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2. 晴日と美空とA・Dと
晴日と美空とA・Dと ⑤
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六月二週目の月曜日。
朝のホームルームで、亜々宮は尽々自分の運の悪さを嘆いた。
時期はずれの転校生がやって来た。ニコニコと自己紹介をする転校生も、亜々宮に気が付いて苦い顔をした。
互いの生来の天敵がいる。
「なんであんたがここに居るのよ」
「こっちのセリフだ」
「亜々宮と同クラなんて、最悪すぎっ。先生、再出発にケチが付くのでクラス変えてください」
「珍しく同意見だ。お前みたいなトラブルメーカー、他所に行ってくれ」
なんの陰謀だ。
萌が戻ってきたというだけで、うんざりしているのに、同じクラスなんて陰謀としか思えない。
母が女の子至上主義で、萌を猫可愛がりしてるせいもあるが、家訓に女の子は自分を賭しても守れとある。それを破ろうものなら、母の鉄拳制裁があり、子供心に破れないのを知りつつ、亜々宮に無体なことばかりしてきた従妹。
大好きな十玖には絶対やらないことを、亜々宮には当然のようにしてきた。
いつも泣きを見るのは自分だった。
「とーくちゃんの爪の垢でも煎じて飲んだ方がいいんじゃない」
「お前に言われたかない」
お互いにやぶ睨みして教室に不穏な空気を撒き散らし、担任は引きつった顔で二人の生徒を交互に見た。
「お前ら従兄妹だろ。仲良くしろな?」
そのセリフが二人の神経を逆撫でた。
ぎっ、と睨みつける二人に、担任は思わず尻込みしてしまうのだった。
昨日のライヴのSNSがあっという間に学校を席捲した。
朝から珍獣になった気分の十玖である。
十玖の席に美空、太一、苑子が集まって、一様に廊下に向かって観察眼を向けている。
廊下に鈴なりの生徒たちを掻き分けて、晴日がやって来た。
「すっげぇな」
「こーゆーの苦手なんですけど」
「諦めてくれ。俺と美空のために」
むせた十玖と美空に、ニヤッと笑う晴日。
「おやおやおや?」
「あれれれれ?」
ニヤニヤした太一と苑子が、二人の顔を交互に見ては吹き出しそうになっている。
「なにっ!?」
微妙な怒りを孕んだ十玖の声を気にも止めない太一が肩を叩いた。
「このまま延々とこじらせてくのかと思ってたよ」
どうやらこの幼馴染みたちには、とっくにバレていたらしい。どちらにしろ、なまじ付き合いが長い分、この二人に隠し事が通用するとは思えない。
「十玖のくせに頑張ったわね。美空ちゃんの事もA・Dの事も」
「はいはい。僕のくせに頑張ったよ。だからもぉ放っといてよ」
「はぁい。あまり十玖に構い過ぎたら、美空ちゃん可哀想だもんね」
話を振られて、真っ赤になった美空が吃る。
「苑子。斉木までからかわないで」
「なあ十玖。俺も斉木なんだけど」
「そう…ですね。そう言えば」
あまり深く考えてなかったが、二人が一緒の時、先輩を呼び捨てにしているようなもんだ。
言われてみて困った。美空の名前を呼び捨てなんて、昨日の今日でハードルが高い。
(ちゃん? さん?)
腕を組んで考えてる十玖に、「そう言えばさ」と晴日が話を変えてきた。
「家族の了承は?」
「先輩と一緒だから心配もしてなかったですよ」
そう言って、昨日の茶封筒をカバンの中から取り出し、晴日に渡す。彼は書類に不備がないか確認して、封筒に戻した。
「筒井マネに渡しとく。それでだけど、互いの呼び方はケント、リュウ、ハル、トークで統一。早く慣れてくれよ」
「わかりました」
「えー、いいな。あたしだけ斉木なんて疎外感。あたしだってメンバーの仲間だよ」
首を傾げた苑子に、晴日が答える。
「A・Dのジャケットとか撮ってるの美空だよ。Cooって名前で」
「へえ。そんな特技があったんだね」
「あったんです。まだ、A・Dしか撮らせて貰えないけど、そっちに進みたいから。だから、あたしもトークって呼ぶし、トークもあたしをクーか美空って呼んで」
「えっ」
「なに。文句あるの?」
「ないです」
「はい。決定」
美空はこんなに押しが強かったのか、と十玖たち幼馴染みトリオの相違ない見解である。
まあ晴日の妹だから、当然といえば言えなくもない。
廊下の生徒たちが、一人の教師によって蜘蛛の子を散らすように去って行く。この状況を聞き及んだ担任が、時間よりも早く教室に来たようだ。
「斉木晴日。江東太一。お前らも教室戻れぇ」
しっしっと名簿で追い払われ、不承不承二人が出て行く。それを見届けたあと、担任は十玖を見据えた。
「三嶋。SNS凄かったなぁ。けど浮かれるなよ。A・Dの先輩二人は、バカそうに見えていつもトップ5入りだからな。お前も頑張れよ」
担任の言い様に「努力します」と愛想笑いを浮かべつつ、
(バカそうに見えてって……ははっ)
とか考えてる。
また新たなプレッシャーを課せられた。
