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8. 新入生=春嵐もしくは大迷惑
新入生=春嵐もしくは大迷惑 ⑨
しおりを挟む安定剤を飲んで眠る美空の手の甲に唇を押し当てて、十玖はひたすらに美空を見つめる。
有理に教室に戻るように言われたが、頑として動かなかった。
あの後、晴日が様子を見に来て佳の伝言を伝えると、十玖の肩を叩いてみんなの元に戻って行った。
「十玖。あんたは大丈夫なの?」
「平気」
「ねえ。お茶飲まない?」
「いらない」
「お腹が温まると落ち着くわよ?」
「欲しくない」
有理はやれやれとため息をついた。
こっちがどんなに心配したって、この頑固者が拒否したら、気持ちが落ち着くまで待つしかない。
最近は薬に頼らず、落ち着いて生活していたのに、十玖からの説明はない。晴日も複雑そうな笑みを浮かべて行ってしまった。
スクールカウンセリングも兼任している有理は、十玖が不安定な精神を抱えているのを知っている。露わにした心の闇も。
美空がいるから保てている精神状態は、危うさを垣間見せる。
二人が付き合うまでの十玖は、人にここまで執着することがなかった。ずっと想い続けた子と付き合える様になって、執着するのは解らなくもない。それが病的と思えるくらい酷くなったのは事件後からだ。
自分を責め続けて、壊れてしまうのではないかと心配したが、崖っぷちで踏ん張って耐えていた。ひたすら美空の為に。
正直、この義弟が哀れでならない。楽な道だって選択できたはずなのに、それを選べないのだから。
純粋な愛情なのか、自責の念を払拭させるための執着なのか。有理はいつも考える。
仮に美空を失うことになったら、この義弟はどうなってしまうのだろう。
そんな日が来ないことを祈っているが、二人はまだ若い。これからも様々な出会いが用意されている。でもそんな忠告が無駄な事も知っている。
有理は、微動だにせず美空を見つめる十玖の頭を撫でた。
1Bの前で、佳と萌が対峙していた。
萌は屋上から戻り、佳は部室から戻ったところでかち合った。
すごい形相で佳を見上げてる。
萌は大きく後ろに反り返り――――佳の胸に頭突きを食らわせた。
予想だにしなかった攻撃をまともに食らい、息が出来ない佳が前屈みになってそのまましゃがみ込んだ。
萌は額を擦りながら、ぐっと唇を噛んだ。怒りでじわじわと涙が浮かんでくる。
「美空さんになんて事してくれてんのよ!! 二人を傷つけないでよ!! 美空さん悪化したら、あんたの事、絶対に許さないからっ。一生恨んでやる~ぅ」
言いざまペタリと座り込んで、わんわんと子供のように泣き出した。騒ぎを聞きつけた生徒たちが集まってくるのも構わずに、号泣する萌。
「ごめん。もうしないから」
泣き止んでよ、と半泣きの佳。
乱闘騒ぎを起こし、多勢に無勢でも泣きもしなかった萌が号泣する様を見て、1C女子が萌を立たせて教室に連れ帰った。
萌はしばらく佳に対して幼稚な悪口を口にしながら泣きわめき、佳は周囲の冷たい視線を浴びながら、机に突っ伏した。
萌が佳にケンカを売った話は、すぐ晴日たちの耳にも入った。直情的な萌らしい。
萌もあの現場を目撃し、女であることの不条理さに憤った。
恋人の不幸な事件から目を逸らさず、耐える姿を目の当たりにし、あれほど大好きだった十玖から身を引くと、美空を出来る限りサポートしてくれるようになった。
形なりはちっちゃくても一応女だ。説明しなくても解ってくれる萌は、美空には必要な存在だ。
さっき十玖からラインが届き、美空を家まで送ってから、音楽室に行くとあった。ただし美空の状態次第では、リハを休ませて欲しいと言うことだった。同じ文面で謙人にも送信したようだ。
ライヴ当日じゃなかったのが、不幸中の幸いか。
こんな時、いざとなったらライヴを捨ててでも、十玖は美空を選んでしまいそうで、戦々恐々とする。
前の晴日なら、美空を蔑ろにする男なんてのは問題外だった。何を置いても美空を優先するような男でなければ、父も晴日も絶対に認めない自信があったのだ。
しかしいざとなったら、非常に困る。
美空を悲しませたくない。けどA・Dには今や必要不可欠。
だからと言って美空に早く克服しろなんて事は、口が裂けたって言えやしない。男が考えるほど、単純な事じゃない。
レイプされた娘を立ち直らせ、変わらず大事にしてくれる十玖に、父は一方ならない感謝の念を抱いてる。将来的に二人が結婚するとなったら、反対するはずもない。そのくらい十玖を信用している父をなおざりにして、十玖を美空から引き離すようなことをしたら、間違いなく血の雨が降る。
どうしたらいいのか、ほとほと困ってしまう。
美空の恋人と、トークが別人だったら良かったのにと、考えても詮無い事を本気で考える。
どちらにしても、美空の早い復活を願うばかりだ。
手紙の反応は意外に冷めていた。
意外に図太いのか、想定内だったのか。
十玖の従妹が、美空の事で男子にケンカを売ったらしい。彼が何をしたかなんて興味はないが、十玖の従妹を味方につけている美空には腹が立つ。
美空が保健室に運ばれ、また十玖の手を煩わせたようだ。
ずるい女。
晴日の妹だからって、心も体も独り占めなんて許されていい訳ない。
少し、自分よりも近くに居ただけなのに。
あの優しい人が、欲しい。
どんな事をしても。
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