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第二話
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その舞踏会にきちんとした赤毛はソフィだけだった。茶髪や、黒髪の女が大多数で、きっと侯爵と結婚したいがために、赤毛だと嘘をついて大広間へ無理に入ってきたのだろう。
阿保みたいな舞踏会ね。ここにいるのはみんな赤毛だけなはずなのに、みんな私のことを凝視しているわ。みんなが同じ赤毛ならそんなこと起こらないはずなのに。ここに来たら、少しは仲間が見つかるかと思っていたのに、全然。
「ソフィ!」
突然そんな声が聞こえて振り向くとそこには、エリーゼが立っていた。エリーゼは茶色に近い赤毛をしている。それに私と同じ子爵令嬢で、平和主義な感覚も合って、趣味もバッチリと合う。
エリーゼには婚約者がいたはずだけど。
「会えると思った」
「エリーゼも来れたのね。なんだか、髪色の検査ガバガバなのね」
「あ、それなら、この舞踏会は誰でも参加できるのよ。私はルークと来たもの」
横からひょっこりと次期伯爵であるルークが顔を出した。二人は仲良く腕を組むと、ソフィへ笑いかけた。二人ともおっとりと雰囲気を纏っている。
「侯爵と結婚できるチャンスが来たのよ。ウィルと別れてよかったじゃない」
「きっとレディ・ソフィなら侯爵様を虜にできますよ」
「そんな、まるきり嘘みたいな話。私は気晴らしに来ただけよ」
するとエリーゼは困ったように笑った。
「元気出して。私と一緒に食事でもしに行きましょ。それじゃあ、ルーク、踊るときにまた」
「うん、はしゃぎすぎないでくれよ」
羨ましい。エリーゼとルークさんはいつも適度な距離を持っていて、戦略結婚だということをお互いに理解し、お互いに愛し合う努力をしている。きっと二人のような人が結婚しても夫婦円満で生活していくことができる人たちなのだと思ってしまう。
「それじゃあ、一緒にご飯食べに行きましょう。あんな男のことなんか忘れて」
「うん、ありがとう」
それにエリーゼはとっても優しい。きっとそれは幼少期からずっと一緒で、お互いのことが手に取るように分かってしまうから。心の奥の物がエリーゼには見透かされてしまう。
「大丈夫って、口では言ってるけど、本当は参ってるんでしょ。夜会や、舞踏会に、いろいろ参加してるみたいだけど、無理しちゃだめよ」
「無理なんてしてない」
「無理してるわよ。あいつのことは、この幸運を得るための、一つの不運だっただけよ。過去は変えられない。今に目を向けるしかない」
本当にもっともな話で、何も言い返すことができなかった。確かに侯爵と結婚できるかもしれない切符を手に入れることが出来たわけだけれど、きっと私は選ばれることはない。いままでそんな風に期待したことで良い結果になったことは一度もない。
今回もそうやって、上げて落とされるだけ。
「次期侯爵の、ケイト・アンダーソン様は、イケメンって噂よ。金髪の美形ですって」
「顔には興味がない。イケメンでも性格が終わっていたら、好かれても大変しょ」
イケメンなら性格もいいなんてそんなことは、99%あり得ない。イケメンほど裏があるって言うことを私は知っているのよ。
それに今まで何人の男たちに私の赤毛を馬鹿にされてきたことか。男より女の方が太刀が悪いけど、顔を合わせて怪訝そうな顔をされたことが何度も何度も。きっとそのケイト様という人も私のような女性のことを馬鹿にしようと赤毛の人を集めたりしたんだわ。
「ねえ、あそこで挨拶しているみたいよ。行ってみましょ」
「え、嫌よ」
「良いから行くのよ」
無理やり手をぐいぐい引っ張られて、ソフィはケイト様がいる方へと引っ張られていった。ケイトがいるらしい場所には人だかりができ、金髪の頭の先が少しだけ見えただけ。
「やっぱりいいわ」
「挨拶しないと」
踵を返し、その人ゴミから抜け出そうとしたとき、手を掴まれソフィは立ち止まった。
「初めまして」
つかまれた手のほうを見ると、160センチのソフィより15センチほど背の高い、ブロンドの前髪をうまく横に流した、眉目秀麗な男性だった。
なぜ手を掴まれた?
「あ、はあ…」
侯爵から挨拶されるとは思わず、そんな空気が抜けるような声しか出なかった。
「ケイト・アンダーソンです。以後お見知りおきを」
彼がそう言った後握られている手に、何か紙のようなものを握らされた。それから細く骨ばった手がするりと離れていき、指が離れた瞬間現実に戻された気がした。
「何なの。全然ソフィの赤毛に反応しなかったじゃないの。なぜ赤毛なんて集めたのかしら。変人ね」
「そうね。だから言ったじゃない。私、少しお手洗いへ行ってくる」
「あ、そう」
なんだかその紙をエリーゼにも見せてはいけない気がした。だから急いで大広間から出て、広い廊下へと出た。人がいないことを確認して、恐る恐る手を開けて、握りしめていた紙を見た。4つ折りにされた普通の紙で、広げてみると、筆記体で「0時に庭園で」と書かれていた。
は?
