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18. 君を想うと……
君を想うと…… ⑩
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前橋を二度目に訪れた翌日の放課後、西から連絡を “音楽室” で受けた。
見知らぬ電話番号に、麻美かと思って慌てて出たら期待外れだったのが声に出ていたらしい。西は苦笑しながら、伝言はしっかり伝えたとだけ言って、電話を切った。
竜助の落胆振りを傍から見ていた十玖たちは、敢えて気にしないようにクリスマスライヴの曲を選定していた。
何ともない、と言いたげに取り繕った顔で竜助が選定に加わり、いつも通りの賑やかさが戻ったようだ。
麻美は、恭子にだけでも連絡してくれるだろうか?
せめてそれだけはしてくれると思いたい。
竜助と恭子に迷惑を掛けたくないと言っていたらしいが、迷惑になるようなことに心当たりはない。何を気に病んでいるのだろう?
(迷惑なら、いくら掛けてくれたっていいのに)
けど麻美はきっとしないんだろう。
ゲラゲラ笑いながら、心中ではそんな事を考えて溜息を吐いていた。
西から連絡があったと竜助からLINEが来た。
麻美が恭子だけに連絡を寄越すとは思わない。そんな事をするくらいなら、彼女は最初から姿を隠したりはしなかった筈だ。
竜助を本当に愛していたから、身を引いたとは思いたくない。
今は確かに社会的に問題があるかも知れないけど、世の中じゃよくある話だ。あと数年待てば、大手を振って歩けるのに。
四年待って来たのに、あと二年が待てなかったと言うのか。
麻美は何も相談してくれなかった。
十年来の親友に信用して貰えないなんて、こんな悔しい事はない。
(…バカなんだから)
世間が何と言おうと、いつだって味方なのに。
せめて、理由だけでも教えてくれたなら、それでも離れて行くつもりなら、麻美を尊重しようと思う。納得は出来ないし、凄くつらい選択だと分かっているけど。それしかないならそうする。
(だから麻美。一人で抱え込まないで。全部吐き出してよ……)
麻美の写っていたSNSに目を落とす。
心なしか以前よりも痩せて見える彼女の身体が気になって、恭子は「バカ」と声に出して呟いた。
真弓の気分はどん底だった。更にそこに穴掘って、まだ落ちて行けそうな心情。
今のところ支障なく仕事で来ているのは、殆ど奇跡に近い。
昼休憩は最近お決まりのどんより溜息の連発。
職場の同僚たちと飲みに出て、ばったり竜助に出くわしてから一週間。
竜助に “お望みとあればセックスしてやろうか?” と言われ、大人を揶揄うなと返したものの、本当はドキドキしてた。
うんと頷いてしまいそうになった自分が信じられない。
八つも下の少年に抱かれる自分を一瞬でも想像して、身体が火照ってしまった自分は物凄く欲求不満で、ストライクゾーンから外れていた竜助にまで触手を伸ばそうとしてている、ダメな大人決定だ。
(だって。何かリュウって、妙に色気あるんだもの)
とは言え、真弓の中のモラルがそれを許さない。許さないけど、もし竜助から迫られたら、流されそうな自覚もあるから始末に悪い。
(リュウがあたしを本気で誘うなんて……ないない)
否定しながらその光景を想像して、心の中で嬌声をあげて見悶える。
(あたし…終わってるかも……)
妄想にどっと疲れて机に突っ伏した。
千夏から教えられた前橋のカフェでの写真。
竜助は微かに笑っているけど、本当はどんな気持ちだったのだろう。
心を囚われたままの竜助と、たとえ身体の関係を結んだところで虚しいのは分かり切っている。そしてもしそんな関係になったら、自分は重い女になる。それで今までもダメになっている。
気のない相手だったとしても、一度でも繋がりを持ってしまったら、もう割り切ることなんて出来ない。振り向いてくれないのに。
(…自分が嫌過ぎる)
明らかに迷惑がられているのに。
もうライヴにも行かない方が良いんだって、頭では理解しているのに、千夏に誘われたら、行くと言ってしまった自制心皆無の己に涙が出る。
(だってほら。今度のライヴは、リュウの誕生ライヴだし、ね)
そして、誰に言い訳しているんだとまた見悶えて、休憩が終わったスタッフたちが戻って来たのを目に止めると、何事もなかったように居住まいを正した。
竜助の誕生日の翌日、イヴの前日のBEAT BEAST。
