17 / 41
第2章 幻影と覚醒、又は神の贈り物
第5話
しおりを挟む
危なかった。終わったー。そんな言葉があちこちから聞こえ始め、俺もイリスの元へと歩み寄る。
「大丈夫、イリス?」
「うぅー、ゴブリンって見た目と違って強いんだね」
そりゃそうだと思いながら彼女の横に座り込む。
小さい身体と不細工な造形のゴブリンだが、集団戦に特化し野生的ではなく群衆的意思を感じる彼等は、一応でも人扱いの声があった程だ。
モンスターとして扱われる決め手は、彼等の遺伝構造が完全にモンスターと同じだった事による。
人語も解せない事でモンスターの方に偏りがあったが、一部の亜人種説を唱える者達を黙らすのに決定的な遺伝構造、人と違い補食と本能のみのモンスター。
「良くやったよ、ゴブリンは基本クエストにも出ない。防衛一方の出現モンスターなんだよ。推定レベルはギルドが決めたのは職業レベル35オーバーなんだ。イリスにとっては良い経験値になったと思う」
「へへ、やった!」
そんな話をしていると、護衛してくれていた戦士組合達がやって来た。
中には助けた戦士もいる。
「すまねぇな、あんちゃん達」
「助かったぜ」
「へっ、戦士組合形無しだなー!」
ドワーフの戦士、腕を射抜かれた戦士、犬耳の戦士それぞれ思い思いの感謝を告げた。
それを俺は気にしないでと言う風に、手をヒラヒラさせながら作り笑いをする事で場を流す。
イリスは上機嫌な表情で「いやー、それほどでも!」等と上から目線で無い胸を張る。
「いや、嬢ちゃんは逆に俺らも守ってたっつーか……まあ、いいか。ありがとよ嬢ちゃん」
犬耳とフサフサの尻尾を生やした獣人族が思わずツッコミを入れるも、届いていないイリスを見て俺と見合わせて苦笑する。
「ありがとう」と代わりに俺が礼を言う始末だ。
「それにしても……最近はモンスターの異常繁殖が増えて困るのぅ」
ドワーフの男が立派に蓄えた顎髭を撫でながら呟く。
先程軽く自己紹介したが、彼の名前はガイアス・ラッシュフォードと言って、この護衛馬車の指揮を任されているらしい。
そのドワーフのガイアスさんは、忌々しそうにゴブリンが散った方向を見る。
確かに最近モンスターの中で、異常なまでの群れを見る。
ラビットチャンピオンの時は異常体によってかなりの群れを体験したが、個人的にソロの時と比べて出会って来たモンスターは、従来の群れる数を超えている。
ゴブリンも基本は20匹弱で集落を作り、狩りはオスのみの少数の筈だった。だが、先程のゴブリンはそれ以上の数で狩りを行い、どれもオスだった。
「どうしたんでしょうね」
俺の疑問に犬耳と尻尾を生やした獣人族お兄さん。ーレノアさんが思う事があるのか口を開く。
「噂じゃ"ドラゴン"が出たとか、"魔界"が開いたとか……色々とやばそうな話を聞くぜ?」
魔界………遥か昔"魔王"が君臨していた頃。お伽話でしか聞いた事のない、この世界の裏側に存在する世界。
既に昔の勇者が封印したとされているが、ふとイリスを見ると難しい顔をしながら、珍しく人の話を聞いていた。
「イリス、そんな難しい顔してどうした?」
「ふぇっ!?あ、ああ…うん。なんでもないよ!」
「……?」
ドワーフのガイアスさんが、休憩終わりと声を張り上げて告げた事により、深く追求する事をやめた。
多分子供みたいに「魔王!」とか「魔界!」とか、目をキラキラさせて勇者になりたいとか、勇者に会いたいとか単純な事なんだろうな。と考えながら馬車に乗り込んで少しすると三台の馬車は出発した。
♢♦︎♢
【スズレン村】
現在大きな地震により半壊した建物が建ち並んでいた。
観光地として名を馳せ、都市入り目前とされていたスズレンは、現在見る影もなく崩壊している。
綺麗なオアシスに村を作り、透き通った湖を中心に発展した村は、黒く淀んだ湖に見る影もなく。
鉱山地としている山は崩落により崩れていた。
ーーーー時は遡る2日前。
