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第九話
不思議な人だ。棘が無くて、怒ることが無く、いつも波の立たない海みたいに静かにそこにたたずんでいる。誰にでも紳士で、自分の権力や財力を見せびらかしたり、自慢したりすることはない。それよりも有り余るお金の使い道が分からず、貧しい人々にそれを無償に与えている。
ウィンチェスター領には、教会は少ない代わりに孤児院や、貧しい人々が住まうことができる施設のようなものがある。それから学校もあり。魔法使いを輩出するため、小さな魔法学校まである。教会が権力を持つ代わりに、ジェームズ様に権力が集中している。戦いが起こればジェームズ様が駆けつけて、勝利して帰ってくる。この国自体の景気は良くないかもしれないけれど、ウィンチェスター領は上手くやっている。
「最近筋力が上がった。それから攻撃されると、その攻撃が相手へ跳ね返っていく。跳ね返るというか、見えない壁のような出来て攻撃が当たらない」
様々な果物と白パン、紅茶が置かれた朝食の場の場にネグリジェのまま椅子に座った。目の前のジェームズ様は鶏肉のサラダを食べながら、静かにそう言った。
「私が筋力増幅と、守備力強化の魔法をかけたので」
「驚いた。唐突に強くなったから。どうしてそんなことをしたんだ」
「ジェームズ様にお亡くなりになられては困りますので」
湯気が上がるレモンが浮いた紅茶をゆっくりと飲み、小さく息を吐いた。温かい紅茶が体にしみわたっていくのが分かる。
「疲れないか?」
「前の婚約者には、10年近くずっとこの二つの魔法を与えていましたが、大丈夫でした。私は別に支障はありませんよ」
「そうか。私のためにありがとう」
そう言って、ジェームズ様は、頬にある切り傷を指先で触った。感謝されるなんて久しぶりだった。
「いえ、別に」
特別何かしたわけがない。私はただ単純なことをした。この人が死んでしまったら、私も上手くやっていけないだろうし。子供も生まれていないし。私の立場がなくなってしまう。
それからいつものように朝食を取る。ジェームズ様は健康的な食事を大量に食べている。私はその五分の一程度しか食べない。白パン一切れと、果物をいくつか。そうすると、もう満足してしまう。元々小食であるし、大量に食べても不健康になるだけ。
「今日は遅くなるかもしれない」
「わかりました。私も今日は、遅いかもしれません」
最近私は魔法学校で魔法を教えている。午前中は子供達に簡単で、分かりやすくて、楽しい魔法を教え、午後は治癒魔法や、味方のスキルアップなどを行う魔法使いの教育を行っている。子供たちはもちろん、大人達もかなり素直に私の話を聞いてくれている。
やりがいがあるし、楽しいし、ここへやってきてよかった。結婚してよかった。
「くれぐれも無理はしないでくれ」
「はい。ジェームズ様も、御無理をなさらないように」
お互いに適度に距離があって、常識があって、良心がある。元々お互いを好きではなかったために、期待をしていない。だから冷めることもない。裏切られることもないし、大体のことが想定内。
とはいっても、すべてがすべてわかるわけではない。人間はそれぞれ大きな傷を背負って生きている。人からは見えない部分に傷を隠し持っている。それが見えにくい人であればあるほどに、大きい場合が多い。それを私は知っている。それが大きな責任を持っていれば持っているほどに傷は深くなっていく。
予想していた通り、ジェームズ様は強い人間ではなかった。いや、ある意味強い人間なのかもしれない。でもすごく繊細で弱い人だった。戦いから帰ってきた日は特に。寝室のベランダへ出て、バルコニーのソファに座ってお酒を飲み、タバコを吸っていた。
私はしばらくの間それに触れず、黙っていた。まだ、私にはどうすることもできない。そうするほどの力が私にはない。
ウィンチェスター領には、教会は少ない代わりに孤児院や、貧しい人々が住まうことができる施設のようなものがある。それから学校もあり。魔法使いを輩出するため、小さな魔法学校まである。教会が権力を持つ代わりに、ジェームズ様に権力が集中している。戦いが起こればジェームズ様が駆けつけて、勝利して帰ってくる。この国自体の景気は良くないかもしれないけれど、ウィンチェスター領は上手くやっている。
「最近筋力が上がった。それから攻撃されると、その攻撃が相手へ跳ね返っていく。跳ね返るというか、見えない壁のような出来て攻撃が当たらない」
様々な果物と白パン、紅茶が置かれた朝食の場の場にネグリジェのまま椅子に座った。目の前のジェームズ様は鶏肉のサラダを食べながら、静かにそう言った。
「私が筋力増幅と、守備力強化の魔法をかけたので」
「驚いた。唐突に強くなったから。どうしてそんなことをしたんだ」
「ジェームズ様にお亡くなりになられては困りますので」
湯気が上がるレモンが浮いた紅茶をゆっくりと飲み、小さく息を吐いた。温かい紅茶が体にしみわたっていくのが分かる。
「疲れないか?」
「前の婚約者には、10年近くずっとこの二つの魔法を与えていましたが、大丈夫でした。私は別に支障はありませんよ」
「そうか。私のためにありがとう」
そう言って、ジェームズ様は、頬にある切り傷を指先で触った。感謝されるなんて久しぶりだった。
「いえ、別に」
特別何かしたわけがない。私はただ単純なことをした。この人が死んでしまったら、私も上手くやっていけないだろうし。子供も生まれていないし。私の立場がなくなってしまう。
それからいつものように朝食を取る。ジェームズ様は健康的な食事を大量に食べている。私はその五分の一程度しか食べない。白パン一切れと、果物をいくつか。そうすると、もう満足してしまう。元々小食であるし、大量に食べても不健康になるだけ。
「今日は遅くなるかもしれない」
「わかりました。私も今日は、遅いかもしれません」
最近私は魔法学校で魔法を教えている。午前中は子供達に簡単で、分かりやすくて、楽しい魔法を教え、午後は治癒魔法や、味方のスキルアップなどを行う魔法使いの教育を行っている。子供たちはもちろん、大人達もかなり素直に私の話を聞いてくれている。
やりがいがあるし、楽しいし、ここへやってきてよかった。結婚してよかった。
「くれぐれも無理はしないでくれ」
「はい。ジェームズ様も、御無理をなさらないように」
お互いに適度に距離があって、常識があって、良心がある。元々お互いを好きではなかったために、期待をしていない。だから冷めることもない。裏切られることもないし、大体のことが想定内。
とはいっても、すべてがすべてわかるわけではない。人間はそれぞれ大きな傷を背負って生きている。人からは見えない部分に傷を隠し持っている。それが見えにくい人であればあるほどに、大きい場合が多い。それを私は知っている。それが大きな責任を持っていれば持っているほどに傷は深くなっていく。
予想していた通り、ジェームズ様は強い人間ではなかった。いや、ある意味強い人間なのかもしれない。でもすごく繊細で弱い人だった。戦いから帰ってきた日は特に。寝室のベランダへ出て、バルコニーのソファに座ってお酒を飲み、タバコを吸っていた。
私はしばらくの間それに触れず、黙っていた。まだ、私にはどうすることもできない。そうするほどの力が私にはない。
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