気にかけてくれてありがたい限りだ」
僕の背中に亀裂が入り、背中の皮が口を動かすように伸縮する。
『後ろ誰も居ないのにバッチリ声が聞こえた…。てか背中が喋ってる?』
謎の声に対して妃蜂君は不快そうに眉をひそめる。
「魂だけの存在が私に話しかけるな。きさまが表に出てくれば合法的にその体を殺せるというのに」
「害のないボクらですら殺すとは、国家は随分ルールに厳しいんだね。それにしては…君の婚約者の考えに身分差ゆえの歪みがあるようだけど?」
カタカナ好きなのかな。
背中の喋ってる内容にだいぶ皮肉が入ってる気がする。
その証拠に妃蜂君の目つきがさらに悪くなったし。
「人のなり損ないが。」
妃蜂君は吐き捨てるように言って、くるりと僕らに背を向けた。
熊維君の隣の席に静かに座り、熊維君の腕が腰に巻かれるのを黙って受け入れている。
「誰か知らないけど、あんな仲のいいカップルに水差すのはよろしくないんじゃないか?」
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―――
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※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
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