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俺は執務室でいつものように仕事をしている。午前中は今後の国の貿易についての会議があり、そのあとは会談があったり、その合間には資料に目を通さなければならない。
そんな過密スケジュールの中今日もベリンダがリオルを抱きしめてやってきた。お付きの騎士もメイドの制しを振り払って、大声で喚き散らしながら来るのが部屋の中からでも分かった。
「フィル!リオルの家庭教師を変更できないの?朝から勉強させるって言ってるのよ」
「ですから王妃様、朝の一時間だけですよ」
「一時間も子供が椅子に座ってられるわけないでしょ!それにまだ四歳なのに何の教育をする必要があるのよ!」
最近雇った評判のいい家庭教師に唾がかかるほど接近して、大声で喚き散らした。ベリンダはリオルをとにかく溺愛している。一番最初の子だからか、メイリーの何倍も溺愛している。
メイリーはというと、乳母に預けている。リオルの事はベリンダがしっかり面倒を見たが、メイリーは夜泣きが酷く、精神的に疲弊したベリンダは乳母に全部押し付けたのだ。
それからベリンダは少しづつおかしくなっている。リオルの言う事を何でも聞いていたため、食い意地の張るリオルはでっぷりと太った。健康のためにもダイエットをさせたいところなのだが、ベリンダがそれを許してはくれない。
「ベリンダ。たったの一時間だ。俺なんて一日三時間も勉強させられていたし、剣術も習わされていたし。リオルだって今からそんなだとベリンダから離れられなくなってしまうだろう」
「自立ができなくなるって言ってるの?それなら大丈夫よ。今だって部屋は別にして寝てるもの」
昨日だって俺たちの寝室にリオルが来たというのに、大丈夫なわけないだろう。使用人たちからの話によると、リオルはベリンダ意外とはほとんど会話をせず、他の子供よりも発達が遅いらしい。俺ともあまり会話をしない。
「ベリンダ、リオルだってベリンダがずっとべったりだと、成長が遅くなってしまう。お願いだから一日一時間ぐらいは、勉強させてやってくれ」
ベリンダは納得いかないような表情をしていたけれど、リオルがこのままベリンダから離れられなくなったら大変なのはリオル自身なのだ。俺は父親としてそれは避けたいと思っている。
ベリンダとの睨み合いが続いていると、部屋がノックされて「陛下お時間です」という声が聞こえてきた。俺は席を立ち、部屋から出ようとしたとき、ベリンダに強く手を掴まれた。
「今日も遅いの?」
「ああ、仕事がいっぱいに詰まっていて」
俺の手を離すとベリンダはため息をついて、リオルと共に執務室から出て行った。ベリンダとはここ数か月ゆっくり夜を過ごすこともできなくなっている。そのうえゆっくり会えるのは会食などの時だけ。会食の時ベリンダはいつも黙り込んで俺を盾にして何も話さない。
言語が違う相手となんて、翻訳者も付けずに、とにかく俺に丸投げ。愛そうふりまけばいいものを、全くそんなこともしない。一度とにかく愛想をよくしてくれと言ったことがあったのだが、とにかく緊張して食事も喉を通らないというのだ。
ここ最近は俺自身の精神もすり減ってきて、後悔し始めた。ベリンダは王妃になる勉強をしたくないというから、させていなかったけれど、最近の行動は目に余る。周りからも、使用人たちも、他の国の使節や王族たちもこの国自体を見下し始めた。
国王でさえも、あんな教育のなっていない女としか結婚できないと思われている。この国の教育自体の質が低いと思われているだろう。
俺は暗い表情で会議室の椅子に腰を掛けた。腰を掛けたとともに深いため息が出た。そして前のめりになるようにテーブルに肘をつけた。
「それでは戦力拡大をしたいという事です。その理由として、年々隣国の領地が増え、和平を築いているこの国とも衝突する危険性が無いとは言えません。」
隣国のノア・バートルが最近いろんな国に戦争を吹っかけているらしいという噂が回ってきた。実際はどうなのかは分かっていない。けれどそれが本当ならかなりまずい。隣国とは和平協定を結んでいるが、攻めこまれて負けてしまったら、そんなのどうでもよくなる。
また面倒なことになったことだ。貿易で隣国に贔屓でもするか?それじゃあ自分が上だと隣国に思わせてしまう。やはり戦力拡大だけしかないか。
「戦力拡大をするとともに、会談と、会食の機会を増やして、仲を保っていただきたいと思っております」
会食か。ベリンダはバートルの事がとにかく苦手なのだ。そして嫌いな会食だなんて、俺がとにかく大変になるだけではないか。
こうなったら、側室制度を復活させて、ベリンダを側室にして、他の誰か優秀な女を正妻という事にすれば、俺の仕事の負担も減り、会食、会談も良くなる。ベリンダが納得しないことが一番の難点だが。
「そうか。では、すぐにでも話の場を設けるとするか。バートルへ手紙を送っておけ」
「承知しました」
あわよくば、バートルから騎士を引き抜いたり、戦争の知恵なんかも引き出せれば、こっちも万々歳。かなりの手間と時間がかかるが、こうしなければこの国に攻め入られるのも時間の問題か。
そうなればベリンダがとにかく足枷となってしまう。やはり側室制度を復活させるか。優秀な女と言えばエリーゼしか思い浮かばない。あいつは失踪しているというのに。それに戦力拡大にはディレックとマリアの知恵が必要不可欠。
どうしたって、病む負えまい。フラン一族は皆優秀。
