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18. 君を想うと……
君を想うと…… ⑪
しおりを挟む「麻美さん! 今まで何処にいたの!? 竜ちゃんがどんなに心配してたか!!」
「クーちゃん。ゴメンね」
「あたしじゃなく竜ちゃんに謝って。帰って来たんだよね? 竜ちゃんの元に帰って来てくれたんだよね?」
逃がすまいとがっしり麻美の腕を掴んだ美空。麻美は悲し気な微笑を浮かべて、首を横に振った。
「今日ここに来たのは、近くで用事があったのと、これを返すのを忘れていたから」
麻美は小さなペーパーバッグを美空に手渡した。美空は袋の中を覗き込んで、慌てて中を取り出すと蓋を開けて首を振った。
「ダメッ!! こんなの誕生日に返されたら、竜ちゃんホント立ち直れなくなる! お願い。これは麻美さんが持ってて!」
それが何なのか、離れていても真弓にも判った。
小さな箱はきっと指輪。
予感はしていたけれど、恋人だったんだと事実を突き付けられると、思いの外ショックが強い。
ペーパーバッグを不承不承に受け取って、麻美は溜息を吐いた。
「麻美さん。控室行こ?」
「行かない。ここで帰る」
「何で!? 竜ちゃんのことはどうするの!?」
「竜助とは終わったの」
「それは勝手に麻美さんが言ってるだけじゃないっ。竜ちゃんは今でも好きなんだよ? 竜ちゃんが一人で泣いてる姿、麻美さん見てないから! 声を殺して泣いてるの、見て見ぬふりするのツライよ。お願いだから帰って来て」
麻美の胸に頭を摺り寄せるように垂れた美空の目から涙が落ちた。麻美は掴まれたままの腕を美空の背中に回し、ぽんぽんと宥め始めた。
「ゴメンねクーちゃん。あたし狡い人間だから、耐えきれなくなって竜助を騙して手に入れたものがある。それを守っていきたいから、竜助の為にも別れた方が良いんだよ。竜助の足を引っ張らないためにね」
だから放してと言った麻美を振り仰ぎ、
「そんなの分かんないじゃん! 竜ちゃんは怒ったりしないし、嫌いになったりしないよ? そんな薄情じゃないもの」
「竜助がそうだったとしても、世間が許してくれない」
悲し気に微笑み、美空の手を解こうとする麻美に「一緒に行こ」と言って、逆に麻美の手を取り返した。
麻美は半身を後ろに引き、連れて行こうとする美空に抗っている。
「無理に連れて行くなら、今度は国外に逃亡するから!」
突拍子もないことを言い出した麻美を、美空が目を点にして見つめ返した。
「本気だよ。それでもう本当に終わりにする」
「やだやだやだ。麻美さんが居なくなるなんて、絶対に嫌! 麻美さんはあたしたちにとっても大事な人なんだよ? なんで分かってくれないの?」
美空に縋り付かれ、麻美は泣き出してしまいそうな頼りない笑顔を浮かべた。美空の前髪をそっと掻き上げ、額に軽くキスを落とすと「あたしもみんなが大好きだよ」と優しくハグし、背中を擦ってから美空を放した。
女性が女の子に自然とキスをする光景に、真弓は麻美と言う人となりが何となく理解できた。
同性にでも優しく宥めるキスを落とせる彼女の本質は、母性なのだろう。
そんな彼女が決別を口にする。
「あたしが竜助を愛したりしなかったら、きっとずっと一緒にいられたと思う。けど、自分の中のどす黒いモノに気が付いちゃったら、もう苦しいだけで、大好きなみんなも傷つける。そんな事になったら、竜助をもっと苦しめてしまうから。これが最良なの」
「麻美さん。竜ちゃんのことまだ好きだよね?」
美空の言葉に束の間躊躇して、麻美は頷いた。
「大好き」
「なら。もう大丈夫だって思えたら、竜ちゃんの元に、あたしたちの所に戻ってくれるって約束して。じゃないとあたし、今ここで大声出して十玖呼ぶよ?」
「トークはヤだな。逃げられる気がしない」
「とか言って、一度振り切って逃げたじゃない。十玖暫く竜ちゃんに申し訳ないって落ち込んだんだから」
駅で偶々麻美と遭遇したものの、雑踏に紛れて麻美を捕まえることが出来なかった。
その暫くの後、麻美から別れの手紙が届き、表立って顔に出さない竜助を見る度、美空は泣きそうになった。
麻美は今もまた泣きそうな美空の頭を撫でて、二人を見ていた真弓にチラリと視線を寄越した。
「ゴメンね。もう少しだけ、時間をちょうだい」
そう言った彼女が美空に促したのだろう。美空が真弓を振り返って、顔を顰めた。すぐに麻美に視線を戻すと小声で一言二言交わし、麻美が小さく手を振ってライヴハウスを出て行くのを見送り、美空はチラッとだけ真弓を見て、何事もなかったように脇を通り抜けて行った。
どうしても知りたいと思った麻美は、大人の女性だった。
暗がりだったからはっきりとは言えないけど、真弓とそう年の差がないように見えた。
彼女でもいいなら、自分にもチャンスがあるかも知れない。
麻美はどうやって竜助の心に入り込んだのか気になって、衝動的にBEAT BEASTを飛び出し、麻美を追った。
ゆっくりとした足取りの彼女に追いつくのは簡単だった。肩を掴んで後ろに引くと、驚いた彼女と目が合い、麻美は口元に微かな笑みを這わせた。
「何か御用ですか?」
麻美の声はしっとりと耳に優しい。
この声で竜助に愛を語っていたのかと思っただけで、胸がざわりとして掻き毟りたいほど心が乱れ、麻美の手の中にあるペーパーバッグに目を落とし、考えるより早く力尽くで奪い取っていた。麻美の伸ばした手から庇うように身を捩り、「別れたんですよねッ!?」と声高に投げかける。麻美はピクリと小さく震え、伸ばした手を胸元に持って行くと、もう片方で包み込んだ。
「竜助の…新しい彼女?」
「そうです」
咄嗟にそう答えていた。
麻美はゆっくり瞬きをし、真弓に視線を戻す。
「そう。ならそれを竜助に返してくれますか? 先刻はクーちゃんの手前、受け取らないわけにいかなかったから」
「はい? そんな事したらあたしが嫌われるじゃない!」
「なら好きにして下さい」
「何それ!? なんなのその余裕ぶった台詞」
「じゃあどう言ったらいいんです? あたしはもう竜助の元に戻らないから、安心して下さい」
そう言って儚げに微笑んで見せた麻美。
真弓は発作的にペーパーバッグを車道に投げていた。アスファルトでバウンドし、走って来た車に当たって轢き潰される。
無残な姿を晒していた。
麻美の悲し気な眼差し。
真弓の身体がぶるぶる震えて来る。そして襲い来る後悔。
麻美は数秒見詰めてから、踵を返して歩き出した。真弓はすぐに追い駆けようとして躊躇し、慌てて車道に飛び出していた。
ペーパーバッグを拾い、それからの真弓の意識はない。
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