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8. 新入生=春嵐もしくは大迷惑
新入生=春嵐もしくは大迷惑 ⑤
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五月ゴールデンウィーク明けの月曜日。
入学式から一ヶ月が経ち、学校生活も落ち着きを取り戻した様だ。
美空はカメラ片手に、被写体を探して校内を歩き回っていた。
予告通り、佳が写真部に入部してくると、十玖がやたらと心配し始めた。美空にしてみたらヤキモチ妬いてくれる十玖がちょっと嬉しい。
が、初めて佳と会った時、十玖は後ろから抱きしめてきた。不安を感じた時に、十玖はよくバックハグをして、頬擦りしてくる傾向がある。だから何となく気が付いていた。
佳を警戒している。
彼が自分をどう思っているのか分からない。けど、二人きりにならない様に、部室に籠もらないのが十玖を安心させる。
(優しくていい子なんだけどな)
そんなに付き合いがあるわけじゃないけれど、それくらいは分かってるつもりだ。
写真と言う共通点もあるし、同じ部活の後輩だし、無下にできない。
廊下の窓からファインダー越しに校庭を見た。
陸上部を見つけ、一際小さい萌の姿を探し出して連写する。
トラックを小さな体が駆け抜ける。十玖がよくチョロQと言うが、本当に素早い。
下に降りて、近くで撮ろうかと思い直した時、名前を呼ばれて振り返った。
「いいショット撮れましたか?」
「佳くん。そっちはどう? いいの撮れた?」
「ボチボチですかね。今回のテーマ “躍動” ですけど、それで運動部を?」
「ううん。十玖の従妹、見付けたから」
美空が指差した方向を見る。陸上部が練習していた。
「陸上なんですか?」
「うん。あの一番小さい子」
トラックを走る萌を指差すと、佳はくすくす笑う。
「ずいぶん対照的な身長ですよね」
「四十センチ近く違うかな。あたしこれから校庭に移動するけど、佳くんは?」
「あー。お供しても良いですか?」
「…どうぞ」
十玖の顔が過って一瞬迷ったが、断るのも自意識過剰のような気がした。
二人は並んで校庭に向かった。
小一時間走って、萌は汗を拭きながら水分補給をしていた。
部活でも未だ友人は出来ない。余程ぽっと出が十玖たちに絡むのが気に食わないのか。
この間の一件があってから、今のところお呼び出しはないけれど、小さな嫌がらせはちょくちょくある。尤もそんなこと気にしないけど。
「萌ちゃん。休憩?」
「あ…美空さん」
ペットのふたを閉めて萌が立ち上がった。美空は萌を座らせて、その隣に腰かけた。
「なんか用ですか?」
美空はさっきまで自分がいた窓を指差して、
「上から撮っていたんだけど、近くで撮りたくなっちゃって。やっぱ早いよねぇ。それって家系なのかな?」
「かなあ? とーくちゃんみたく、たまに運動神経抜群が出るみたい。他は普通だと思うけど。萌の場合、十玖ちゃんが走るのにくっ付いて走ってたから、自然に鍛えられたって言うか」
「暇さえあれば、筋トレか走ってるもんね。十玖ってば」
そうそうと笑った萌は、佳の存在に目を止めた。訝し気に見る萌の視線に気づいて、美空が紹介した。
「前のヴォーカルの弟さんで、冨樫佳くん。写真部の後輩よ」
「1Cの相原萌です。よろしく」
「1Bの冨樫です。よろしく」
軽く会釈した萌に、同じように返す桂。どちらも相手の出方を待っている猫みたいで、美空は吹き出した。
「なに美空さん?」
「ごめん。気にしないで」
「そう言われると気になるぅ」
「気にするほどの事じゃないから……部長は? 撮影許可貰いたいんだけど」
「ならあっちに。あのピンクとグレーのTシャツ」
そう言ってハードル走の方を指した。目視して「ありがと」と萌に手を挙げ、部長の方に歩いて行く。その後に続く佳に、眉をひそめる萌だった。
二年に進級して、ようやくゆとりが出来た。最近A・Dの事だけに時間を取られる事もなくなり、時間調整しながら合唱部にも顔を出している。
今年の入部は二十一名。十玖があまり出てないことを知って、顔も出さなくなったのが十六名。
五名残れば上等だという新部長の飯山貴子。
去年は十玖たち三人以外に一人だけだった。
合唱部はいま屋上で筋トレ中だ。
ペアを組んで腹筋する中、普通の腹筋では物足りない十玖の腹の上で、太一が胡坐をかいて回数を数えている。それに加えて発声練習しているのだから、新一年はおいそれと十玖に近付けない。
「十玖よりも太一鍛えた方がいいんじゃないの?」
一年女子、高橋の足を押さえてる苑子が、全く堪えていない十玖に呆れたように言った。
苑子は高橋から離れると、太一の斜向かいにしゃがんでいきなりボディーブローをくらわせ、彼はゲホっと息を吐きだして十玖の上に倒れこんだ。
「そ~の~こ~お!」
十玖と太一の異口同音。
太一は不意打ちを食らった怒りで、十玖は邪魔された上に胸を強打し、太一に押し倒された格好になった気持ち悪さだ。
十玖は太一を押し退けて起き上がり、太一は涙目で腹を擦りながら、
「どうせ倒れるなら、こんなかったい胸じゃない方が良いんだけど」
「僕だってヤだよ。見てほら。サブイボ」
腕の鳥肌を太一の眼前に突き出す。
他の部員たちは二人のやり取りをくすくす笑っている。
「十玖だったら今くらいのパンチ、なんて事ないわよ。はいはい。二人交代。太一腹筋なさ過ぎ」