「皆よく聞け。これから、エリーゼの捜索を再開する。国外にもとにかく報告しろ。そしてどんなに小さい情報でもいい、そうしたら俺が直接探す」
そんな過密スケジュールの中今日もベリンダがリオルを抱きしめてやってきた。お付きの騎士もメイドの制しを振り払って、大声で喚き散らしながら来るのが部屋の中からでも分かった。
「フィル!リオルの家庭教師を変更できないの?朝から勉強させるって言ってるのよ」
「ですから王妃様、朝の一時間だけですよ」
「一時間も子供が椅子に座ってられるわけないでしょ!それにまだ四歳なのに何の教育をする必要があるのよ!」
最近雇った評判のいい家庭教師に唾がかかるほど接近して、大声で喚き散らした。ベリンダはリオルをとにかく溺愛している。一番最初の子だからか、メイリーの何倍も溺愛している。
メイリーはというと、乳母に預けている。リオルの事はベリンダがしっかり面倒を見たが、メイリーは夜泣きが酷く、精神的に疲弊したベリンダは乳母に全部押し付けたのだ。
それからベリンダは少しづつおかしくなっている。リオルの言う事を何でも聞いていたため、食い意地の張るリオルはでっぷりと太った。健康のためにもダイエットをさせたいところなのだが、ベリンダがそれを許してはくれない。
「ベリンダ。たったの一時間だ。俺なんて一日三時間も勉強させられていたし、剣術も習わされていたし。リオルだって今からそんなだとベリンダから離れられなくなってしまうだろう」
「自立ができなくなるって言ってるの?それなら大丈夫よ。今だって部屋は別にして寝てるもの」
昨日だって俺たちの寝室にリオルが来たというのに、大丈夫なわけないだろう。使用人たちからの話によると、リオルはベリンダ意外とはほとんど会話をせず、他の子供よりも発達が遅いらしい。俺ともあまり会話をしない。
「ベリンダ、リオルだってベリンダがずっとべったりだと、成長が遅くなってしまう。お願いだから一日一時間ぐらいは、勉強させてやってくれ」
ベリンダは納得いかないような表情をしていたけれど、リオルがこのままベリンダから離れられなくなったら大変なのはリオル自身なのだ。俺は父親としてそれは避けたいと思っている。
ベリンダとの睨み合いが続いていると、部屋がノックされて「陛下お時間です」という声が聞こえてきた。俺は席を立ち、部屋から出ようとしたとき、ベリンダに強く手を掴まれた。
「今日も遅いの?」
「ああ、仕事がいっぱいに詰まっていて」
俺の手を離すとベリンダはため息をついて、リオルと共に執務室から出て行った。ベリンダとはここ数か月ゆっくり夜を過ごすこともできなくなっている。そのうえゆっくり会えるのは会食などの時だけ。会食の時ベリンダはいつも黙り込んで俺を盾にして何も話さない。
言語が違う相手となんて、翻訳者も付けずに、とにかく俺に丸投げ。愛そうふりまけばいいものを、全くそんなこともしない。一度とにかく愛想をよくしてくれと言ったことがあったのだが、とにかく緊張して食事も喉を通らないというのだ。
ここ最近は俺自身の精神もすり減ってきて、後悔し始めた。ベリンダは王妃になる勉強をしたくないというから、させていなかったけれど、最近の行動は目に余る。周りからも、使用人たちも、他の国の使節や王族たちもこの国自体を見下し始めた。
国王でさえも、あんな教育のなっていない女としか結婚できないと思われている。この国の教育自体の質が低いと思われているだろう。
俺は暗い表情で会議室の椅子に腰を掛けた。腰を掛けたとともに深いため息が出た。そして前のめりになるようにテーブルに肘をつけた。
「それでは戦力拡大をしたいという事です。その理由として、年々隣国の領地が増え、和平を築いているこの国とも衝突する危険性が無いとは言えません。」
隣国のノア・バートルが最近いろんな国に戦争を吹っかけているらしいという噂が回ってきた。実際はどうなのかは分かっていない。けれどそれが本当ならかなりまずい。隣国とは和平協定を結んでいるが、攻めこまれて負けてしまったら、そんなのどうでもよくなる。
また面倒なことになったことだ。貿易で隣国に贔屓でもするか?それじゃあ自分が上だと隣国に思わせてしまう。やはり戦力拡大だけしかないか。
「戦力拡大をするとともに、会談と、会食の機会を増やして、仲を保っていただきたいと思っております」
会食か。ベリンダはバートルの事がとにかく苦手なのだ。そして嫌いな会食だなんて、俺がとにかく大変になるだけではないか。
こうなったら、側室制度を復活させて、ベリンダを側室にして、他の誰か優秀な女を正妻という事にすれば、俺の仕事の負担も減り、会食、会談も良くなる。ベリンダが納得しないことが一番の難点だが。
「そうか。では、すぐにでも話の場を設けるとするか。バートルへ手紙を送っておけ」
「承知しました」
あわよくば、バートルから騎士を引き抜いたり、戦争の知恵なんかも引き出せれば、こっちも万々歳。かなりの手間と時間がかかるが、こうしなければこの国に攻め入られるのも時間の問題か。
そうなればベリンダがとにかく足枷となってしまう。やはり側室制度を復活させるか。優秀な女と言えばエリーゼしか思い浮かばない。あいつは失踪しているというのに。それに戦力拡大にはディレックとマリアの知恵が必要不可欠。
どうしたって、病む負えまい。フラン一族は皆優秀。
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