それは一瞬だった。
スズレンの住民達はいつもの様に、綺麗な湖に水を汲みに出掛けた者や、子供達は水遊びをし、男達は資源である鉱山に出掛ける姿が見える中、"それは"突如やって来た。
ある方角にて、"異常"なまで真っ黒に染めた空が迫って来た。
最初に気付いたのは子供達だった。そして次に派遣されて来ていたギルドの職員だった。
「なーに、あれー?」
「まっくろー!」
子供達の指差す方角を、偶然にも通りかかったエルフ族のギルド職員が微笑ましそうに見つめながら、子供達の方角に釣られて視線を動かしーーー固まった。
その視線の先に映る黒い空を、彼女は持前の視力により捉えてしまった。
【シャドー】、そのままの意味であるモンスター。
なんにでも姿形を変えられ、質量も物量も存在しない非常に危険値が高いモンスター。
「嘘…………」
シャドーは真っ直ぐと、ここスズレンへと向かって来ている。
そんなはずはない。彼女は否定する。
シャドーの特性は人を襲う事はなく、暗い暗い場所を好む。
迷宮の奥深くに生息している筈のモンスターであり、地上に出る事は今までにない事だ。
エルフの彼女は、バッと駆け足でギルドへと飛び込んだ。
"これはマズイ"、"非常に最悪だ"と予感するのに充分な光景を目にした彼女は、息を切らしながらもギルドに事実を告げた。
「ーーまさか、事実か!?」
派遣ギルドの責任者である小太りの小人族が、信じられないと言った表情で窓に駆け出す。
「ーっ!急いで住民達に避難警告を!冒険者達にも緊急クエストだ!組合連中にも協力を要請しろ!」
「「「はいっ!」」」
一瞬の判断と冷静な指示により、ギルドの職員全員が声を揃えて従い動き出す。
一人は滅多に使わない緊急警報の魔法鐘を打ち鳴らし、一人はギルドを飛び出し各組合所に支援要請を、一人は直ぐに近くの街へと緊急要請を、一人は村に滞在している冒険者を集める為のアナウンスを。それぞれが速やかに慌てる事なく、事前に緊急時を見通したシミュレーションを実践して行く。
村中に響き渡る避難警告を受けて、ギルド職員も数人外に出て指示を出す。
各職業組合達も出張り、空の異常に気付き動き始めた。
「剣使い系統の組合は住民達の避難の誘導を、魔法系統の組合も連携し後衛位置にお願いします!」
緊急時、組合達はギルドの指示に従う。
その決まりを守る様に、各組合の代表はギルドに集まり指示を受け動く。
本来は冒険者ギルド、職業組合は仲が悪い事で知られているが、緊急時に関してはギルドに黙って従うことをお互いの協定で決まりを作られている。
「おい、嬢ちゃん!俺達は何したらいい?」
村に滞在中の冒険者達もやって来る。
「皆様も迎撃準備を!相手はシャドーです。気を引き締めてお願いします!」
「はあ!?迷宮モンスターのシャドーか?」
「はい。原因は不明ですが、真っ直ぐとスズレンに向かって来ています。」
冒険者の一人が窓を見る。
「マジだぜありゃ……」
目元を軽く光らせ、真っ黒に染まる空を眺める。
「シーフ系統の冒険者はこちらへ。連絡係として動いて頂きます!」
ギルドの中で指示が様々に飛び交う。
「おいおい、シャドーって攻撃が効かねーって話だ」
「それに……職業レベルは80オーバーの化物だ」
騎士のような甲冑を身に纏った男が青ざめながら喋り、魔法使いの格好をした小人族が絶句した表情で尻込む。
エルフのギルド職員が声を上げる。
「シャドーは魔法が効きます。全力でソーサラー系統職の防衛と支援を第一に!ソーサラー系統の組合員と合流し魔法攻撃をお願いします!」
その言葉にソーサラー系統の職業者は外に出て動き出した。
外ではソーサラー系統の者達が一箇所に集まり魔法詠唱を開始する。
神々しい輝きを放ちながら、それぞれの覚えている最強魔法の準備に入る。
他の武装者達は村の外にて、シャドーが降り立つのを待機しているが、一人がガクガクと震えながら真っ黒に染まる空から二つの赤い光を見ながら口を開く。
