【R18】不器用な僕たちの恋愛事情

優奎 日伽 (うけい にちか)

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8. 新入生=春嵐もしくは大迷惑

新入生=春嵐もしくは大迷惑 ⑧

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 昼休み。屋上に向かう途中、美空はちょっと部室に寄ると言って、十玖、苑子、太一を先に行かせた。
 十玖はついて行くと言ったのに、また心配性だの過保護だのと少しキレ気味に言われたので、しょうがなく先に屋上に来た。

 既に晴日たちがいて、弁当を広げる準備をしていた。

「美空は?」
「部室に寄ってからすぐ来るそうです」
「一緒に行かないなんて珍しいな」
「何か朝から過保護すぎるって怒られてばかりだったんで」
「確かに過保護だよな」

 過保護になる理由を知っていても、行き過ぎ感は否めないところだ。

「いくら好きでも息苦しくなるんじゃない」

 苑子の指摘に、情けない顔になる十玖。

「ウザいかなぁ?」
「あたしだったら超ウザいって思うけど。美空ちゃんはどうかな?」 
「苑子は適度に放置されたい方だからな」

 お茶の口を開けながら太一が言う。
 美空を待って五分も過ぎた頃、十玖がソワソワし始めた。やたら昇降口を気にしている様子を見て、竜助が呆れた顔をした。

「心配なら行って来いよ。俺らも腹減ったし」
「行ってきます!」

 それからの十玖は素早かった。
 GOのサインが出るのを待っていた犬の如く、もの凄い勢いで立ち去る。一同呆然と見送り、すぐ大爆笑になった。



 写真部のパソコンに接続されたままだったUSBメモリを取り外し、ポケットに突っ込んだ。
 迂闊にも、昨日挿しっぱなしで忘れて帰ってしまった。幸い流出して困るようなデータは入ってなかったが、今回のテーマ写真が入っているので、取り外しておくに越した事はない。

「よし」

 言って踵を返すと、丁度入って来た佳と鉢合わせた。

「桂くん。どうしたの?」
「ちょっとデータの編集しようかと思って。美空さんは?」
「忘れ物取りに来ただけ。ごめん。みんな待ってるんで、もお行くね」

 二人きりは避けたかった。緊張感で息苦しくなってくる。
 そそくさと退出しようと佳の前を通り過ぎると、ふいに手首を掴まれた。



 スマホのバイブが鳴動し、みんな自分のスマホを確認した。違うと知り鳴動元を探すと、十玖の弁当の脇に置かれたままのスマホが着信を知らせていた。
 発信は天駆だ。こんな時間に掛けて寄越すなんて、急用かもしれない。

「もしもし。すいません。晴日です。いま十玖離れてて。じき戻ると思うんですけど」
『そっか。んじゃ折返し電話するように言って貰えるかな?』
「了解です」

 電話を切って、時間を確認する。

「ちょっと俺も行ってくるわ」

 十玖のスマホを持って晴日が立ち上がった。



「ちょっと待って。話があるんです」

 佳に手首を掴まれて、心臓がドンッと脈打った。脂汗が出てくる。

「放して」

 佳の指を剥がそうとする美空の手を止める。
 激しい心臓の連打。呼吸が乱れてくる。
 佳は、体がガタガタ震えだした美空の顔を覗き込んだ。引きつって嫌悪を露わにした眼差し。

「みく…」
「いや――――ッ!!」

 全身で拒絶する叫び。佳は驚いて手を放した。しゃがんだ美空は四つん這いになって、壁際まで慌てて移動し、体を丸めて震えている。

 何が起こったのか分からない佳は茫然自失で眺めていた。

「美空!!」

 悲鳴を聞きつけて、十玖が飛び込んで来た。
 佳を見、通り過ぎざま彼の頬を張りつけ、美空に駆け寄る。

「美空? 美空。大丈夫だから安心して。怖くないから。美空?」

 泣きわめき、暴れる美空を抱きしめ、背中を擦り必死に宥めていた。十玖は優しい声で絶え間なく声を掛け続けている。
 佳は凍り付いていた。

「おーい。とお…く……」

 スマホを持って来た晴日が、入り口で固まった。
 佳が立ち尽くし、パニック状態の美空を必死に宥めている十玖。何かがあったのは一目瞭然だった。
 晴日は佳に掴みかかった。