高校に入ってから、プレッシャー続きだ。
今までいかに自分が安穏と暮らしてきたか、身にしみる。
けれど、プレッシャーもそんなに嫌いじゃない。
着席の声で、美空と苑子が席に戻って行く。振り返った美空のサムアップに、十玖はサムアップで返した。
毎時間、見物客が来て、トイレに行くのも必死になる日が来るなどと、誰が想像しただろうか。
少なくとも自分がそんな立場になり得るなどとは、想像だにしなかった。
たった一日で憔悴しきった十玖に、目立つことこの上なく好物の晴日が、何でも奢るからと教室まで労いに来た。
この状況では部に迷惑がかかるので、しばらく休むと苑子に伝言を頼むと、彼女もそうした方がいいと言って、太一と部活に行ってしまった。
いつもつるんでいた二人と、しばらく別行動を取らなければならない事に、些かの寂しさを禁じえない。
三人でいつまでも一緒なんて有り得ないのは分かっていたけど、自分の選択一つで、いともあっさり変わってしまうんだと気付かされた。
晴日、美空、竜助と連れ立って、校門に向っている途中、黒山の人だかりに気が付いた。
ここもか、四人はちょっとげんなりした。
見つかる前に逃げるが勝ち、と踵を返した背中に、甲高い声が猛ダッシュで近づいて来るのが分かった。
「十玖。子ザルがすっ飛んでくる」
「マジですか!?」
振り返ると、見覚えのある制服を着た従妹が、チョロQヨロシクすっ飛んで来る。萌は陸上選手で走ることを何より得意としていた。
条件反射で逃げようとした十玖の背中に、貰ったばかりの教科書が詰め込まれたカバンが飛んできて、そこに隙ができた。
「とーくちゃんっ」
例外に漏れず萌が首に飛びついてきた。ぶら下がる彼女に、豆鉄砲食らった美空と竜助。
「俺の攻撃は軽く躱すくせに、なんでこんなチンケな攻撃に遭う?」
「面目ない」
「あ、とーくちゃん奪った黄色い人だ」
「うるさい。子ザル」
「子ザル言うな。萌だもっ」
「もーえっ! 何でここにいるの?」
「愛しのとーくちゃんに会いに来たに決まってるじゃん」
えへへと笑って、十玖の後頭部に頭を摺り寄せて、マーキングする萌。
「昨日も一昨日もツレないし。なんかとーくちゃん有名になってるから、心配で来ちゃった」
満面の笑みで、さらに強く抱きついた。
「十玖。そちらは誰かお尋ねしても?」
冷静に振舞おうとするが、怒りで震える美空の声。表面では笑っていても目が完全に怒っていて、一気に十玖の血の気が失せていく。
付き合い始めて二十四時間も経たないうちに、爆弾を投下された気分だ。
「従妹の相原萌。ハルさんは家で会ってる」
「将来、とーくちゃんのお嫁さんになりますっ」
「ばっ! 萌!!」
出てしまった言葉は取り戻せない。
十玖の顔が見る見る間に土気色に変わっていく。
「ふぅーん。嫁。それは何よりですわね。み・し・ま・くぅん」
完全に怒っている。
首から萌を引き剥がそうとしたが、また足で締め付けにかかってきた。
「誤解だから」
「十玖のバカ。大っ嫌いだぁ!」
いい様、美空は校門の人だかりに向かって走り出した。
「ハルさーん。お願いします。これ引き剥がしてくださぁい」
晴日に背中を向けて、哀願する十玖。
妹が暴言を吐いて走って行った元凶を慌てて引き剥がしにかかるが、敵もさるものでがっちり挟んで離れない。天駆はいとも簡単にやって見せたのに。
「セクハラーっ! 放せ痴漢」
「誰が小学生まがいに手を出すか。竜助、手伝え」
「あいよ」
「お願いですから早くしてくださぁい」
すでに涙声の十玖。
二人がかりで萌を剥がすと同時に、十玖は人だかりに向かって走り出した。
美空はスルー出来ても、標的の十玖が通り抜けられるわけない。
十玖を見つけて一目散に集まってくる他校生を大きく回避し、校門にまだ残る人だかりを避け、二メートル以上ある塀をヒラリと飛び越えた。
「すげぇ跳躍」
「あいつは忍者か?」
感嘆の声を漏らす晴日と竜助。その二人に囚われてる萌はジタバタと暴れてる。
「ちょっと放してよ。なんで萌の邪魔するの!」
「子ザルがカレカノの邪魔してるから」
「なっ! とーくちゃんは萌の恋人だもっ」
「十玖、こっちが赤面するほど美空にベタ惚れだけど、それ言っちゃう? うちの美空、いい女だけど勝てんの? 子ザルちゃん」
美空がここにいたら、シスコンの過大評価と言うだろうが、晴日はそんなこと微塵も思っちゃいない。正当な評価と言って憚らない。
「美空!? とーくちゃんクラスメートだって言ってたのに。萌に嘘いったのぉ?」
「嘘じゃない。彼女って言わなかっただけ」
本当は彼女と呼ぶに至らなかっただけだが、ご丁寧に教えてやる義理はない。
プルプルと打ち震えて、萌の目に涙が溢れる。
この後、十玖の名前を呼びながら号泣する萌に、二人は翻弄される事になるのであった。
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