「あ、ああああ………あ、ありゃ」
「なんだ、おい!震えてんじゃねえ!」
「ちがっ、あれは……シャドーじゃねえ!!!!!」
「何言ってやがる!?」
「あの化物は……シャドーの上位種に位置する"屍の巨人兵”だ!!!」
シャドーと思われた黒い塊は、スズレンの上空にて姿を作り上げた。
真っ赤に光るそれは眼光であり、みるみる内に形を真っ黒の雲ーーーいや、影が唸りを上げながら巨大な人へと変貌し、ガバッと口と思われる場所がひび割れる音を轟かせー叫ぶ。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
咆哮と共に大地が捲れあがり、真っ黒の巨人を中心に地割れが起き爆風が起きると一瞬にして前衛にいた武装者達を吹き飛ばす。
それだけで収まらず、村の家々を吹き払い屋根は飛び壁は崩れ……【屍の巨人兵】と呼ばれた者を中心に巨大クレーターを作り上げた。
“屍の巨人兵”ーーー。ある迷宮の主とされ、推奨レベルは150オーバー。ギルドランクA以上の超危険モンスターに大昔認定された化物である。
それからのスズレンの崩壊は一瞬であった。
大半の冒険者、組合員達は咆哮で薙ぎ払われ、ソーサラー部隊もその衝撃の強さにより詠唱が途切れてしまう。
そして屍の巨人兵と呼ばれた化物は、大きく腕を広げると………………………………一瞬にして、その長く太く大きな腕を振った。
質量も物量も実体も無いと言われた無敵の化物は、影が揺れ動くかのように腕が動きーースズレンを破壊した。
たった一振りで村を破壊し、綺麗なオアシスの村を影が飲み込んだのだった。
誰一人生き長らえる事叶わず、誰一人反撃を許さず、誰一人逃げる事を拒絶し、スズレンは崩壊した。
そしてまた、化物は空を見上げビキビキとひび割れる音を立てながら“咆哮”する。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
「大丈夫、イリス?」
「うぅー、ゴブリンって見た目と違って強いんだね」
そりゃそうだと思いながら彼女の横に座り込む。
小さい身体と不細工な造形のゴブリンだが、集団戦に特化し野生的ではなく群衆的意思を感じる彼等は、一応でも人扱いの声があった程だ。
モンスターとして扱われる決め手は、彼等の遺伝構造が完全にモンスターと同じだった事による。
人語も解せない事でモンスターの方に偏りがあったが、一部の亜人種説を唱える者達を黙らすのに決定的な遺伝構造、人と違い補食と本能のみのモンスター。
「良くやったよ、ゴブリンは基本クエストにも出ない。防衛一方の出現モンスターなんだよ。推定レベルはギルドが決めたのは職業レベル35オーバーなんだ。イリスにとっては良い経験値になったと思う」
「へへ、やった!」
そんな話をしていると、護衛してくれていた戦士組合達がやって来た。
中には助けた戦士もいる。
「すまねぇな、あんちゃん達」
「助かったぜ」
「へっ、戦士組合形無しだなー!」
ドワーフの戦士、腕を射抜かれた戦士、犬耳の戦士それぞれ思い思いの感謝を告げた。
それを俺は気にしないでと言う風に、手をヒラヒラさせながら作り笑いをする事で場を流す。
イリスは上機嫌な表情で「いやー、それほどでも!」等と上から目線で無い胸を張る。
「いや、嬢ちゃんは逆に俺らも守ってたっつーか……まあ、いいか。ありがとよ嬢ちゃん」
犬耳とフサフサの尻尾を生やした獣人族が思わずツッコミを入れるも、届いていないイリスを見て俺と見合わせて苦笑する。
「ありがとう」と代わりに俺が礼を言う始末だ。
「それにしても……最近はモンスターの異常繁殖が増えて困るのぅ」
ドワーフの男が立派に蓄えた顎髭を撫でながら呟く。
先程軽く自己紹介したが、彼の名前はガイアス・ラッシュフォードと言って、この護衛馬車の指揮を任されているらしい。
そのドワーフのガイアスさんは、忌々しそうにゴブリンが散った方向を見る。
