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第九話
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「驚いたか?ずっと偽名だったんだよ。テイラーなんて貴族いるわけないだろ」
「そんなことは知ってた」
まるで手紙の中で話していたように、私は敬語なしに言葉を発してしまった。でも言い直す余裕なんてない。とにかくこの熱い顔を隠すことで必死だった。
今まで私、この人にずっと手紙を送ってたの?学園に通っていた時なんて、すぐに焼き捨ててしまいたいようなポエムを書いて送っていたのよ。つい最近だって、弱音を綴った手紙を送ったのよ。それ全部この人に見られてたってこと?
そんな風に頭の中で思考を続けたまま、立ち上がった。勢いよく立ち上がろうとしたためかめまいがして、頭に痛みが走った。よろめき、彼の腕につかまった。すぐに手を離したけれども、彼の方から私の腕を掴んできた。腕をつかんだエリックが一瞬目を丸くしたのが分かった。
「大丈夫か?まだまだ顔色が悪い。食事を持ってこさせるから、しばらくここで安静にしてろ」
ベッドに座り、ズキズキと痛む頭を抱えた。そして部屋を出て行こうとするエリックの背中を目で追った。
「ちょっと、まって。貴方もいい年でしょ。結婚して奥さんがいるんじゃないの?私がここにいていいの?」
「つい最近離婚したよ」
乾いた笑みを浮かべていた。扉が閉まり、革靴の足音が遠ざかっていく。頭の痛みは止まらずに、横になった。
そうだった。新聞で読んだじゃない。なんで忘れていたのかしら。それにその前も彼が離婚したという記事を見た。数えだしたらきりがない。それぐらいエリックは結婚と離婚を繰り返している。
消化に良い食事を食べさせてもらった。時間に余裕を持ち、誰にも何にも追い詰められずに、穏やかに食事をするのなんていつ振りか。久しぶりに飲んだワインは私の体にある力を抜いてくれるようだった。匂いに癒され、味に癒され、アルコールが回った時には頭の痛みが軽減している気がした。
その日私は風呂やトイレ以外部屋から出してもらえなかった。私が寝て居るときエリックの専門医が診察して、過労に睡眠不足だと診断を下したからだろうと、メイドが話してくれた。
次の日の朝も穏やかな目覚めだった。カーテンを開けて窓の外の太陽の光を浴びた時には、頭痛もなくなってはいたが、今まで溜まっていた疲労がどっと押し寄せてくるようだった。体は重く、急に走ったりすると息切れがひどくなる。
昼頃にやってきた医師にはこっぴどく叱られた。今までどれだけ自分の体を酷使してきたのだ。と言われたり、睡眠と食事は何よりも大切なんだと、それらの大切さを熱弁された。もうすぐ死ぬところだった。公爵様が助けなければどうなっていたかとも言われた。でも最後は自分を大切にしなさいと諭された。本当にその通り。
自分は出来るという根拠もない自信、そして人に迷惑をかけたくないという幼稚な考え。本当に私は大人たるべき考え方がなっていなかった。
きっと両親は助けてくれた。それに姉妹たちも。
その日はずっと反省をしながらベッドで眠っていた。メイドからは部屋から出してもらえなかったから。けれど、有り余る時間の有効な活用があった。今まで眠れなかった分を取り返すように泥のように眠った。
ちょうど窓から夕焼けが差し込む時間帯だった。エリックがやってきた。起きようとしたら止められたため、仕方なく横になった。欠伸をしながらやってきて、私が横たわるベッドに彼は腰を掛けた。
「フィリップ伯爵に連絡した。夫人にも」
「父と母に?」
思わず起き上がり、でもすぐに枕に頭を沈めた。夕焼けの光に照らされた彼の背中を眺めていた。
「それから、現フィリップ伯爵にも」
「なんて、伝えたの?」
もう敬語を話すという気にはなれなかったので、手紙のやり取りで行っていたような口調に私は固定していた。それに学園にいた時、エリックに敬語を使う人は少なかった。
「ウチで預かってるって」
「そう」
しばらく沈黙が続いて、ずっと気になっていたことを私は尋ねることにした。
「なんで、私と手紙のやり取りをしてくれたの?ほんとは好きなタイプだと思ってなかったから」
「俺がただの天才で、毎月毎月テストで一番を取ってたと思うのかよ。条件だったんだ。良い成績を取る代わりに、王族らしからぬ態度をとっても見て見ぬふりをしようっていう親父の」
そこで私はやっと人間らしい彼の部分に触れた気がした。王族だから、何でもできるし、何をやっても許されるし、みんなの人気者だって。全部エリックの努力の賜物。成績が良かったのも、人気者だったのも。何をやっても許されたのはその二つがそろっていたから。
「もう一つ。私をここに置いてどうするつもりなの」
「ビオラの両親が迎えに来るまで。俺はどちらかと言えば、現フィリップ伯爵より、君の父親の方が大切だ。だからきっと君をもとの家へ戻したら、君の父親に怒られるだろう」
夢のような淡い期待していたような返事は返ってこなかった。いくら何年も手紙のやり取りを重ねて、つい最近顔を合わせたばかりなんだもの。それにきっと私の容姿に幻滅してる。もとよりこの国に少ない黒髪、肌は不健康な白色。それにやつれたから、顔の頬がこけ、体の肉がそがれ、髪の毛に艶もない。
「うん、ありがとう…」
もっと美しい、ブロンドヘアに曲線美に、容姿に。私は何を考えているのよ。今私は既婚者で、彼は公爵家で人気者で、優秀で。比べたところでまるで釣り合わないし、それ以前の問題。
「…迷惑かけて、ごめん」
「いや」
彼のことなんて嫌いにならなきゃダメよ。自分が苦しまないためにも。
「そんなことは知ってた」
まるで手紙の中で話していたように、私は敬語なしに言葉を発してしまった。でも言い直す余裕なんてない。とにかくこの熱い顔を隠すことで必死だった。
今まで私、この人にずっと手紙を送ってたの?学園に通っていた時なんて、すぐに焼き捨ててしまいたいようなポエムを書いて送っていたのよ。つい最近だって、弱音を綴った手紙を送ったのよ。それ全部この人に見られてたってこと?
