あっち向いてホイっ!

ありま

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 最近、ツヨシが忙しくて、遊ぶ時間がなくなった。
 
 文化祭で、バンドの演奏をすることになったらしい…
 
 一緒にやらないかと、誘われたけど、楽器なんか、やったことないし…
 
 人前で、何かをするなんて…
 
 考えただけで、ゾッとする。
 
『やればよかったのに…』
 
 他人事だと思って…
 
 知ってるだろ?
 
 俺には、リズム感がない。
 
 楽器なんか、出来るわけないだろ!
 
『そういえば…  そうだったな』
 
 そうそう、皆の前で、恥をかくようなこと…
 
 特に、まりあ先輩には、ガッカリされたくない。
 
『やる前から、決めつけるな!』
 
『ウジウジするな!』
 
 声が大きい。
 
 そんなに、興奮するなよ。
 
『魔法の国とは、楽器が違うんだから、やってみろよ』
 
 う~ん、でもなぁ。
 
 
 その時、横から、何かが飛び出してきて…
 
 ビックリして、避けたけど、転んだ。
 
 足をひねったみたいで、立てなくなった。
 
 痛くて、しかめた顔の上から…
 
「大丈夫ですか?」
 
 と、聞かれ、見上げたら…
 
 金髪巻き毛の、小柄な可愛い子が心配そうに、のぞきこんでいた。
 
 俺は、しばらく、放心状態で…
 
 みとれていた。
 
「あの、救急車、呼びましょうか?」
 
 と、言われ、
 
「いや、大丈夫です」
 
 と、答えたものの…  痛いっ!?
 
 やっぱり、立てそうもない…
 
「送っていきますよ」
 
 と、言いながら…
 
 おもむろに…
 
「ヘッ、ちょっ、ちょっと」
 
 俺は…  突然のことに…
 
 なっ、なにをする?
 
 ま・さ・か…
 
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『抱っこで帰れば?』
 
 絶対、やだね!
 
 同じ学校の奴らに見られたら…
 
 それこそ、恥ずかしくて…
 
 死んじまうよ。
 
「あのー、お名前、聞いてもいいですか?」
 
「あー、桜井  真聖」
 
「えっ、真聖君?」
 
 なんだ?
 
 急に、なれなれしい。
 
「私、橘  みおです」
 
「橘?  もしかして、まりあ先輩の…  妹?」
 
「そうです。姉がお世話になってます」
 
 思いがけない展開に、俺の思考は停止した。
 
『…  三姉妹か?』
 
 そのようだな。
 
「あっ、タクシー来ました」
 
 無言でうなづく。
 
「それじゃあ、気をつけて…」
 
「本当に、すみませんでした」
 
 何度も、頭を下げられ、
 
「あ、ありがとう」
 
 やっと、それだけ言えたけど、
 
 まりあ先輩の妹。
 
 表情が、コロコロ変わって、とにかく目が離せない。
 
 こんなに、次々、出会えるなんて…
 
 運命を感じる。
 
 
 あんなに可愛いのに…
 
 男を軽々、抱っこできるなんて…
 
 すごいなー。
 
『それで?  好きになった?』
 
 いやいや、俺は、やっぱり…
 
 まりあ先輩が好きだな。
 
『そうか、かわいそうに…』
 
 何が、かわいそうなんだ?
 
『あの子は、たぶん、お前に、ほれたぞ!』
 
 なっ、なんで?
 
 お前に、そんなことがわかるんだ?
 
『野生のカン!?』
 
 惚れられて、悪い気はしないけど…
 
 面倒くさいのは、嫌だな!
 
『そんなこと言わずに、何事も経験だぞ』
 
 う~ん、魔法が使えるようになるってこと?
 
『そうじゃないけど…  なんとなく』
 
 なんとなくって、適当だな。
 
『なんとなくついでに…  楽器もどうだ?』
 
 それとこれとは、話が別だろ!
 
『いいと思うんだけどなぁ~』
 
 しつこいな、お前も…。
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