子孫繁栄なんて知らないわ! ~悪役令嬢として生まれた私は、婚約者を自分好みの男の娘にして可愛がる~

矢立まほろ

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 -4 『変わり者のクラスメイトたち』

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 貴族の階級社会。
 面倒な物があるものだと、私は心底呆れる思いだった。

 なにしろプルネイで暮らしていた頃は、領民との間にさえ格差を感じなかったものだ。領主の貴族は村でいう大黒柱のような存在で、上下というよりも横の関係が多かった。誰もが親しく、領主といえども特別扱いはそうそうない。困難があれば共に悩み、嬉しいことがあれば共に喜ぶ、まさしく対等な存在だった。

 王都ともなればその感覚も根底から違うわけだ。
 そんな思想が集まって上級貴族として何百年と凝り固まっているのだから、その認識は相当に根強そうである。

 しかしながら、教室にいる全員がそういう縛られた意識を持っているわけでもなさそうだった。

 フェロと一緒に教室の最後列の空いていた席に座る。黒板から遠く離れた席だ。ここなら私がどんな立場でも文句は言われないだろう。周辺の生徒はまばらで、教室の後ろ側には数人しかいない。

 ここにいる生徒はつまり、落ちこぼれの家の出身ということか。

「僕もいつもここに座ってるんだ」

 そう言って腰掛けたフェロの言葉からして、彼の普段の立ち位置もおおよそ察しがついた。いや、正確には彼らの反応から予想はしていた物が確かめられた感じか。

 地方の下級貴族である私の家からすれば王都に住まう上級貴族のフェロはそれだけで相当に格が上だが、この王都の中ではあまり振るわないらしい。

 私の懇談も納得だ。
 王都の上級貴族が好きこのんで地方貴族と縁談を結ぶことは滅多にない。やはり下等と見ているからだ。そんなことをするのは落ちぶれて子孫繁栄すら危ぶむ家くらいだろう。

 まあ、私はフェロを立派な男の娘にして可愛がるつもりだから、子孫繁栄もきっと残念な結果になるのだろうけど。きっとフェロを男として見ることもない。完成系としては、心すらも女の子になった私の愛玩男の娘を作り上げることだ。

 当のフェロは自分の底辺の地位が当然とばかりにへこへこ腰を低くしていて、それを私はあまり気に入らなかった。

 貴族なんて地位をすべて捨てて、私の男の娘として暮らしてくれたらいいのに。

 ふと、私を見ている視線に気づいた。
 同じ最後列の少し離れたところから、まだ授業も始まっていないのに教科書を出し、それを口元にあてながら目元だけを出して私を見ている女の子がいた。

 澄んだ海のように綺麗な白い髪をした、ツーサイドアップの少女だ。小柄で顔立ちも幼く、小等部の生徒が混じっているのかと思うほど。垂れた目元が気弱さを感じさせる。

 実際その通り、私と目が合うと、その少女は大慌てで顔を伏せて教科書に隠していた。ぴょこん、と結った二つの髪しっぽだけが見えている。

 しばらくじっと見ていると、また目元だけをひょこりと覗かせ、私のとどまった視線に気づいて大慌てで隠していた。

 視線で遊べるモグラ叩きみたいでおもしろい。なにより可愛い。

 ――うちに持って帰れないかしら、あのペット。

「……ど、どうしよう。見てる。見てます」

 なにやらその少女は教科書に隠れ、机の下で鞄の中に向かって話しかけているようだ。

 やはり変わってるが、まあ可愛いから良しとしよう。

 なんてふざけて眺めていたら、その向こうにもっと気になる人影があった。

 机の上に足――いや、あれは腕?

 独り言少女のその奥に、何故か腕から男子生徒用のズボンを腕に通している女の子がいた。こっちの少女もまた意味が分からない。ちゃんと制服は着ているのに、腕からズボンだけ履いている。

 明るい褐色髪のポニーテールを揺らしながら、その少女はズボンを腕に通したまま何も不自然がないという風に授業の準備を進めていた。

 ――なにこの最後列。変人しかいないの?

 そう思いたくなるほど唖然としていると、ふと背後に男の子が立っていることに気づいた。

「おもしろいよねー。おもしろいでしょー? あの格好、俺が勧めたんだよねー。おもしろいなー」

 その男の子は、両腕ズボンのポニーテール少女を見ながらけらけらと笑っていた。

「俺はルック・ダッセン。よろしくねー」

 間延びするような軽い物言いで言ったその男の子――ルックは背の高い優男だった。細目で色白。短い黒髪のその外見はぱっと見ると整った顔立ちをしている。しかしへらへらした物言いと笑顔が残念な感じでイケメン感を損ねている気がした。

 そして何よりも気になるのは、頭の上に鳩が座っていることだ。

「ああ、この鳩? 俺のお父さんだよー」
「そんなわけないでしょ!」

 思わずつっこんでしまった。
 それにルックは満足そうにうなずく。

 それから彼は、独り言少女たちとは反対側の最後列に腰掛けた。なるほど、彼もそういうことか。相変わらず頭の鳩は謎のままだけど。

 どうにもこの学級の最後列には変人ばかりが並んでいるようだ。まるで私もそこに括られているようで、なんだか微妙な気まずさを覚えた。

 ――まあ、いいか。

 前の席に座って、あの偏見の固まりの中で呼吸をするよりかはまだ気が楽そうだ。

 それに横を見れば、内気に隠れながらもこちらを見てくる少女と、奇行が目立ちながらも顔立ちは可愛らしいズボン少女。

 ――うん、眼福。

 ああ、可愛い。もし授業に疲れたら横を見よう。そしたらすぐに癒されそうだ。

 しかも隣には、まるで男とは思えない美少女顔のフェロがいるのだ。これは勉強もはかどるというもの。

 ぐへへ、とつい涎が垂れそうになる。

「……おっと」
「ユフィ?」

 心の涎を拭っていると、フェロに怪訝な顔で見られてしまった。

 なるほど。
 最後列の変人はもしかすると私も入るのかもしれない。

 そう思った私だった。
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