おいでませ あやかし旅館! ~素人の俺が妖怪仲居少女の監督役?!~

矢立まほろ

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○4章 守りたい場所

 -9 『決戦前夜』

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 会長からの通話が途切れ、俺は妙な放心さと、それよりもずっと大きな安堵感を抱いていた。

 終わってみればあっという間だった。

 身体は火照っていたが、思ったよりもすんなりと会話できたことに驚いた。
 もっと強張ってしまうと思っていたのに。声が上擦らないか心配だったのに。

 拍子抜けして乾いた笑いが漏れてしまう。
 なんだこんな簡単なことだったんだ、と呆気なさに臆病心を嘲笑いたくなる。

「どったの、せんせー。終わったー?」

 離れたところで道草を弄って遊んでいたサチが、電話を終えたことに気づいて駆け寄ってくる。真ん丸い無垢な瞳で輝かせ、俺の顔を覗き込んできた。

「終わったよ。というか、むしろこれからだ」
「これから?」
「ああ。明日はいろんな意味で忙しくなるぞ、サチ」
「へ?」

「俺たちであの怖い連中を追っ払う。ドタバタドッキリ大作戦だ!」
「なにそれー。ださーい」

 げらげらと笑うサチを横目に、俺も安堵に頬を緩めた。

 明日で決まる。
 明日で決める。

 俺と、サチたちとで、女将さんとあの旅館を守るんだ。

「あ、そうだ」と俺はふと、近くにある雑貨屋に走った。

 日用品などを置いている田舎の小売店だ。
 中には眠りこくっているお婆さんがいる。

 レジの近くには駄菓子などが置かれているスペースがあった。
 俺はお婆さんに声をかけて商品を買うと、急いでサチの元に戻った。

「ほら、やるよ」

 サチの背後から、買ったばかりのそれを差し出す。
 そっと頬に当ててやると、サチは「ひゃあっ」とびくりと跳ねて驚いた。

「おー、アイスだー。棒のやつだー。いいのー?」
「ここまで付き合ってくれたお礼だ」
「やったー。せんせー大好きー」

 眩しいほどの満面の笑みでサチは俺に抱きつくと、大慌てで袋を開けてアイスにかじりついた。

「うんめー!」
「そりゃあよかった」

 勢いよく食いついていたサチの手が止まる。

「おかーさんたちにも食べさせてあげたいなー。残りは帰ってから食べるー」
「いやいや。袋開けたらすぐに溶けるぞ」
「ええー、そんなー」

 頭を垂れて本気で残念がるサチに俺はついつい笑顔を噴出してしまった。沈み込んだ彼女の頭をぽんと叩いてやる。

「よし。じゃあいくつか買って帰るか」
「いいの?」
「その代わり、溶けないように帰りはダッシュだ」
「まかせろー」

 結局、三人分のアイスも買い足して、汗水たらしながら俺とサチは全力疾走で旅館へと戻っていった。

 汗まみれで帰ってきた俺たちを見た女将さんに「またサボって遊んでたの?」と怒られそうになったが、事情を話してアイスを献上することでお咎め無しにしてくれた。

 サチからアイスを受け取る彼女の表情は本当に嬉しそうで、その瞬間だけは、溜まりに溜まった疲労が吹き飛んでいるかのようだった。

 ――やはり女将さんにはサチたちの頑張りが一番だ。

 話をつけてから半日も経たないうちに会長から連絡が来て、それからの動きは早かった。

 クウとナユキにも明日のことを伝え、準備を急がせた。
 夜も俺の部屋に集まっていろいろと作戦のための練習をした。

 相変わらず強面たちの騒音がうるさいおかげで、多少の音を出しても女将さんには何をしているかバレないだろう。今だけは感謝だ。

 女将さんには会長たちの団体客がくるということだけ伝えてある。
 随分と驚いていたが、仲居娘や俺が全力でサポートすることを伝えると、不安気ながらも受け入れてくれた。

 食材の手配などからいろいろと急で大変だろうが、どうにか人数分の手配をしてくれるらしい。もちろん接客は仲居娘たちにも手伝わせるつもりだ。

 女将さんが強面たちに引っ張りだこの間、接客練習もしっかりと行ってきたのだ。俺がここに来てからの成長を見せるいい機会でもある。

「がんばるぞ、みんな」
「おー」

 三人の重なる可愛らしい掛け声で一致団結しながら、そうして決戦前の夜は更けていった。
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