そんな風に頭の中で思考を続けたまま、立ち上がった。勢いよく立ち上がろうとしたためかめまいがして、頭に痛みが走った。よろめき、彼の腕につかまった。すぐに手を離したけれども、彼の方から私の腕を掴んできた。腕をつかんだエリックが一瞬目を丸くしたのが分かった。
「大丈夫か?まだまだ顔色が悪い。食事を持ってこさせるから、しばらくここで安静にしてろ」
ベッドに座り、ズキズキと痛む頭を抱えた。そして部屋を出て行こうとするエリックの背中を目で追った。
「ちょっと、まって。貴方もいい年でしょ。結婚して奥さんがいるんじゃないの?私がここにいていいの?」
「つい最近離婚したよ」
乾いた笑みを浮かべていた。扉が閉まり、革靴の足音が遠ざかっていく。頭の痛みは止まらずに、横になった。
そうだった。新聞で読んだじゃない。なんで忘れていたのかしら。それにその前も彼が離婚したという記事を見た。数えだしたらきりがない。それぐらいエリックは結婚と離婚を繰り返している。
消化に良い食事を食べさせてもらった。時間に余裕を持ち、誰にも何にも追い詰められずに、穏やかに食事をするのなんていつ振りか。久しぶりに飲んだワインは私の体にある力を抜いてくれるようだった。匂いに癒され、味に癒され、アルコールが回った時には頭の痛みが軽減している気がした。
その日私は風呂やトイレ以外部屋から出してもらえなかった。私が寝て居るときエリックの専門医が診察して、過労に睡眠不足だと診断を下したからだろうと、メイドが話してくれた。
次の日の朝も穏やかな目覚めだった。カーテンを開けて窓の外の太陽の光を浴びた時には、頭痛もなくなってはいたが、今まで溜まっていた疲労がどっと押し寄せてくるようだった。体は重く、急に走ったりすると息切れがひどくなる。
昼頃にやってきた医師にはこっぴどく叱られた。今までどれだけ自分の体を酷使してきたのだ。と言われたり、睡眠と食事は何よりも大切なんだと、それらの大切さを熱弁された。もうすぐ死ぬところだった。公爵様が助けなければどうなっていたかとも言われた。でも最後は自分を大切にしなさいと諭された。本当にその通り。
自分は出来るという根拠もない自信、そして人に迷惑をかけたくないという幼稚な考え。本当に私は大人たるべき考え方がなっていなかった。
きっと両親は助けてくれた。それに姉妹たちも。
その日はずっと反省をしながらベッドで眠っていた。メイドからは部屋から出してもらえなかったから。けれど、有り余る時間の有効な活用があった。今まで眠れなかった分を取り返すように泥のように眠った。
ちょうど窓から夕焼けが差し込む時間帯だった。エリックがやってきた。起きようとしたら止められたため、仕方なく横になった。欠伸をしながらやってきて、私が横たわるベッドに彼は腰を掛けた。
「フィリップ伯爵に連絡した。夫人にも」
「父と母に?」
思わず起き上がり、でもすぐに枕に頭を沈めた。夕焼けの光に照らされた彼の背中を眺めていた。
「それから、現フィリップ伯爵にも」
「なんて、伝えたの?」
もう敬語を話すという気にはなれなかったので、手紙のやり取りで行っていたような口調に私は固定していた。それに学園にいた時、エリックに敬語を使う人は少なかった。
「ウチで預かってるって」
「そう」
しばらく沈黙が続いて、ずっと気になっていたことを私は尋ねることにした。
「なんで、私と手紙のやり取りをしてくれたの?ほんとは好きなタイプだと思ってなかったから」
「俺がただの天才で、毎月毎月テストで一番を取ってたと思うのかよ。条件だったんだ。良い成績を取る代わりに、王族らしからぬ態度をとっても見て見ぬふりをしようっていう親父の」
そこで私はやっと人間らしい彼の部分に触れた気がした。王族だから、何でもできるし、何をやっても許されるし、みんなの人気者だって。全部エリックの努力の賜物。成績が良かったのも、人気者だったのも。何をやっても許されたのはその二つがそろっていたから。
「もう一つ。私をここに置いてどうするつもりなの」
「ビオラの両親が迎えに来るまで。俺はどちらかと言えば、現フィリップ伯爵より、君の父親の方が大切だ。だからきっと君をもとの家へ戻したら、君の父親に怒られるだろう」
夢のような淡い期待していたような返事は返ってこなかった。いくら何年も手紙のやり取りを重ねて、つい最近顔を合わせたばかりなんだもの。それにきっと私の容姿に幻滅してる。もとよりこの国に少ない黒髪、肌は不健康な白色。それにやつれたから、顔の頬がこけ、体の肉がそがれ、髪の毛に艶もない。
「うん、ありがとう…」
もっと美しい、ブロンドヘアに曲線美に、容姿に。私は何を考えているのよ。今私は既婚者で、彼は公爵家で人気者で、優秀で。比べたところでまるで釣り合わないし、それ以前の問題。
「…迷惑かけて、ごめん」
「いや」
彼のことなんて嫌いにならなきゃダメよ。自分が苦しまないためにも。
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