あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある

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第三部

70話 あおいの家へ

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 あおいと初デートの約束をした日――土曜日――が来た。
 外へ遊びに行くものと思っていたが、あおいは『自分の家へ来ないか?』と言った。
 『えっ。いきなり家?』と少しドキドキしたが……そう言えばキョウもあおいの家には行ったことがあると思い出すと対抗心みたいなものが芽生え……承諾した。
 キョウには色々よくしてもらって、さらにおれの方があおいと付き合うことになっても祝福してくれたと言うのに。
 おれはイヤな奴だ。

 それにおれたちは恋人同士とは言え、一応男同士でもあるし(身体は)。
『女子の家へ行く』とはまた違うだろう。
 と言うと、(心が女の)あおいに悪い気もするけど……。
 良い意味で言っている!
 あおいは女子みたいには男子に対してガツガツしていない。……はず。

 おれは電車に乗り、そしてあおいの通学時の最寄り駅で降りた。
 快速が停まるだけあり少し賑わっている駅であるが、あおい曰く『同じ学校の人に会うことはほとんどない』んだそう。
 学校から遠いからか、同じ学校の制服を着ている人はほんの数人しか見かけず、しかも全然学年とかもわからない全くの他人とのこと。
 あおいはなかなか不便なところに住んでいる。
 何でも、弟のタケルくんの学校の方に合わせて親が引っ越し先を決めたらしい。

『まあ、タケルは男の子だから、どちらかと言うとタケルの方の心配をするのは仕方ないよね』

 とあおいは言っていたが、あおいも(身体は)男の子だろうに……。


※※※

 改札から出る前から、向こう側にあおいの姿を探すが。
 見つからない。
 
 降りる時間を連絡したとき『改札前で待っている』と言っていたのに、と思いつつキョロキョロしながら改札から出ると。
 手を掴まれた。 
 驚いてその方を見ると、あおいがいた。

 あおいが――女の子の格好をしたあおいが――。
 どおりで気付かないはずだ。おれは『男子』を探していたのだから。

「みどりちゃん……」

 と思わずつぶやいた。
 と言うか、よく覚えていたな、その名前……。
(『みどり』はキョウとサキがあおいの『男の娘姿』をごまかすために咄嗟にでっち上げた名前だったはず)
 『みどり』はあおいとのケンカの原因だったから、少し思い出したくないフレーズなのだが……。
 いや、しかし、『みどり』のおかげで今おれはあおいと付き合えているとも言える。

 あおいは「えへ……」と笑った。

「どうかな?」

「すっごく……」

 とおれはやっと言った。
 少し見とれてしまったから。

「可愛いよ」

「えへ……」

 とあおいは照れると、おれの腕を取って、絡めてきた。

 むにゅ……

 何だか柔らかい感触がして、おれは驚いてあおいの方を――おれの腕とあおいの身体が密着している部分を見つめた。
 あおいの胸の右胸あたりがおれの腕に当たっているのだが……。

 何コレ!? 胸!?

 柔らかい……。

 何だかポーッとしてくる。
 何だろうコレ……。
 何故? ポーッとするんだろう?

 だって、偽物だろ?
 あおいは男の子なのだから、当然偽物の胸だ。
 
 『みどり』の写真をキョウやサキに見せて貰ったときも、あおいは大きな胸をしていて……。
 あの写真をときどき思い返す度、少し胸が痛んだ。
 『みどり』の姿は『あおいの女の子への憧れ』の現れかと思って。
 あんな大きな胸あおいには必要ないのに。
 そのままでいいのに。

 しかし今。
 おれの腕に触れている『胸の感触』で、おれは今まで味わったことがないような感覚がしている。
 何だか甘い感覚……。

 脳ってバカなんだろうか?
 偽物とわかっているのに、こんなにクラクラしてしまうなんて……。
 いや、バカなのはおれか……。
 とぼんやり思った。


※※※

「あ、そうだ。
ちょっとコンビニ寄って良い?
りんは?」

 と言うあおいに、首を横に振ると。
 あおいは『ごめん、ちょっと行ってくるね』と謝りコンビニの方へ駆けていった。
 おれは相変わらずぼんやりとあおいの後ろ姿を見送った。

 するとあおいが小走りでコンビニへ行くときすれ違ったカップルが目に入る。
 男の方があおいの方を振り返る。
 あおいが可愛いから振り返って見てるのかな、と少し嬉しくなる。

 そのカップルはおれの近くを通り過ぎたので2人の会話が聞こえてきた。

「今の子、すげー胸大きくない?
厚着していてもわかる」

 と言うのは男の声。
 それに答えて、女の方が言う。

「男ってバカね~」

「えっ」

「あんな細い子が、あんなに胸大きいわけないじゃない。
そりゃ、たまにはいるだろうけど……滅多にいないよ。
多分偽物だよ。
胸パッドか何か」

「そうかな~」

「絶対そうだよ!」

 そんな男女の会話を聞いてしまって。
 ぼんやりしていたおれも少し現実に戻った……気がした。

 そうだ。胸パッド。当たり前だ。
 わかっていた。もちろん。

 あおい、あんな大きな胸パット入れることないのに。
 入れなくても、そのままで可愛いのに。

 あの胸にポーッとしてしまったおれが言うのもなんだけど。


※※※

 あおいはコンビニの袋を提げて、おれの元に戻ってきた。

「お菓子も買った」

 と言いつつ、おれの腕を再び取る。

 また胸が……。当たる。
 先程のカップルの会話でより明確に『あおいの胸は偽物』と脳に刻み込んだはずなのだが……。
 やはりポーッとしてしまい。

 これはスルーするより、あおいにぶつけてしまった方が良いのかと思い、言ってみた。

「あおい、胸……。
当たっている」

 と言うと、事実を言っているだけなのだが、すごく照れてしまった。
 あおいはおれの言葉でパッと身体を離した。

「あっ。ごめん……。
イヤだった……?」

「いや。仕方ないよな」

 とおれは慌てて言った。

「腕組んだだけで当たるよな?
それだけ大きければ……」

 何言っているんだおれ。
 あおいは苦笑いしている。

 おれは腕をあおいに突き出した。

「当てていいよ」

 何言ってんだおれ。

 あおいは遠慮がちな微笑みを浮かべた後、おれの腕を取った。
 再び胸が当たる。
 再びポーッとする。

 偽物だ!
 偽物だ!
 と自分に言い聞かせつつ……

 おれはよくわからない状態のまま、あおいが進む方向へ連れられて行くように、歩いて行った。
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