ぎりぎりまでライヴに行こうか行くまいか、悩みに悩んで、結局ライヴに来ている。
千夏が楽しそうにしているから、それはそれで良かったとは思う。その為にわざわざ身バレしないように変装してきたけれど。
千夏は真弓の心情を慮って何も言わなかったけど、目はホントにそれで良いのか訊いていた気がする。
普段の真弓だったら絶対に有り得ない。
ウェーブの掛かったアッシュピンクのロングウィッグと、ベロアの可愛めワンピースは胸元がレースになっている。メイクも目元にかなり気合を入れて、見た目の雰囲気がかなり違って見えた。
普段は地味目スーツと、ナチュラルと言うには控えめ過ぎるメイクしかしないのだから、違和感が半端ないし、はっきり言って睫毛が重い。もっと言うなら顔全体的に重苦しい。そこまでしてライヴに来ると言うのも何なのだが。
全ては十玖の目が良過ぎるせいだ、と責任転嫁する。
ライヴは “きよしこの夜” のロックバージョンで始まった。全然 “Silent Night” じゃないとツッコんでいる真弓は、この場では寂しいくらい冷静だ。
隣の千夏は最初から弾け捲っている。
続けて二曲を歌い、十玖がキーボードで “Happy Birthday” を弾き始めると、袖から晴日と謙人がワゴンを押して来た。晴日が竜助に大きく手招きすると、少し照れた竜助が前に出て来る。大合唱の中で竜助がローソクを吹き消すと、歓声が上がった。
真弓の目にカメラを構えて忙しなく動き回る美空の姿が飛び込む。彼女を何とはなしに目の端に留め置きながら、意識をステージに向けた。
「リュウもやっと十八禁解除だな」
「あんま関係ないけどな。今更」
「いやいや。関係あるだろ。ラジオのパーソナリティーに生で出られる!」
「それって深夜まで働けって事だろが」
「チッチッチ。“オールナイトで遊ぼう” がテーマだろ。仕事の中に遊びを見付けてくれ。いやあケントと二人っきりだと、仕事多くて。リュウが入ってくれたら分担減るし助かるわ」
「トーク。お前も早く十八になれ」
「この間、十七になったばかりなんですけど…じゃなくて告知!」
すっかり忘れていた晴日は、十玖に「緊張感ないなぁ」とがっくり言われ、ひよこ頭をボリボリ掻いた。ホールをぐるり見渡し、一呼吸おいて言い辛そうに口を開く。
「…えーっと、ですね。誠に申し訳ないんですが、A・Dのライヴはしばらくお休みになります」
本当に申し訳なさそうに言った晴日に、ファンのブーイングとどうしてか問う声が上がる。真弓も思わず目を見開いてステージを注視した。
「年末のこの時期にこれで良いのかって自分でも思うんだけども、俺とリュウ一応受験生なんで、ちょっと追い込み入ります。ライヴ再開は三月? ……になると思うんで、それまで待っててくれな。ラジオはそのままやるんで、そっちで生存確認してくれ」
「無事に合格できること祈ってくれな」
竜助が言うと、待ち構えていたキーボードから “So amazing” のイントロが流れ出す。
「最後まで楽しんでってくれな!」
晴日のその言葉に一際高い歓声が上がった。
(そっか……受験、かぁ)
進学するとは思っていなかったから、狐に抓まれたみたいに腑に落ちてない。
それでも悩んだ末に、来て良かったと思う。
これは、少し頭を冷やせと言う啓示の気がする。
ならば今日は最後まで、楽しまなければ勿体ない――そう思い直したところで、目の端に他とは明らかに違う動きを感じ、自然と目が向いた。
美空がカメラを下ろし、ホールの後方に向かって狭い通路を掻き分けて行く。
何故だか身体が勝手に動いていた。美空の慌てぶりがただ事じゃないのを物語っていて、真弓は鮨詰めの中「ごめんなさい」を連発して、美空の姿を追う。彼女は出口の方に向かっていた。
美空に気が付いた相手は踵を返したところで手を掴まれていた。
そして――――
「麻美さんッ!」
相手を呼んだ美空の声に、真弓は固まってしまった。
知りたかった麻美と言う存在が、目の前にいる。
麻美はチラリとステージを見、出口を出て行く。真弓はハッとして足を踏み出した。
出てすぐの所に二人はいた。どうやら無駄に目が良い十玖を避けたらしい。
話し声に真弓は耳を傾けていた。
この間から盗み聞きばかりで、とてつもなく下劣な女になり下がったようで、心が痛い。けれど、どうしても気になってしまい、感情に逆らえなかった。
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