阿保みたいな舞踏会ね。ここにいるのはみんな赤毛だけなはずなのに、みんな私のことを凝視しているわ。みんなが同じ赤毛ならそんなこと起こらないはずなのに。ここに来たら、少しは仲間が見つかるかと思っていたのに、全然。
「ソフィ!」
突然そんな声が聞こえて振り向くとそこには、エリーゼが立っていた。エリーゼは茶色に近い赤毛をしている。それに私と同じ子爵令嬢で、平和主義な感覚も合って、趣味もバッチリと合う。
エリーゼには婚約者がいたはずだけど。
「会えると思った」
「エリーゼも来れたのね。なんだか、髪色の検査ガバガバなのね」
「あ、それなら、この舞踏会は誰でも参加できるのよ。私はルークと来たもの」
横からひょっこりと次期伯爵であるルークが顔を出した。二人は仲良く腕を組むと、ソフィへ笑いかけた。二人ともおっとりと雰囲気を纏っている。
「侯爵と結婚できるチャンスが来たのよ。ウィルと別れてよかったじゃない」
「きっとレディ・ソフィなら侯爵様を虜にできますよ」
「そんな、まるきり嘘みたいな話。私は気晴らしに来ただけよ」
するとエリーゼは困ったように笑った。
「元気出して。私と一緒に食事でもしに行きましょ。それじゃあ、ルーク、踊るときにまた」
「うん、はしゃぎすぎないでくれよ」
羨ましい。エリーゼとルークさんはいつも適度な距離を持っていて、戦略結婚だということをお互いに理解し、お互いに愛し合う努力をしている。きっと二人のような人が結婚しても夫婦円満で生活していくことができる人たちなのだと思ってしまう。
「それじゃあ、一緒にご飯食べに行きましょう。あんな男のことなんか忘れて」
「うん、ありがとう」
それにエリーゼはとっても優しい。きっとそれは幼少期からずっと一緒で、お互いのことが手に取るように分かってしまうから。心の奥の物がエリーゼには見透かされてしまう。
「大丈夫って、口では言ってるけど、本当は参ってるんでしょ。夜会や、舞踏会に、いろいろ参加してるみたいだけど、無理しちゃだめよ」
「無理なんてしてない」
「無理してるわよ。あいつのことは、この幸運を得るための、一つの不運だっただけよ。過去は変えられない。今に目を向けるしかない」
本当にもっともな話で、何も言い返すことができなかった。確かに侯爵と結婚できるかもしれない切符を手に入れることが出来たわけだけれど、きっと私は選ばれることはない。いままでそんな風に期待したことで良い結果になったことは一度もない。
今回もそうやって、上げて落とされるだけ。
「次期侯爵の、ケイト・アンダーソン様は、イケメンって噂よ。金髪の美形ですって」
「顔には興味がない。イケメンでも性格が終わっていたら、好かれても大変しょ」
イケメンなら性格もいいなんてそんなことは、99%あり得ない。イケメンほど裏があるって言うことを私は知っているのよ。
それに今まで何人の男たちに私の赤毛を馬鹿にされてきたことか。男より女の方が太刀が悪いけど、顔を合わせて怪訝そうな顔をされたことが何度も何度も。きっとそのケイト様という人も私のような女性のことを馬鹿にしようと赤毛の人を集めたりしたんだわ。
「ねえ、あそこで挨拶しているみたいよ。行ってみましょ」
「え、嫌よ」
「良いから行くのよ」
無理やり手をぐいぐい引っ張られて、ソフィはケイト様がいる方へと引っ張られていった。ケイトがいるらしい場所には人だかりができ、金髪の頭の先が少しだけ見えただけ。
「やっぱりいいわ」
「挨拶しないと」
踵を返し、その人ゴミから抜け出そうとしたとき、手を掴まれソフィは立ち止まった。
「初めまして」
つかまれた手のほうを見ると、160センチのソフィより15センチほど背の高い、ブロンドの前髪をうまく横に流した、眉目秀麗な男性だった。
なぜ手を掴まれた?
「あ、はあ…」
侯爵から挨拶されるとは思わず、そんな空気が抜けるような声しか出なかった。
「ケイト・アンダーソンです。以後お見知りおきを」
彼がそう言った後握られている手に、何か紙のようなものを握らされた。それから細く骨ばった手がするりと離れていき、指が離れた瞬間現実に戻された気がした。
「何なの。全然ソフィの赤毛に反応しなかったじゃないの。なぜ赤毛なんて集めたのかしら。変人ね」
「そうね。だから言ったじゃない。私、少しお手洗いへ行ってくる」
「あ、そう」
なんだかその紙をエリーゼにも見せてはいけない気がした。だから急いで大広間から出て、広い廊下へと出た。人がいないことを確認して、恐る恐る手を開けて、握りしめていた紙を見た。4つ折りにされた普通の紙で、広げてみると、筆記体で「0時に庭園で」と書かれていた。
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