確かに最近モンスターの中で、異常なまでの群れを見る。
ラビットチャンピオンの時は異常体によってかなりの群れを体験したが、個人的にソロの時と比べて出会って来たモンスターは、従来の群れる数を超えている。
ゴブリンも基本は20匹弱で集落を作り、狩りはオスのみの少数の筈だった。だが、先程のゴブリンはそれ以上の数で狩りを行い、どれもオスだった。
「どうしたんでしょうね」
俺の疑問に犬耳と尻尾を生やした獣人族お兄さん。ーレノアさんが思う事があるのか口を開く。
「噂じゃ"ドラゴン"が出たとか、"魔界"が開いたとか……色々とやばそうな話を聞くぜ?」
魔界………遥か昔"魔王"が君臨していた頃。お伽話でしか聞いた事のない、この世界の裏側に存在する世界。
既に昔の勇者が封印したとされているが、ふとイリスを見ると難しい顔をしながら、珍しく人の話を聞いていた。
「イリス、そんな難しい顔してどうした?」
「ふぇっ!?あ、ああ…うん。なんでもないよ!」
「……?」
ドワーフのガイアスさんが、休憩終わりと声を張り上げて告げた事により、深く追求する事をやめた。
多分子供みたいに「魔王!」とか「魔界!」とか、目をキラキラさせて勇者になりたいとか、勇者に会いたいとか単純な事なんだろうな。と考えながら馬車に乗り込んで少しすると三台の馬車は出発した。
♢♦︎♢
【スズレン村】
現在大きな地震により半壊した建物が建ち並んでいた。
観光地として名を馳せ、都市入り目前とされていたスズレンは、現在見る影もなく崩壊している。
綺麗なオアシスに村を作り、透き通った湖を中心に発展した村は、黒く淀んだ湖に見る影もなく。
鉱山地としている山は崩落により崩れていた。
ーーーー時は遡る2日前。
それは一瞬だった。
スズレンの住民達はいつもの様に、綺麗な湖に水を汲みに出掛けた者や、子供達は水遊びをし、男達は資源である鉱山に出掛ける姿が見える中、"それは"突如やって来た。
ある方角にて、"異常"なまで真っ黒に染めた空が迫って来た。
最初に気付いたのは子供達だった。そして次に派遣されて来ていたギルドの職員だった。
「なーに、あれー?」
「まっくろー!」
子供達の指差す方角を、偶然にも通りかかったエルフ族のギルド職員が微笑ましそうに見つめながら、子供達の方角に釣られて視線を動かしーーー固まった。
その視線の先に映る黒い空を、彼女は持前の視力により捉えてしまった。
【シャドー】、そのままの意味であるモンスター。
なんにでも姿形を変えられ、質量も物量も存在しない非常に危険値が高いモンスター。
「嘘…………」
シャドーは真っ直ぐと、ここスズレンへと向かって来ている。
そんなはずはない。彼女は否定する。
シャドーの特性は人を襲う事はなく、暗い暗い場所を好む。
迷宮の奥深くに生息している筈のモンスターであり、地上に出る事は今までにない事だ。
エルフの彼女は、バッと駆け足でギルドへと飛び込んだ。
"これはマズイ"、"非常に最悪だ"と予感するのに充分な光景を目にした彼女は、息を切らしながらもギルドに事実を告げた。
「ーーまさか、事実か!?」
派遣ギルドの責任者である小太りの小人族が、信じられないと言った表情で窓に駆け出す。
「ーっ!急いで住民達に避難警告を!冒険者達にも緊急クエストだ!組合連中にも協力を要請しろ!」
「「「はいっ!」」」
一瞬の判断と冷静な指示により、ギルドの職員全員が声を揃えて従い動き出す。
一人は滅多に使わない緊急警報の魔法鐘を打ち鳴らし、一人はギルドを飛び出し各組合所に支援要請を、一人は直ぐに近くの街へと緊急要請を、一人は村に滞在している冒険者を集める為のアナウンスを。それぞれが速やかに慌てる事なく、事前に緊急時を見通したシミュレーションを実践して行く。
村中に響き渡る避難警告を受けて、ギルド職員も数人外に出て指示を出す。
