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第9話
入室したウィルはソフィアの隣に立ち、ソフィアの腰に手を回した。
「ウィル様…」
「遅れて申し訳ありません。いささか仕事が長引きまして」
二人の様子に三人は目を丸くした。体の近さからして、これは雇用主と、使用人という立場では絶対にない。これは夫婦のような距離感。
「ソフィア!これはどういうことなの、働かせてもらうんじゃなかったの?」
「手紙ではソフィアを雇用するという話でしたけれども、本当は結婚しようかという話になりまして」
結婚という単語を聞いてミアは勢いよく立ち上がった。そして嘲笑うように「嘘でしょう、お姉様」と口角を上げた。
「こんな庶民と結婚するの?本当に?嘘でしょう?」
さも嬉しそうにミアは小さく笑い続ける。
「雇用よりはまだましだけれども、君いくつで、仕事は何をして、どれぐらいかせいでいるんだ」
父親も呆れ顔から少しはまともな表情に変わったけれども、ウィルのことを疑っているのは違いない。眉間にしわを寄せている。
それに対してウィルはまったく物おじせず、にっこりと笑う。
「年齢は二十二です。職業は会社の経営を。最低でも一年に八百ゴールドぐらいですかね」
ソフィアは驚きで口を堅く結んだ。
国民の平均的な月給は二、三ゴールド。年収に換算すれば三十ゴールドが平均的。けれどもウィルはそれをはるかに上回る年収。しかもウィルは『最低でも』と最初につけている。普通ならばこれ以上のお金が手に入っているということ。
収入を聞いて反応を見せたのは父親ではなく、ミアの方だった。
「会社の経営以外にも貿易業などもやってるんです」
「そうなのか。貴族と同じぐらいのお金を稼いでいると」
「貴族様とは比べ物になりませんよ」
軽やかに余裕のある笑みを浮かべるウィルは、ソフィアの父親と同じか、それ以上のお金を稼いでいる。いわゆる大商人という奴だ。
「それで、君はソフィアと結婚しようとしているのか」
「はい。僕はソフィアに一目ぼれしました」
無邪気にソフィアと顔を近づけるウィルに対して、母親は手を握りしめていた。
「なんで、こんな男なのよ。ただの女たらしじゃないの?ソフィア、貴方は男を見る目がないから、騙されているのよ。ソフィアこの男が好きなの?どうなの?」
「酷いですね。純愛ですよ」
「貴方なんかには聞いていないわ!」
母親に攻め立てられてソフィアは涙を我慢して、母親を絶望させるためにも、ウィルの腕を取って、手を握りしめた。
「愛しています。今までの誰よりも」
「なんでこんな男なのよ。もっといい男の一人や二人いるでしょう。なんで、なんでなのよ」
「ごめんなさいお母様。自分で働いてでも、お母様には恩を返すから。この結婚を許して」
反論も何も、母親のことを受け入れてお金を返す提案すらをした。もうこれ以上怒り叫ぶことはできないと感じた母親はカバンを取り、二人の横を通って、玄関へと向かった。
「ソフィア、結婚するなら、縁を切る」
「ええ、分かっています。お父様」
「その覚悟があるなら、もういい」
父親も出て行ってしまって、ミアがただ一人残った。ミアは着てきたらしいコートを取ると、羽織って、帽子を被った。
「本当に?」
「本当に結婚しますよ」
ウィルに対してミアは不機嫌だった。
「そういうことじゃない。お姉様のこと本当に好きなんですか?お姉様はただの秀才ですよ。男の人を喜ばせる方法なんて全く知らない処女ですし」
「初めてを貰えるのは男としては嬉しいものだと思うけど?」
笑っているウィルに対して、ミアは少し俯いた。
「こんなこと言ったらいけないんだろうけど、お姉様って心を許した人には癇癪を起しますし、とってもわがままなんです。それに振り舞われたのなら、すぐにお姉様と別れてくださいね」
心配そうな複雑な表情でそう言って両親の後を追った。ウィルの顔を見上げてみるとミアの背中を睨みつけた。
「すみません、ありがとうございました」
「どういたしまして。でも君は本当に家に帰らない方が良いね。あの妹本当にヤな奴だ」
