【完結】妹に人生を狂わされた代わりに、ハイスペックな夫が出来ました

コトミ

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プロローグ

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 幼少期から分かっていた。とても簡単な事。妹の方が顔が可愛くて、可憐で、誰もが振り返るような愛らしさを備えていたことを。それに私はそれを備えてはいなかった。ただそれだけ。生まれてくる時点で人の人生なんて半分ぐらいは決まっていると子供ながらに感じていた。

 でもお母様も、お父様も私が勉強を頑張り、行儀よく品のある子に育つことを嬉しがっていた。これならきっと将来は王子様とだって結婚できるわ。そう母は言ってくれた。もしかしたらいろんな男に求婚されるかもな。父は笑いながらそう言った。
 でも妹のミアだけはそんなこと微塵も思っていなかった。年子なだけに比べられることが多かったから。だから私の方が発育が速いのをミアは嫌がっていた。

 そしてある一つの出来事から、私とミアとの関係には大きくていびつなヒビが入った。

 その日私は本を読みながら難しい言葉を使って、父と母へ感謝を伝える手紙を書いていた。文字がほかの子供よりも早くかけて、その上書く字は綺麗でそれを両親に褒められていた。
 机に向かっていると扉がノックされた。大人がノックする音ではない、子供がか弱くノックする音。私の返事を待たずに、扉が開いてミアが両手を背中に回しながら顔を出した。

「どうしたの?」
「お母様と、お父様が下でお姉様のことを呼んでいたの」
「私のことを?」
「ええ、何か手伝ってほしいんじゃない?だってお姉様は何でもできるんだもの」

 にっこりと笑うミアは私にとって愛らしい妹だった。だから可愛らしいミアの言うことを聞かないわけにもいかず、椅子から降りた。ミアはまるで何か隠すように両手を後ろにしている。幼い私は得に気にも留めず、部屋から出て扉を閉めた。

「部屋へは入らないでね」
「わかってるわよ。早く行ってあげて」

 ミアは階段を下りるまで私の部屋の前で手を振っていた。いつものミアなら伝言を伝えるだけ伝えたら、遊びにどこかへ行ってしまうのに。でも幼い私はそんな難しいこと考えなかった。いつもより機嫌がいいだけ、ただそれだけだと考えていた。
 一階へ降りて、両親のところへ行ってみると、両親はきょとんした表情をして「何も頼むことなんてないけど」と声色変えずに言った。

「でもミアがお母様とお父様が何か手伝ってほしいっておっしゃっていたって」
「ミアが何か聞き間違いでもしたんじゃない?」
「そう、なのかしら」

 不信に思いながら、いつものミアの悪戯ぐらいにしか気に留めなかった。手紙を早く完成したい想いがあったために、廊下を小走りして階段をかけあがった。階段から自分の部屋の扉が開いていることに気が付いた。そこで突然嫌な予感がして、廊下を走って部屋に飛び込んだ。
 扉を開けるとミアが鋏を持って紙を切り刻んでいる。私が来たことを見るとミアは鋏を背中に隠し、眉をひそめた。

「違うもん!ミア何もやってないもん!」
「何もやってないわけないでしょ!なんで私の手紙切り刻んでるのよ!」

 鋏を落として、目に涙を浮かべたミアはそのまま逃げ出そうとした。すぐに私はミアの腕を掴んで問いただした。そして謝らせようとした。ミアは上手く字が書けないから、だから私に嫉妬しただけ。謝れば許そうと思っていた。

「なんで私がお父様とお母様に宛てた手紙を切り刻むのよ!」
「だからミアやってない!」

 涙を流しながら、私のまだ柔らかな腕にミアは爪を立ててひっかいてきた。

「鋏を持ってたでしょ!」

 するとミアは今までにないほどの剣幕で私のことを睨みつけてきた。子供がこんな顔できるものなのかと不審に思ったぐらい。

「お姉ちゃんがミアのできないことやってるのがだめなの!お父様とお母様に愛されてるのはミアなのに、それを横取りするからダメなの!」

 今までに考えられない理論を展開して、すべての愛が自分の物だと考えているミアにとにかく嫌気がさして、幼い私は怒りを抑えることが出来ず、落ちていたハサミでミアのヒラヒラのドレスの裾を切った。ミアは両親に甘やかされていたために、ソフィアは買ってもらえないドレスを買ってもらえていた。私はそれが嫌だった。
 ドレスのほんの一部を糸くずにされたミアは、途端に泣き出し、その鳴き声は一階まで響き渡った。近くにはメイドもおり、私は鋏を持っていた鋏を部屋の隅になげやった。

「おかぁさまぁ!!お姉ちゃんがぁ!」

 すぐさま両親はやってきて、妹に駆け寄った。父はミアを抱きかかえてあやし、母は私ではなくミアに理由を尋ねた。ミアは泣きながらきられたドレスの裾を持つ。母は鋏で切られたドレスを見て、私のことをキッと睨みつけてきた。

「ソフィア!」

 肩が震えた、怒られるのが怖かった。その上ミアが叱られないのが嫌だった。

「なんでミアのドレスを切ったの!」
「だ、だって、ミアが…」

 涙目になって、年子なのに私はあやしてもらえないのが、酷く辛かった。甘えることを我慢しなければいけないのが苦しかった。
 頬を軽く叩かれて、涙があふれ出た。なぜという言葉しか頭に浮かばない。私が一生懸命書いた手紙を破っても怒られないのに。ちょっと服を切っただけで怒られた。ミアに引っかかれた腕がいまさらズキズキと痛みだし、腕を強く握りしめた。

「泣いたって駄目なの!お姉ちゃんでしょ!」
「い、一歳しか、変わらないのに…なんで」
「早く生まれたんだから、ソフィアはお姉ちゃんなの。お願いだからお母様の言うことを聞いて。貴方は良い子でしょ」
「そうだソフィア、なんでそんな意地悪するんだ」

 いつもは優しい父もミアの味方。流す涙を拭いてくれる人もいない、抱き上げて慰めてくれる人もいない、ただ歯を食いしばって我慢するしかなかった。

 その日のことはいつでも鮮明に思い出せる。それが始まりのゴングのようなものだったから。
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