各職業組合達も出張り、空の異常に気付き動き始めた。
「剣使い系統の組合は住民達の避難の誘導を、魔法系統の組合も連携し後衛位置にお願いします!」
緊急時、組合達はギルドの指示に従う。
その決まりを守る様に、各組合の代表はギルドに集まり指示を受け動く。
本来は冒険者ギルド、職業組合は仲が悪い事で知られているが、緊急時に関してはギルドに黙って従うことをお互いの協定で決まりを作られている。
「おい、嬢ちゃん!俺達は何したらいい?」
村に滞在中の冒険者達もやって来る。
「皆様も迎撃準備を!相手はシャドーです。気を引き締めてお願いします!」
「はあ!?迷宮モンスターのシャドーか?」
「はい。原因は不明ですが、真っ直ぐとスズレンに向かって来ています。」
冒険者の一人が窓を見る。
「マジだぜありゃ……」
目元を軽く光らせ、真っ黒に染まる空を眺める。
「シーフ系統の冒険者はこちらへ。連絡係として動いて頂きます!」
ギルドの中で指示が様々に飛び交う。
「おいおい、シャドーって攻撃が効かねーって話だ」
「それに……職業レベルは80オーバーの化物だ」
騎士のような甲冑を身に纏った男が青ざめながら喋り、魔法使いの格好をした小人族が絶句した表情で尻込む。
エルフのギルド職員が声を上げる。
「シャドーは魔法が効きます。全力でソーサラー系統職の防衛と支援を第一に!ソーサラー系統の組合員と合流し魔法攻撃をお願いします!」
その言葉にソーサラー系統の職業者は外に出て動き出した。
外ではソーサラー系統の者達が一箇所に集まり魔法詠唱を開始する。
神々しい輝きを放ちながら、それぞれの覚えている最強魔法の準備に入る。
他の武装者達は村の外にて、シャドーが降り立つのを待機しているが、一人がガクガクと震えながら真っ黒に染まる空から二つの赤い光を見ながら口を開く。
「あ、ああああ………あ、ありゃ」
「なんだ、おい!震えてんじゃねえ!」
「ちがっ、あれは……シャドーじゃねえ!!!!!」
「何言ってやがる!?」
「あの化物は……シャドーの上位種に位置する"屍の巨人兵”だ!!!」
シャドーと思われた黒い塊は、スズレンの上空にて姿を作り上げた。
真っ赤に光るそれは眼光であり、みるみる内に形を真っ黒の雲ーーーいや、影が唸りを上げながら巨大な人へと変貌し、ガバッと口と思われる場所がひび割れる音を轟かせー叫ぶ。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
咆哮と共に大地が捲れあがり、真っ黒の巨人を中心に地割れが起き爆風が起きると一瞬にして前衛にいた武装者達を吹き飛ばす。
それだけで収まらず、村の家々を吹き払い屋根は飛び壁は崩れ……【屍の巨人兵】と呼ばれた者を中心に巨大クレーターを作り上げた。
“屍の巨人兵”ーーー。ある迷宮の主とされ、推奨レベルは150オーバー。ギルドランクA以上の超危険モンスターに大昔認定された化物である。
それからのスズレンの崩壊は一瞬であった。
大半の冒険者、組合員達は咆哮で薙ぎ払われ、ソーサラー部隊もその衝撃の強さにより詠唱が途切れてしまう。
そして屍の巨人兵と呼ばれた化物は、大きく腕を広げると………………………………一瞬にして、その長く太く大きな腕を振った。
質量も物量も実体も無いと言われた無敵の化物は、影が揺れ動くかのように腕が動きーースズレンを破壊した。
たった一振りで村を破壊し、綺麗なオアシスの村を影が飲み込んだのだった。
誰一人生き長らえる事叶わず、誰一人反撃を許さず、誰一人逃げる事を拒絶し、スズレンは崩壊した。
そしてまた、化物は空を見上げビキビキとひび割れる音を立てながら“咆哮”する。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
93
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる