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ミアから、手紙が送られてきた。
『お姉様、ジャック様のお嫁さん探しの舞踏会に招待されましたの。だから、ジャック様の女性のタイプ聞きだしてくれませんか?』
たったそれだけ書かれた手紙だった。
舞踏会って、ジャック様の結婚相手を探す舞踏会のこと。と言う事が初めて分かった。まるでシンデレラの舞踏会のようなことを本当にするものだとは、思っていなかった。
けれど、ジャック様が結婚していないことが私も不思議だった。なぜ結婚しないんだろうって、まあ、私も結婚するはずだったけど、結婚できなくなったし。
私はもう結婚なんてできないだろうから、関係ないことだけど。ミアのために動くのは嫌だな。
違うな。ミアが公爵様と結婚するのがきっと許せないんだ。
これは嫉妬?いや、違うミアが幸せになるのが嫌なだけよ。
ミアは確かに可愛いいから、子爵家だとしても、ジャック様は結婚したいって思うかもしれない。そうすると、私はきっとここにいられなくなる。
それなら、ジャック様が大っ嫌いな女性のタイプを聞きだして、ミアに送り付けてやろう。
「エミリア、ダンスの練習をするわよ!」
部屋の中にエリーゼがずかずかと入って来た。そしてその後ろにはヴァイオリニストが付いてきている。
「ヴァイオリニストまで」
「リズムに合わせて、踊れるようにしないと」
まさかヴァイオリニストまで連れてくるとは思わなかった。
「今日は大広間が空いてるの。誰も客人が来ないから。そこで練習しましょう」
「大広間って、あそこ舞踏会とか晩餐会で使うところじゃないですか。勝手に使ってもいいんですか?」
「いいのよ別に。だって大きなパーティをするとき以外ほとんど使わないんだもの」
「ファミール様は?」
「勉強したいんですって。貴方が出した宿題をどうしても解けなくて悔しいって」
「あれは宿題というか、ただの謎解きですけどね」
私は大きなシャンデリアがいくつも並べられ、大理石の床を、見て、ワクワクとした。こんなに大きな部屋を私はほとんど見たことがない。
「ここにたくさんの人がやってくるんですね」
「人が多すぎて、もみくちゃにされちゃうの。もっと人を呼ぶときは、王宮を借りたりもするのよ。王宮の方が大きいから」
「これ以上大きな部屋でパーティだなんて…」
「それと、今日はダンスの先生を連れてきてあげたわ」
私が見てみると、そこには黒いドレスを着て、眼鏡をかけた、ピシッとした男性が居た。
「どうも、クリス・スティーブです。ダンス講師をしています」
「ダンスの講師?」
「以前エリーゼ様にダンスを教えておりました。女性にダンスを教えてほしいということで参上いたしました」
「よろしくお願いいたします」
それからもうビシバシと、指導を受けて、私は三十分たったころにはへとへとになっていた。スティーブさんの指導は怖いとかそういう物ではない。とても一つ一つの所作に厳しくて、前に進めない。
それにても片目で見ることには慣れてきたはずだったが、ダンスを踊るときの距離感がどうしてもつかみづらい。
「こんなもので疲れてしまうとは。まだまだですね」
「ちょっと、厳しすぎやしませんか…エリーゼ様」
エリーゼは椅子に座って紅茶を飲んでいる。
「私だって、クリスから、ビシバシしごかれたの。三十分ぐらいで弱音を吐かないでよ」
そこへ仕事の休憩で通りかかったジャック様までやって来た。
「楽しそうなことをしているねぇ」
「そうでしょ、お兄様。エミリア、ワルツも踊れないっていうのよ」
「そうか。踊れなかったのか」
「いえ、ただ、少し体力がないだけで」
床にへたり込む私にジャック様は手を差し伸べてきた。
「一曲どうですか?」
私は息を切らしながら、ジャック様を見た。いつものように涼しい顔をしている。太陽光で黒髪が照って、とても綺麗だ。なんでこんな美しい人は私なんかに手を差し伸べてきてくれるのだろうか。全く分からない。
その手を握ろうとして、でも私はうつむいた。
「も、申し訳ございません。ちょ、ちょっと、休ませてください…」
「な!男性からのお誘いを断るとは!なんと無礼な!」
クリスが声を荒げてきた。
「まあ、まあ、落ち着けクリス。私は別にいいのだよ。それに、彼女は片目がほとんど見えていないんだ」
「目が見えないだけであれば、髪で隠す必要はないのでは?」
「紳士ならば触れてはいけないところは触れない物だろ」
「失礼しました」
女性への態度としてクリスもそこらへんはわきまえてくれているらしい。
「片目にはまだ慣れないかい?」
「ほとんど慣れました。ですが、ダンスとかはステップを踏んだり、回ったりするので、目が回ってしまって」
「あまり無理はしないでおくれ。エリーゼ、クリス、今日はここまでにして、エミリアを休ませてやれ」
「えー!まだ全然やってないのに。お兄様エミリアになんで優しいのよ」
「一種の障害を持っているんだ。あまり無理をすると、怪我に触る」
私はジャック様の計らいにより、エリーゼ様と、クリス様から解放された。
私が壁に手をつきながら、戻っていると、ジャック様に右手を取られ、左手を腰に回された。
「ひあ!だ、大丈夫ですよ」
おかしな声が出て私は、顔が真っ赤になった。
「部屋まで送るだけだ」
