【R18】不器用な僕たちの恋愛事情

優奎 日伽 (うけい にちか)

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20 . Prisoner

Prisoner ⑮

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 十玖の懸念に応えたのは、祐人だった。

「それなら心配しないでいい。Cooに関することは、女性警官に携わって貰うように手配するから。ただ……」
「ただ?」

 言い淀んだ祐人に訊き返す。彼は藤田と弥生をちらりと見て、言葉を選ぶように「逆に十玖が、ねえ」と苦い顔をした。

「Cooが知ったら、また一波乱ありそうだよね?」

 十玖が男性警察官の目に触れさせたくないのと一緒で、美空だって十玖の裸体を女性警察官の目に触れさせたくはない筈だ。
 ではどちらが社会的にもダメージが少ないか考えると、男である自分だろう。警察官とは言え、不特定多数の男に羞恥を晒して美空を傷つけるより、彼女以外に知られたくない部分では有るが、まだ我慢できる。

(美空のあんなエロい顔、これ以上他の男に見せられるかッ!)

 出来ればこの事実を美空に隠せるならそうしたけど、きっと無理だ。何しろここには隠し事が大の苦手な晴日がいる。

「ボカシなんて入れてねえだろうしなぁ。婦警にトークファンがいないと良いよなあ」

 案の定、敢えて空気を読まない晴日の言葉で、何となく察しが付いている藤田と、メンバーたちの憐み全開の眼差しが向けられる。十玖は両手で顔を覆い隠すと、膝に肘を着いて溜息を吐いた。
 考えない様にしていたことを、わざわざご丁寧に言葉にしないで欲しい。

「……人目に触れず回収することは、出来ないでしょうか?」
「物証だから、全部をって訳にはいかないだろうね。確実に仕留めたいなら。ただし、使えるモノは最大限に使う心算だよ? ウチの子たちを無駄にキズモノにしたくないからね」

 過度に期待を持たせるようなことは言わず、祐人はゆったりと微笑む。それだけで、彼に任せておけば安心だと思える。
 祐人は背凭れに体を預け、流れる動作で足を組む。膝の上で指を絡めると、

「まあ阿部にはとっくとお仕置きをして、誰に喧嘩を売ったのか身を持って知って貰わないといけないけどね」

 そう言ってニヤリと悪い笑みを浮かべる祐人は、間違いなく謙人の兄だった。



 それからの動きは迅速だった。
 悩みの種だった際どい証拠品は、警察官がフォルダを開けようとして、丸っと消滅したそうだ。教えてくれた祐人は『証拠隠滅なんて悪道いよね』と、とてもいい笑顔だったので、敢えて誰もその事には触れなかった。

 家宅捜査すると、証拠が出るわ出るわ。全て押収され、阿部は呆気なく逮捕された。これと言った抵抗も見せず、犯行動機を話していると言う。
 美空に優しくされたのが切っ掛けだ。
 コンビニのバイトを始めてから間もなく、品出し中の阿部が落とした商品を美空が一緒に拾って差し出した。どこにでも有りがちなエピソード。
 美空が『大丈夫ですか?』と声を掛け、微笑んでくれた瞬間に、運命を感じたらしい。それまでの阿部は、身内以外の異性に優しく微笑んで貰った記憶がないそうだ。

 不憫だと思うが『そんな事でいちいち運命を感じていたら、世の中大変なことになる』と、被害を被った憤りを言葉にした十玖だが、晴日に『泣き顔で落ちたヤツが言うかねぇ』と笑われた。
 恋愛感情に疎くて、そうとは知らず美空をひたすら見つめてきた日々。
 彼女に嫌厭されても、姿を瞳に納めずにいられなかった。
 何か言いたげに睨まれると、存在を認められた気がしてどこかウキウキした気分になったものだ。
 それで充分幸せを感じていたのに、いつからか欲が出た。
 “美空が欲しい!” 気持ちが日増しに大きくなり、溢れかえって止まらなくなった。
 十玖の手を取ってくれた美空。

 一つ間違えたら、自分も阿部と同じ立場になっていたと思うと、心底震えが走る。
 何しろ美空が好き過ぎて、“公認ストーカー” の名を欲しいままにしているくらいだ。
 選ばれたか、そうじゃなかったかだけの違い。
 キッカリ別れた明暗。
 だからと言って赦される事ではないけど。
 十玖は自分を選んでくれた美空に、何度も感謝の言葉を口にすると、強く、強く抱きしめた。



 阿部が逮捕された後も、藤田はライヴにやって来る。A・Dのノリにすっかりハマったと言っていた。
 そうなると十玖も黙っていられず、ずっと藤田が怪しいと疑っていたことを正直に謝罪した。彼は笑い飛ばしてくれたけど、何故だか首根っこを押さえ付けられた気がする。
 弥生も相変わらずのようで、ホールに弾けている姿を見つける。偶に美空と談笑しているようで、二人の間にシコリが残らなかったことを安堵した。
 阿部のニュースが下火になってきた頃、ライヴ後のファミレスで、藤田がこんな事を言った。

「恋は盲目って言うけど、目の前のことに囚われ過ぎて、何が正しいのかも判らなくなるほど、周囲が視えなくなるって怖いよな。俺にはまだそんな相手が現れないけど、温厚しかった阿部をあそこまで変えるなんてさ、怖いような羨ましいような」

 水を打ったように静まり返った。
 戸惑い気味の笑みを浮かべて、藤田がコーヒーを啜る。彼以上に複雑そうな複数の双眸が揺れた。
 尽々余裕のない自分が情けなく思える。
 けれど美空のことで冷静に振る舞えるほど、まだ恋愛に熟れてはいないし、人生を達観出来るほど生きてもいない。
 年月を重ねたら、表面上冷静な振りくらいは出来るかも知れないけど、些細なことでも急激に視野が狭くなり、きっと心は千々に乱れる。決して美空を信用してないとかではなく、彼女が愛おしくて、本当は片時も手放したくないと思っている、独占欲の塊のような自分が悪いとしつつも、この情欲が落ち着くことは皆無だと言い切れる。
 が。それでも今回、藤田を犯人と決めつけていたのは紛れもない事実だし、取り返しの着かない行動を取らなくて良かったと、猛省することしきりだ。

 思い込みで空回りしていたのは、何も十玖だけではないけれど。
 漂う空気が重い。
 苦い経験がそれぞれの胸に去来し、すっかり言葉数が減っている。中でも一番最悪で最低な経験をした謙人が、胸を押さえてテーブルに沈むと、藤田を本気で慌てさせた。
 互いに目配せしながら苦笑を浮かべる。
 十玖はふと、初春から初夏にかけての出来事を思い返し、小さく溜息を漏らす。
 この先も何かに囚われ葛藤し、身悶えながら生きていくのだろう。
 幸せだと思う今が、指の間から零れ落ちていかないように、十玖はぐっと拳を握り締めた。

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みんなの感想(1件)

はあーさん
2018.02.08 はあーさん

もう更新しないのですか?楽しみにしていたのに

2018.02.08 優奎 日伽 (うけい にちか)

読んで頂きありがとうございます。

すみません。更新はします。
ただちょっとノロくてなかなか追っつかず、申し訳ありません。

次回は竜助で行く予定なので、もう少々お待ちいただければと思います。

今後ともA・D共々宜しくお願いします。

解除

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