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8. 新入生=春嵐もしくは大迷惑
新入生=春嵐もしくは大迷惑 ⑦
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五月二週目木曜日。
先日、晴日に“おまえに美空は無理”と言われた真意を知りたいと思っていた。
割り込む隙がないほど、美空が十玖を好きだから?
それとも自分の知り得ない美空は、十玖でなければ手に負えないような癖のある性格だから?
色々と考えてみた。無理と言わしめるものを。
えげつない事も考えて、否定して、グルグル考えてしまって、考える事に疲れて寝る。
一年ぶりに会った美空は、大人っぽくなって更にキレイになっていたが、何故だか壁を感じるようになった。
初めは十玖に気を遣っているせいだと思っていた。
去年、事件に巻き込まれ、足が僅かに悪くなったことは知っている。十玖がそんな彼女を気遣っている光景を度々見かけ、二人の間の絆を見せつけられた気がした。
美空が飛び降りを図った動画が流出した時、一緒に飛び降りた十玖が話題になった。甲斐甲斐しく美空の看病をする十玖に、同情の声と、憧憬の声がSNSを賑わせた時、自分が近くにいたら同じことをしたと思いながら、“本当に?”と聞き返してくる自分もいて、入院していると知りつつ、見舞いにすら行けなかった。
確かに、自分の気持ちなど十玖の足元にも及ばないだろう。
晴日はそれを見透かして、あんな事を言ってきたのか?
叶うとは思っていない。けれどこの気持ちをなかった事には出来なかった。
美空は下駄箱前に佇んでいた。
上履きの上に鎮座する白い封筒。
(これは一体……?)
十玖の彼女なのは周知の事実なので、こんなイベントは無関係だと思っていた。
(間違って入れちゃったのかな?)
だとしたら、宛先人に渡してあげなければ、差出人が可哀想だ。
美空は封筒を手にした。
宛名も差出人も書かれていない真っ白の封筒。これでは例え間違って入れたにしても、届けようがないじゃない、と思ったところで封が閉じられていない事に気が付いた。
(ごめんなさい。中見ちゃいます)
中の便せんを取り出して、美空は凍り付いた。
「どうしたの?」
晴日に引き留められ、遅れて来た十玖が声を掛けて来た。美空は無意識に封筒をポケットに突っ込んで、靴を履き替える十玖を見ながら、大きく首を振った。
「どうもしないよ…?」
「そお? なんかさっきより顔色悪いよ? 具合悪い?」
「そ、そんな事ないと思うけど」
十玖はじっと顔を覗き込んでくる。
「大丈夫だってば。心配性なんだから」
「だって心配だし」
「過保護すぎ」
「過保護で悪い?」
開き直った十玖を周囲が見て笑っている。
十玖が美空にベタ惚れなのは、みんなが知るところだ。十玖も全く隠そうともしないし。
ボスッ!
十玖はいきなり背中をど突かれ、振り返った。
「さっきから待ってるのに、いつまで突っ立てんの? 邪魔なんだけど」
犯人は苑子だった。どうやら学校指定のナイロンバッグで殴ったようである。
「朝からイチャイチャと。この狭い空間を、あんたの図体がどれほど圧迫してるか気付いてる?」
「ごめん」
十玖が退けると、そこに苑子の下駄箱。本当に邪魔だったらしい。
さっさと靴を履き替え、苑子は美空の腕を取り「行こう」と引っ張って行った。残された太一が十玖を見てにっこり笑う。
「十玖。そこ邪魔」
「ごめん」
太一にまで邪魔にされ、十玖はすごすごと廊下まで行き、太一を待った。
一限目、美空は朝の便せんを開いていた。
今までなかったのが不思議なくらいだ。
有名人を恋人に持ち、周囲に歓迎する人ばかりではないのは当然の事だろう。
そんな当たり前の事を考えた事もなくて、驚きのあまりフリーズしてしまったが、憤りは分かる気がする。
晴日の妹と言う立場を利用して十玖に近付き、自殺騒ぎで気を引いて、後遺症が残った事を盾に十玖を縛り付けてる卑怯者。十玖が優しいのをいい事につけ上がって鼻持ちならない。いい加減十玖を解放してあげるべきだ――――と言う内容だ。
二人の何を知っていて、こんな事を言うのだろうと憤慨しながら、十玖を縛り付けてる感は否めない。
十玖のすべての感情に応えられないくせに、十玖から離れられない。だからいつも申し訳なさを感じている。
佳のスマホで真秀の写真を見ていた時、十玖が耳打ちした“美空の赤ちゃんならきっともっと可愛いよね”のプロポーズとも取れる言葉。
そんな日が来るのかも怪しい。
いつか十玖と別れる日が来るのだろうか?
このままなら別れることになっても、文句は言えない。セックスもさせないくせに、ずっと引き留めるなんて無理だし、強要も出来ない。
十玖はそれでも良いと言うけれど、美空の為に言っているだけで、体は嘘が付けない。
激しいキスをされて、十玖の変化を感じた時、どうしようもなく怖くなってしまった。こんなで二人の未来を想像する方が難しい。
でも今は別れることも選べないのだ。
差出人不明の手紙をくしゃりと握り、美空は深いため息をついた。
乱闘騒ぎからこっち、萌の周りは平穏だ。
萌の執念深さに慄おののき、もう誰もケンカを売ってこない。そりゃそうだ。クラスのリーダー格の女子を辟易させたのだから。
彼女に苛められなくなって、ポツポツと話しかけてくれるようになった子もいる。
一番変わったのは、クラス委員の長澤かも知れない。態度は素っ気ないのだが、何かと気にかけてくれる。最初は萌など眼中になかったようなのに。
以前、美空がラインで “萌を分かってくれる人はいる” と言ってくれたが、長澤もその一人かもしれないと思う。
クラス委員として問題児を野放しに出来ないと言う、穿った見方もできるが、そこまで頭は回っていない。
まあとにかく、クラスは平和だ。
《Moe――晴さん。今何してる?》
特別用事はないのだが、手持ち無沙汰なのでラインしてみたら、返事が直ぐに返って来た。
《HAL――竜助とだべってった》
《Moe――今日お天気いいから、みんなで屋上でご飯食べたいな》
《HAL――そうだな。んじゃグループ送信しとくわな》
《Moe――やった! 楽しみ~》
こうでもしないと、校内で晴日とまともに会えない。
もっとベタベタしたいのだが、飛びついただけで過剰反応する方々を、これ以上煽ってくれるなと十玖に言われた。
萌としても怪我するのはゴメンだ。先日の引っ掻き傷が癒えたばかりだし、傷を見るたびにため息をついていた晴日が可哀想だった。
スマホのバイブが鳴り、昼休み屋上集合のラインが届いた。直ぐに全員の既読が付く。
《KENT――みんなでランチかあ。仲良しさんでいいねえ》
その後に佐保とツーショットの写真が送られてきた。こちらも順調のようだ。
《tuttu――いいわね、あんたたち楽しそうで。こっちは昼抜きになりそうだってのに》
《KENT――年齢的にも、無理なダイエットは老化を促進させますよ?》
《tuttu――ケント。殺されたいの? あたしの老化を促進させてるのは、他でもないあんたたちよ!》
《KENT――やだな。ちょっとした戯れじゃないですか。いつも感謝してますよぉ》
《tuttu――心がこもってないわね。あたしは忙しいのよ。明日のライヴよろしくね!》
《KENT――だって。今日軽く通しやるから音楽室ね~》
A・D三人の“了解” が送信されたところで始業のチャイムが鳴った。
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