私は頭の中がパンクした。とても良い薔薇の香りがするものだから。
「あの、お話するお時間ありましたら、良いですか?」
『お姉様、ジャック様のお嫁さん探しの舞踏会に招待されましたの。だから、ジャック様の女性のタイプ聞きだしてくれませんか?』
たったそれだけ書かれた手紙だった。
舞踏会って、ジャック様の結婚相手を探す舞踏会のこと。と言う事が初めて分かった。まるでシンデレラの舞踏会のようなことを本当にするものだとは、思っていなかった。
けれど、ジャック様が結婚していないことが私も不思議だった。なぜ結婚しないんだろうって、まあ、私も結婚するはずだったけど、結婚できなくなったし。
私はもう結婚なんてできないだろうから、関係ないことだけど。ミアのために動くのは嫌だな。
違うな。ミアが公爵様と結婚するのがきっと許せないんだ。
これは嫉妬?いや、違うミアが幸せになるのが嫌なだけよ。
ミアは確かに可愛いいから、子爵家だとしても、ジャック様は結婚したいって思うかもしれない。そうすると、私はきっとここにいられなくなる。
それなら、ジャック様が大っ嫌いな女性のタイプを聞きだして、ミアに送り付けてやろう。
「エミリア、ダンスの練習をするわよ!」
部屋の中にエリーゼがずかずかと入って来た。そしてその後ろにはヴァイオリニストが付いてきている。
「ヴァイオリニストまで」
「リズムに合わせて、踊れるようにしないと」
まさかヴァイオリニストまで連れてくるとは思わなかった。
「今日は大広間が空いてるの。誰も客人が来ないから。そこで練習しましょう」
「大広間って、あそこ舞踏会とか晩餐会で使うところじゃないですか。勝手に使ってもいいんですか?」
「いいのよ別に。だって大きなパーティをするとき以外ほとんど使わないんだもの」
「ファミール様は?」
「勉強したいんですって。貴方が出した宿題をどうしても解けなくて悔しいって」
「あれは宿題というか、ただの謎解きですけどね」
私は大きなシャンデリアがいくつも並べられ、大理石の床を、見て、ワクワクとした。こんなに大きな部屋を私はほとんど見たことがない。
「ここにたくさんの人がやってくるんですね」
「人が多すぎて、もみくちゃにされちゃうの。もっと人を呼ぶときは、王宮を借りたりもするのよ。王宮の方が大きいから」
「これ以上大きな部屋でパーティだなんて…」
「それと、今日はダンスの先生を連れてきてあげたわ」
私が見てみると、そこには黒いドレスを着て、眼鏡をかけた、ピシッとした男性が居た。
「どうも、クリス・スティーブです。ダンス講師をしています」
「ダンスの講師?」
「以前エリーゼ様にダンスを教えておりました。女性にダンスを教えてほしいということで参上いたしました」
「よろしくお願いいたします」
それからもうビシバシと、指導を受けて、私は三十分たったころにはへとへとになっていた。スティーブさんの指導は怖いとかそういう物ではない。とても一つ一つの所作に厳しくて、前に進めない。
それにても片目で見ることには慣れてきたはずだったが、ダンスを踊るときの距離感がどうしてもつかみづらい。
「こんなもので疲れてしまうとは。まだまだですね」
「ちょっと、厳しすぎやしませんか…エリーゼ様」
エリーゼは椅子に座って紅茶を飲んでいる。
「私だって、クリスから、ビシバシしごかれたの。三十分ぐらいで弱音を吐かないでよ」
そこへ仕事の休憩で通りかかったジャック様までやって来た。
「楽しそうなことをしているねぇ」
「そうでしょ、お兄様。エミリア、ワルツも踊れないっていうのよ」
「そうか。踊れなかったのか」
「いえ、ただ、少し体力がないだけで」
床にへたり込む私にジャック様は手を差し伸べてきた。
「一曲どうですか?」
私は息を切らしながら、ジャック様を見た。いつものように涼しい顔をしている。太陽光で黒髪が照って、とても綺麗だ。なんでこんな美しい人は私なんかに手を差し伸べてきてくれるのだろうか。全く分からない。
その手を握ろうとして、でも私はうつむいた。
「も、申し訳ございません。ちょ、ちょっと、休ませてください…」
「な!男性からのお誘いを断るとは!なんと無礼な!」
クリスが声を荒げてきた。
「まあ、まあ、落ち着けクリス。私は別にいいのだよ。それに、彼女は片目がほとんど見えていないんだ」
「目が見えないだけであれば、髪で隠す必要はないのでは?」
「紳士ならば触れてはいけないところは触れない物だろ」
「失礼しました」
女性への態度としてクリスもそこらへんはわきまえてくれているらしい。
「片目にはまだ慣れないかい?」
「ほとんど慣れました。ですが、ダンスとかはステップを踏んだり、回ったりするので、目が回ってしまって」
「あまり無理はしないでおくれ。エリーゼ、クリス、今日はここまでにして、エミリアを休ませてやれ」
「えー!まだ全然やってないのに。お兄様エミリアになんで優しいのよ」
「一種の障害を持っているんだ。あまり無理をすると、怪我に触る」
私はジャック様の計らいにより、エリーゼ様と、クリス様から解放された。
私が壁に手をつきながら、戻っていると、ジャック様に右手を取られ、左手を腰に回された。
「ひあ!だ、大丈夫ですよ」
おかしな声が出て私は、顔が真っ赤になった。
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