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20 . Prisoner
Prisoner ④
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新学期が始まり、双子の編入も恙なく終えた。
海のことも今のところ問題ないようだ。智子には十玖が絡んでいることを亜々宮に伏せて貰い、それとなくフォローをお願いしている。
尤も海が.ISM所属のアーティストだと言うことは隠していないので、あまりいい顔はしていないようだが、智子が自発的に仲良くなった体であれば、亜々宮にとやかく言う権利はない。
天に関しては、晴日が煩いので特に何も言ってはいなかったけれど、そこは萌だ。.ISMの新人だと知っていて、全く無視できる様な子じゃない。何だかんだと世話を焼いているようで、晴日が不機嫌なのを見るに付け、心ならずも巻き込まれていく天が気の毒でしょうがない。
そこで萌に、晴日を掌で巧く転がすだけの器量があれば良かったけど、感情の赴くまま行動する彼女にそれを期待するのは、砂漠を一夜でジャングルにするくらい、儚い望みの様な気がする。
萌の一挙一動に晴日が翻弄されると、場が荒れるのはこれまでにも何度かあった。
故に。
血縁で、逃げ場のない十玖と美空は、今回も少なからず余波を受けると予想される。
(出来る限り二人の事に関与したくないんだけどねッ!)
晴日の鬱陶しい絡みを想像しただけで憂鬱になる。
天も.ISMでやっていくなら、ここは一刻も早く躱す術を身につけて欲しいものだ。
(どうか、面倒臭いことになりませんようにっ)
それはさておき、と十玖は眉を顰める。
問題はまだある。
寧ろ一番の問題児がいる。
十玖の机の脇に立ち、彼を不安にしかしない微笑みを湛える幼馴染みを見上げ、可愛い弟分たちをきっと守りきれないであろう己を不甲斐なく思うのだった。
放課後、三年のクラスに呼び出された編入生の二人は、野次馬上級生たちの環視の中、緊張で可哀想なくらいオドオドしている。
十玖の席周辺の椅子を持って来て、双子を窓際に追い込むように、いつもの面子が腰掛けていた。
最初は十玖の膝に当たり前のように腰掛けた美空を見て赤面していた双子も、目の前の苑子に不躾な視線を向けられると、喉を鳴らして息を呑んだ。
苑子の目通り。
これは決して避けては通れない試練だと、二人には話している。だから何としても堪えて欲しいと頼んだ十玖に、怖々頷いた二人だったが……。
「ふ~ん。まあ、顔は中の上ってとこかしらね」
苑子が無表情で辛口の評価を口にすると、苦笑した太一が二人に向かってごめんとばかりに手を挙げる。
上京してきた翌日、岡田マネージャーの指示に従って、二人は重かった黒髪を整え、髪の色を少し明るくした。あくまで二人の素朴さを損なわない程度のものだが、若干垢抜けた感じはする。
海は眉の形を整えられたようだが、きりっとした眉に大きな双眸は利発そうに見え、上向き加減の小さな鼻は愛嬌がある。天の少し大きめの口は快活そうで、下唇がぷっくりし口角が上がった海は、ちょっと悪戯っ子を思わせた。
男女の差はあるものの、姉弟だけあって二人はよく似ている。
「けど、ちっちゃいわね。身長いくつ?」
苑子は天の頭から爪先までざっと見て、隣の海と見比べる。二人の身長差は十センチくらいだろうか。
「……百七十一、です」
天は反論したいところをぐっと堪え、歯に衣着せない苑子をじっと見下ろし、彼女は何食わない顔で十玖に視線を寄越した。
「十玖が中二くらいの時の身長かしらね?」
そう言ってニヤリと背筋が寒くなる笑みを浮かべる。
苑子はすくっと立ち、天の頬を両サイドから挟んで右に左に向け、「肌はキレイね」と呟く。
