【完結】妹に人生を狂わされた代わりに、ハイスペックな夫が出来ました

コトミ

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第5話

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 馬車に乗り込んだソフィアは驚きと、悲しみと、怒りと様々な感情で心臓が高鳴っていた。呼吸が乱れて、足の裏と、頬が痛む。そして目の前に座る青年はソフィアの顔を覗き込み、優しく微笑み、細く白い手を取った。

「僕は君の味方だよ」
「貴方はどなたなのですか。私は貴方様を存じ上げません」

 疲弊しきった黒い瞳にうつる青年は穏やかだった。

「自己紹介をしようか。僕はウィル・ケイルトン」
「ケイルトン様ですか。わたくしは、ソフィア・ハンプソンと申します。先ほどはありがとうございました」
「これは僕が勝手にやったことだから。気にしないで。それに謝るのは僕の方だ。かってに馬車に連れ込んでしまった。何の罪もないような、大人しそうな君が多勢に無勢に罵られているところを見て癪に障った」

 自らのために行動を起こしてくれる人間がソフィアの周りには今までいなかった。両親も完全にミアの味方になり、婚約者もとられて、場を支配された自分に味方なんていないとソフィアは感じていた。だからこそ驚きだった。まさか助けてくれる人間がいるとは。

「男が女に手を上げるなんてありえないな。痛いだろ」
「心配なさらないでください。大丈夫です」
「本気で殴られていたと思うのだけれども」
「そんなことありません。ちょっと高いヒールを履いていただけです」

 頬が痛いことを我慢しながら作り笑顔を浮かべるソフィアを心配そうに眺めて、ハンカチを取り出した。

「じゃあ、せめて足だけでも」

 土と血でまみれる足に手を伸ばすウィルをみて、ソフィアは足をドレスの中にひっこめてしまった。

「汚れていますし、醜いですから。そのようなことはおやめください」
「菌が入って悪化してしまう。足をお出しなさい」
「そんなお手が汚れます」
「自分でもドレスで足の汚れを落とせないだろう。さあ、足を出して」

 しばらくドレスの中に足を引っ込めて抵抗をしていたソフィアだったけれども、せっかくの親切心を無下にすることも心苦しく、顔を赤くして、白く細い足を差し出した。今まで感じたことのない羞恥心に襲われた。

「それでよろしい」

 白くキメの細かいのは足も同じだった。けれども薄く血がその肌を流れ落ちていく。冷たいソフィアの手に温かい手が添えられて、ハンカチで汚れをぬぐった。

「も、申し訳ございません」
「謝ることじゃない。傷に汚れが入ってしまったら、大変だ。屋敷へ行ったら、しっかり水で洗い流そう」
「お屋敷ですか」

 キョトンとしたようにソフィアが聞いた。

「嫌なら君の屋敷に戻ろう。拉致のようになってしまったから、ソフィアの意思に反して連れて行ってしまったら本当に拉致だ。僕は犯罪者にはなりたくないから」
「ご迷惑ではありませんか?」
「僕は今一人暮らしだからね。迷惑なんてことは無いよ。人がいればにぎやかになるだろうし。古い洋館だから」

 それを聞いてまたソフィアは困惑した。

「失礼を承知でお聞きしますが、おいくつですが」

 ソフィアの目にはウィルは自分と同じぐらいか、それより下に見えている。堂顔な上に艶やかな髪色、それに身長もそこまで高くない。ソフィアと同じぐらいだ。

「よく間違えられるんだよね。僕二十二だよ」

 四歳も年上だったことに驚きソフィアは「お若く見えます」と思わず口にした。確かに若そうな割には落ち着き、冷静だ。

「チビだし、こどもっぽい顔してるから。よく間違えられるよ。十六とか、十五とか。おかげで若い少女に囲まれるけど、僕大人っぽい人好きだし」

 ということはまだまだ自分は子供だろうかとソフィアは考えた。

「それで、あのケイルトン様はなぜ舞踏会にいらっしゃっていたのですか?顔見知りであったら申し訳ないのですが、わたくし、初めてお会い気がしましたので」
「そう、初めてだよ。なんせ僕隣国に住んでいたからね。ここには最近越してきて、とある舞踏会へ出向いたとき、ミアちゃんに舞踏会の招待状を貰ったの。誰でも来ていいってことだから行ってみただけ。本当に興味本位。そしたら修羅場になって逃げた君を追いかけたってわけ」
「そうでしたか。なぜこちらへ引っ越してきたのですか?」
「僕こう見えていろいろと会社を経営していてね。それでこの国のこの地域がちょうどよかったから引っ越してきただけ。それ以上の話は屋敷でしようか」

 ウィルが窓の外を見たので、ソフィアもそれにつられて外を眺めた。そこには高い塀があり、広い庭があり、その中心にレンガ造りの洋館が佇んでいた。ツタの絡まった哀愁あふれる西洋建築の建物。それが見えて、ソフィアは両手を握りしめた。まさか自分がこんなところに連れてこられるだなんて全く思っていなかったのだ。

「趣のある洋館ですね」
「安かったから買い取ったんだ。僕自身あまり住むところに拘りはないし。住むためだけに屋敷を立てるっていうのも気が進まないから」

 屋敷の庭の間を馬車で通っていき、噴水のある玄関前で馬車は止まった。ソフィアは足をつこうとしたけれどもそれを阻害された。

「お馬鹿さん。せっかく拭いたのに」
「すみません。ですがお手を煩わせるわけにはいきませんし」
「僕の肩に手を回して」

 言われた通りに右手を回すと、ウィルはソフィアのひざ下、背中に手を置いて、そのまま横抱きした。まさか抱き上げられるとは思わなかったソフィアは落ちることを恐れて抱き着いた。

「若い女性に抱き着かれるというのも悪くないね」
「すみません。力持ちですね」
「君は軽いよ」
「そうでしょうか」

 そのままお屋敷の中に入り、客間でソフィアは降ろされた。

「よし、手当をするから。そこで待ってて」

 ウィルが部屋から居なくなるとソフィアは周りを見渡した。絵画、アンティーク調の家具たち。まるで夢の中に居るようで、体から無駄な力が抜けた。
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