傷物にされた私は幸せを掴む

コトミ

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 私は天井を眺めて、ぼうっとしていた。頭が重くて、手を上げることも苦しい。顔がすごく熱くて、昨日の事が嫌と言うほどに想い起こされる。ルーク様に転びそうになったのを助けられたこと、ジャック様へ私なりの告白をしてしまったこと。
 
「いやあああ!忘れたいのに忘れられないぃ…」

 何も考えたくなくてひたすらに頭を枕へ打ち付けた。でも突然背中に何か重い物がどしんと乗っかって、顔が枕へ沈んだ。

「病人が何叫んでるのよ!」
「落ち着いて」

 エリーゼ様とファミール様の声がした。多分背中に乗っかっているのも二人。
 叫んでいるつもりはなかったのに、叫んでしまっていた。あまりに昨日の事が自分の中ですごく大きい問題だったから。
 仰向けになって、病人らしく布団を首までかけた。

「それにしてもなんで熱出したの?昨日まで元気だったのに」
「病気?」
「多分知恵熱です。一日休めば落ち着きます」

 知恵熱なんて何年ぶりに起こったかしら。幼少期はたまに知恵熱をだしていた記憶があるけど、成長してからはめっきり熱出して出してない。

「なんかね。お医者様が来てくれるみたいよ。メイドが言ってた」
「リル先生じゃなかった?来てくれるのって」

 リル先生?リル先生は腕のいいお医者様だけどこっちには住んでいない。昨日お帰りになったはずだから、多分リル先生じゃない、他のお医者様のはず。

「リル先生はこちらの領土にお住まいではありませんので、他のお医者さまだと思いますよ」
「へえ、じゃあ誰だろうね」

 もう昨日の事は考えることをやめて、静かに寝て居よう。そうでないと私はぐるぐる考えすぎて、答えが出ないままだから、健康になってから合理的、論理的な答えを出しましょう。
 医者が来るまでの間、エリーゼ様に額に濡れたタオルを乗せてもらったり、ファミール様に頭を撫でられていたりした。
 そうしてお昼前にやっと部屋の扉がノックされて、メイドが顔を出した。

「お医者様がいらっしゃいました」

 思い頭を持ち上げて、挨拶をしようとしたのだけれども、目に入ってきたその人を見て私は頭の中が一時停止して、時が止まったと思う。

「昨日ぶりですね」

 身長高めの眉目秀麗な男性。リル先生に似た柔らかい雰囲気。
 なんで今貴方が来るんですか。

「誰?」
「いつもここへ来るリル先生の三男です。エリーゼ様、ファミール様」
「へえ」
「お医者様なの?」

 部屋へ入ってきたルーク様は医者の道具を持っていた。

「将来の医者です。でも安心してください。研修で何人も診察して、医者の仕事は本格的に行っておりますので。あと試験をクリアすれば本格的に医者になれるんですけどね」
「ちゃんとエミリアの事診察してね」
「もちろんです」

 ど、どうしよう。私はここで何かしらの選択を迫られるの?なんでこの人来たの?医者ってこの人以外ここに居ないわけ?私どうすればいいのよ!
 おもわず私はベッドの端の方へ寄って、布団を両手で握りしめていた。

「どうしました?」

 苦笑いさせてしまっている。

「き、昨日は、き、きの、昨日は…その」
「気にしてたんですか。別に大丈夫ですよ。とりあえず熱計ってもらえますか」
「は、はい、すいません」
「なんで謝るんです」

 そう言ってルーク様は笑っていた。
 もう何を言っても恥しか出てこない。これ以上話すことはやめよう。と黙って温度計を脇へ挟んだ。それにしてもルーク様はリル先生から結婚の話とか、婚約の話を聞いているのかしら。そういう話題はお願いだから出さないでください!

「ではエリーゼ様とファミール様は少し部屋から出て行ってくださいね」

 嘘でしょ!!

「えーなんで」
「少しだけですから」

 そうやってエリーゼ様とファミール様は部屋から出て行った。絶対気まずくなる。

「脈を計らせてください」

 右腕を出した。

「きちんとご飯食べてますか?」
「え、あ、まあ、はい」
「昨日踊っていても思ったんですけど、結構やせ型ですよね。きちんとご飯は食べないとダメですよ」
「は、はい」

 具合悪いはずなのに、変に緊張して、なんか頭が変に冴えてる。

「脈が早めですね。温度計見せてください」

 温度計を手渡す。

「39度ありますね。結構高熱。熱以外に喉が痛いとか、関節が痛いとか、頭が痛いとか、ありますか」
「体が、ダルイだけ、です」
「それじゃあ疲労な気がしますね。昨日大変そうでしたし。私も疲れました」

 それから、いくつか薬というか漢方を貰った。

「疲労回復、生理痛、冷え性なんかは、現代医学ではなおしにくいですが、漢方なら効き目があります」
「東洋医学にお詳しいんですね」
「大学では東洋医学を中心的に学んでおりましたので」

 東洋医学か。現代の医療じゃ、瀉血か、民間療法の薬学ぐらい。漢方は現代の医療にてきしているのかも。

「それにしても時期公爵のジャック様から寵愛を受けているという噂は本当みたいですね」

 くらくらとする頭の中にひやりとする冷たい何かが降ってきた気がした。



 
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