「ウィル様…」
「遅れて申し訳ありません。いささか仕事が長引きまして」
二人の様子に三人は目を丸くした。体の近さからして、これは雇用主と、使用人という立場では絶対にない。これは夫婦のような距離感。
「ソフィア!これはどういうことなの、働かせてもらうんじゃなかったの?」
「手紙ではソフィアを雇用するという話でしたけれども、本当は結婚しようかという話になりまして」
結婚という単語を聞いてミアは勢いよく立ち上がった。そして嘲笑うように「嘘でしょう、お姉様」と口角を上げた。
「こんな庶民と結婚するの?本当に?嘘でしょう?」
さも嬉しそうにミアは小さく笑い続ける。
「雇用よりはまだましだけれども、君いくつで、仕事は何をして、どれぐらいかせいでいるんだ」
父親も呆れ顔から少しはまともな表情に変わったけれども、ウィルのことを疑っているのは違いない。眉間にしわを寄せている。
それに対してウィルはまったく物おじせず、にっこりと笑う。
「年齢は二十二です。職業は会社の経営を。最低でも一年に八百ゴールドぐらいですかね」
ソフィアは驚きで口を堅く結んだ。
国民の平均的な月給は二、三ゴールド。年収に換算すれば三十ゴールドが平均的。けれどもウィルはそれをはるかに上回る年収。しかもウィルは『最低でも』と最初につけている。普通ならばこれ以上のお金が手に入っているということ。
収入を聞いて反応を見せたのは父親ではなく、ミアの方だった。
「会社の経営以外にも貿易業などもやってるんです」
「そうなのか。貴族と同じぐらいのお金を稼いでいると」
「貴族様とは比べ物になりませんよ」
軽やかに余裕のある笑みを浮かべるウィルは、ソフィアの父親と同じか、それ以上のお金を稼いでいる。いわゆる大商人という奴だ。
「それで、君はソフィアと結婚しようとしているのか」
「はい。僕はソフィアに一目ぼれしました」
無邪気にソフィアと顔を近づけるウィルに対して、母親は手を握りしめていた。
「なんで、こんな男なのよ。ただの女たらしじゃないの?ソフィア、貴方は男を見る目がないから、騙されているのよ。ソフィアこの男が好きなの?どうなの?」
「酷いですね。純愛ですよ」
「貴方なんかには聞いていないわ!」
母親に攻め立てられてソフィアは涙を我慢して、母親を絶望させるためにも、ウィルの腕を取って、手を握りしめた。
「愛しています。今までの誰よりも」
「なんでこんな男なのよ。もっといい男の一人や二人いるでしょう。なんで、なんでなのよ」
「ごめんなさいお母様。自分で働いてでも、お母様には恩を返すから。この結婚を許して」
反論も何も、母親のことを受け入れてお金を返す提案すらをした。もうこれ以上怒り叫ぶことはできないと感じた母親はカバンを取り、二人の横を通って、玄関へと向かった。
「ソフィア、結婚するなら、縁を切る」
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「本当に?」
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「そういうことじゃない。お姉様のこと本当に好きなんですか?お姉様はただの秀才ですよ。男の人を喜ばせる方法なんて全く知らない処女ですし」
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笑っているウィルに対して、ミアは少し俯いた。
「こんなこと言ったらいけないんだろうけど、お姉様って心を許した人には癇癪を起しますし、とってもわがままなんです。それに振り舞われたのなら、すぐにお姉様と別れてくださいね」
心配そうな複雑な表情でそう言って両親の後を追った。ウィルの顔を見上げてみるとミアの背中を睨みつけた。
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「どういたしまして。でも君は本当に家に帰らない方が良いね。あの妹本当にヤな奴だ」
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