「おまえ何した!?」
「は…るさん。お…俺は何も…ちょっと手首を掴んだだけで、他には何も」
「手首掴んで何するつもりだったんだ!?」

 佳の知ってる晴日はいつも笑顔だった。いま目の前の彼は、剣呑とした目で自分を見ている。
 引き攣った顔で、晴日を見返す。

「は…話を……き…聞いて…欲しくて」
「おまえには無理だって言ったろ! ここまで回復するのに、どれだけ十玖が骨を折ったか知りもしない奴が、茶々入れんな!」
「そんな…つもりじゃ」

 なかった。まさか美空がこんなに取り乱すなんて、誰が思うだろう。
 落ち着いてきた美空に囁きかけ、髪を撫でる十玖は泣きそうな顔をしていた。彼女を抱き上げ、立ち上がる。

「晴さん。保健室に薬預けてるんで、連れて行きます」
「分かった。あ、十玖。天駆さんから電話あって、勝手に出ちゃったんだけど、折返し欲しいそうだ」

 両手が塞がっている十玖のブレザーのポケットに、スマホを滑らせる。

「すみません。ありがとうございます」

 軽く頭を下げ、十玖は写真部を後にした。
 晴日は佳に向き直ってため息をつくと、徐にスマホを取り出して竜助に電話した。

「もし。悪いけど先に食ってて。佳がちょっとやらかしてくれたんで、十玖が美空、保健室に連れてったんだわ。……んで、ちょっと佳と話すっから。よろしく」

 電話口の後ろで萌のブーイングが聞こえた。
 楽しみにしていたのは何も萌だけじゃない。晴日だって周囲に内緒にしている分、一緒にいられる時間は貴重なひと時なのだから。
 それを思うと腹立たしい。
 ギッと睨みつけると佳はたじろいだ。

 最初から佳に説明しておくべきだった。美空に想いを寄せているのを知っていたのだから。
 晴日はもう一度ため息をついた。

「去年の事件、知ってるか?」
「……はい」

「美空は、正気を失うほど、怖い思いをした。何度も自殺未遂を繰り返して、最後には十玖を巻き込んで飛び降りた。それでやっと正気を取り戻せたんだ。それでも、最初は十玖すら迂闊に触れることが出来ないくらい、そりゃあ酷いものだった。現場を目の当たりにして、十玖だって心療内科に通ってたにもかかわらず、普通だったら辛くて逃げ出すだろうに、諦めないで、献身的に美空に寄り添ってくれている十玖に感謝してる。しんどくても二人で乗り越えて、やっとここまで来たんだ。もう余計な事しないでやって」

 美空から感じた壁の正体。
 晴日が全部を話さずとも、察しはついた。
 美空が悪いわけじゃないけれど、男の身勝手で責めてしまってもおかしくない状況だろう。
 自分は変わらず好きでいる事が出来るのか、変な色眼鏡で見ずにいる事が出来るのか、確信は全く持てない。

「佳がまだ少しでも美空を好きでいてくれるなら、この事は誰にも言わないでやって欲しい」
「誰にも…言えませんよ」
「ありがとな」
「お礼なんて…」

 言われたら、どうしていいのか分からない。美空の傷を抉ってしまったのに。

「美空さんには、必要以上に近付きませんから。トークさんにもそう伝えて下さい。すみませんでした」

 深々と頭を下げた。晴日は佳の頭をよしよしすると、「じゃあな」と言って部室を出て行き、残された佳は、自責の念に圧し潰されそうで、一人静かに涙した。


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