中二の頃の十玖の話を持ち出され、嫌な予感がした――――否。嫌な予感しかしない。
「ダメだよ苑子」
「まだ何も言ってないわよ?」
厳しい顔をした十玖の言葉に、苑子は些か不機嫌な顔をする。
「苑子の考えそうなことなんて、聞かなくても分かる。二人を親御さんから預かっている以上、幹部の一人として僕には責任と義務があるんだから、勘弁してよ」
「な~に尤もらしいこと語ってんのよ。あんたの弟分になった時点で、天の辿る道はほぼ決まったもんよ?」
「決まってないから」
淡々とした口調の十玖と苑子の遣り取り。
怯えた天がジリッと後退り、海でバリケードを築くと説明を求める目で美空を見た。
「あ~、うん。……二人とも、公式ホームページで見たことあると思うけど、彼女が十玖の女装一連の責任者です」
ちょっと言い辛そうに美空が紹介すると、十玖が渋面になる。
二人は秋に開催されるファン参加イベントに、すぐ思い至ったようだ。双子は「はいはい」と全く同じタイミングで頷き、「それで?」と首をこてんと寸分の狂いもなく同時に左に傾ぐ。一卵性のようなシンクロ振りだ。
しかし二人は『そうなんですね』で話を止めておけば良いものを、知らなかったとは言え、その先を聞き返し、苑子に付け込む余地を与えてしまった。
十玖の女装と天がどう関係するのか、純朴な少年にはピンと来なかったのだろう。
そうとは知らず悪魔に身を売った天。
十玖は額を押さえて溜息を漏らし、美空と太一が何とも言い難い複雑そうな笑みを浮かべる。
悠然と微笑んだ苑子。
「天には女装をして貰います。これ決定ね」
双子はパチパチと瞬きし、海が肩越しに弟を振り返り、天がきょとんと姉を見る。
数秒の間を置いて、ようやく理解した天が言葉もなく十玖を凝視すると、表情筋が完全に強張った笑顔を返すのが精一杯で、天は眉を寄せて天井を仰いだ。
苑子が「ねえ、とーく」と思案顔で声をかけてきた。十玖は一抹の不安を感じながら視線だけで応えると、
「二人分とかってなると衣装代が掛かりそうなんだけど、お宝写真、ネットオークション掛けても良いかな?」
「ダメでしょ! 聞くまでもないことだよね!? てか何で僕負担ッ!?」
学校行事に我が身を切り売りする意味が解らない。しかも苑子の趣味の為に。
“お宝写真” に反応した美空がじっと十玖を見ているが、気付かない振りをする。袖をツンツン引っ張られても、呵責を感じても、断固として気付かないを押し通す。
視界の隅に頬を膨らませた美空が入り込み、土下座して謝り倒したい心境になっても、だ。
「あー、肖像権うんちゃら金銭絡むもんねぇ。せめて天の分だけでも.ISMで協賛してくれるかなぁ? 筒井さんに確認しよっと」
苑子は上着のポケットからスマホを取り出しながら、少し離れた所に移動する。十玖はその背中を見送り、天に視線を戻すと力なく笑い、溜息とともに美空の肩に額を預けた。太一は子供をあやす様に頭を撫でる美空から十玖に視線を移し、
「諦めろ。十玖。俺はもう諦めたぞ?」
「太一」
「お前が恥ずかしい写真は、俺にとっても羞恥の記憶だ。俺たちは一蓮托生。恥を掻くのはお前だけじゃないさ」
「たいち~ぃ。それまったく嬉しくないフォローだから」
幼稚園で苑子に出会ったのが運の尽きだった。
イベント好きの母親たちが仲良くなり過ぎたのが、すべての災いの元だ。
「忌まわしき記憶の全てが、苑子の部屋ごとこの世界から消滅してくれたら良いのに」
「十玖。解脱までの道程は遠いな」
「苑子の事は悟ったが最後、アーティスト人生終わりな気がする」
「辛いな」
「……うん」
ケラケラ笑って筒井と話をする苑子を見、十玖と太一は乾いた笑いを漏らした。
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