「俺は普通だから。趣味筋トレと一緒にしないでくれる?」
文句を言いながら、それでも腹筋の体勢になる太一。十玖が立膝を腕で固定し太一が腹筋を始めると、苑子は一年の元に戻った。
「先輩たち、仲が良いんですね」
足を押さえる苑子に高橋が言った。
「ちっちゃい時からの付き合いだからね」
「へ~ぇ。羨ましいなあ。父が転勤ばかりなので、幼馴染みって憧れます」
「良いことばかりでもないけど」
「そうなんですか?」
不思議そうな顔をする高橋。すると太一が口を挟んだ。
「お互い知り過ぎてるからね。幼馴染みだと親兄弟まで介入してくるから、秘密はないものと一緒だし。しかも家族を含めるとそこにはカーストが存在し、俺たち三人で限って言えばヒエラルキーが存在する」
「カーストとヒエラルキーですか?」
どう反応したものか困った顔をしてる。太一は腹筋を止める事なく頷いて先を続けた。
「単純に腕力だけなら十玖が王者なんだけど」
十玖の両腕をパンパンと叩く。その十玖は眉をそびやかした。
「親、大人、年長者と言う身分差の前では、扶養される者は絶対に勝てないし、勝ってはいけない。これはどこの家庭にもあると思うけど、俺ら一緒くたに育ってるから、父親が三人、母親も三人いるのと同じなわけ。親が六人トップに君臨し、兄や姉がその下に続いて、俺たち…最下層は亜々宮か」
「だね。本人嫌がるだろうけど。太一ピッチ落ちてる」
「はいはい」
そう言う十玖は下から二番目で、太一は三番目だ。
最下位の亜々宮は常に十玖に逆らって、ケンカ腰だけれど。
「以上がカースト。で、同級だから俺ら同じ立場のようだけど、苑子が生まれ一番早くて、その分体もデカかったし面倒見も良かったから、姉さん的立場だったんだよね。そうなると必然的に力関係が決定してくるわけ。これがヒエラルキー。この姉さんに逆らっちゃならない、みたいなパブロフ現象が、未だに発生するんだなぁ」
腹筋を止めて、苑子をチラ見すると太一は嘆息した。
「何よ。他にも何か言いたそうね?」
太一の視線に気付いた苑子が突っかかる。太一は「滅相もない」と再び腹筋を始めた。
黙々と腹筋を始めた太一と下手に口出ししない十玖。高橋は力関係に納得したようだ。
「それでもやっぱり羨ましいです」
「まあそうね。あたしも二人と幼馴染みで良かったと思うし」
十玖と太一が苑子を見て微笑む。苑子も微笑みを返し、
「二人がわざと負けてくれるんで、たまにイラっとするけど、ありがたく利用させてもらってるわ」
「大事にされてるんですね」
「…大事にされてるの? どちらかと言ったら扱いは雑把よね?」
二人を交互に見て聞いてきた。
「大事にしてるでしょ。なあ? 十玖」
「してますよぉ。女子は体張って守るべし」
「でもそれ言う女性陣、守る必要があるのか疑問なくらい、めちゃ強い人ばかりだけどね」
十玖母然り、有理然り。それに染まった苑子母子と太一母と太一姉二人。
このアマゾネス軍団に、男性陣は誰一人逆らわない。それが平和だと心得ている。
「ほら、そこ。くっちゃべってないで。次。背筋で発声ね」
飯山部長に注意され、四人は口を噤んで背筋の体勢になった。
エビ反りになってキープし、限界まで声を出し続ける。これが結構きつくて、文化部とは名ばかりの体育会系だ。
バタバタと挫折していく中、一人余裕の十玖の上に苑子と太一が跨る。苑子は十玖の両肩を掴んで、更に後ろへと引っ張った。
「え、先輩!?」
されるままの十玖をチラリ見し、苑子に視線を向けた。彼女は涼しい顔だ。
「大丈夫大丈夫。ブリッジ出来る奴だから、これくらい平気」
「はあ」
高橋の心配をよそに、まだ声を出し続ける十玖に、全員が驚異の視線を向ける。
そんな十玖に負けじ頑張れと発破をかけられて、部員たちは背筋発声を再開し始めた。
地味に汗をかき始めた頃、ふいに機械音らしき音がして一同が振り返った。
一気に注目を浴びて、美空はたじろぎながらカメラを下ろす。つい習性でシャッターを切ってしまった。
「お邪魔します」
手を挙げて、周囲に視線を巡らした。
「ごめんなさい。ちょっと十玖にいいですか?」
飯山部長が頷くのを確認し、十玖に寄ってく。
苑子と太一は十玖の上から退け、身を起こした十玖。美空の後ろにいる佳を見つけ、彼は一瞬顔をしかめた。
「どうしたの?」
「あ、うん。お兄ちゃんが十玖に連絡付かないって。明日のライヴの事で話あるみたい」
「スマホ部室だわ」
「これ使って」
美空は自分のスマホを差し出す。受け取るとすぐさま晴日に電話した。
内容は曲順の変更。それに伴ってリハーサルをやるから、音楽室に集合と言うものだ。
「部長。すみません」
「みなまで言うな。分かってるから」
それ以上の言葉はいらないとばかりに、手を払うように振って追い立てた。
立ち上がって一礼すると、美空と連れ立って昇降口扉に向かう。途中、美空がつまずき、素早く十玖が支え、当たり前のように自然と手を繋いだ。
一連の様子にぼうっと見とれる部員たち。
「いいなあ」
「うん」
高橋が呟き、一緒に行きそびれた佳が頷く。どちらも無意識だったので、驚いて目を見合わせた。二人ともバツが悪そうだ。
数秒、視線を絡ませ、どちらからともなく外す。
部長の合図で筋トレが再開すると、佳は一礼してその場を後にした。
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