33 / 44
○4章 守りたい場所
-11『作戦開始』
しおりを挟む
「仲居さん、瓶ビールもう一つー!」
「はーい、ただいまー」
旅館の二階にある大広間に、威勢のいいサチの声が響く。
彼女が部屋を駆け回るたびに、お膳を向かい合って並べて飲んだり食ったりを繰り返している浴衣の男たちが注文を飛ばす。
夕食。部屋のついたオカルトサークルご一行は、しばらくの休憩の後、食事のために宴会場へと通されていた。
少し手狭だが、二十人は入れるくらいの部屋だ。
上座には演壇があり、古いカラオケ機などがおかれている。
団体客へのサービスとしてこの大広間で用意され、彼らは各々に食事やお酒を楽しんでいた。
会長を含めて合計十五人。
大所帯でこの部屋が埋まっている光景は圧巻だ。寂れた旅館とは思えない。
あまりに客数が多すぎて手が回りきらず、俺も自分から頼んで彼女たちの手伝いをすることにした。
主に料理を運んだりといった雑用をしているが、ひっきりなしに厨房と宴会場を行き来するのは相当にハードワークだ。
やっとの思いで人数分の料理を運んだかと思えば、息つく間もなく次の料理を運ばされる。
クウたち三人はそれを悲鳴一つ上げずに真剣な顔でこなしていて、彼女たちの凄さを今更ながら感じさせられた。
おちついた物腰で立ち振舞う仲居さんが、裏ではこれほどに大変だったとは。
「お嬢ちゃん、こっちも」
「こっちは水をちょうだい」
「はーい。ちょっと待ってくださーい」
お盆を抱え、作務衣の裾をはためかせながらとたとたを小走りでサチが走る。
「ねえねえ、あなた何歳?」
酒が入って顔が赤くなった女性がサチに声をかけた。
「え? たぶん、十歳くらい」
「たぶん、だって。あはは、可愛いわね」
「ん? おねーちゃんも可愛いよー」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。ほら、これ飲んで」
女性がビールの入ったお酒を差し出してきたのを、俺が割り込んで遮る。
「すみません。この子は見ての通り未成年なので」
俺の仲介に女性は不満そうな顔をしたが、すぐにけろりと表情をリセットしてまさビールを口に運び始めた。
「ありがとー、せんせー」
「いいから、そのまま続けて」
「うん」とサチがまた小走りに仕事に戻っていく。
あまり走るんじゃない、と叱りたいところだが、彼女の足音も気にならないくらいに大広間は賑わいを見せていた。
若い男女がお酒を飲みあい、顔を赤くして気分よく喚いている。
会長も、部屋の上座の座椅子に腰掛けて、刺身や天ぷらといった料理たちに舌鼓を打っていた。誰もが満足して、誰もが笑顔を浮かべている。
いい具合に場が温まりはじめている。
これなら作戦を実行してもいけるだろう。
機を見計らって俺は、部屋を走り回る仲居たち三人娘に目配せをする。それから足音を殺して部屋の奥に進むと、演壇の傍に座る会長の傍に歩み寄った。
「会長。実は、余興ってわけじゃないんですけど、仲居の子達が歓迎のための芸を披露したいらしくて」
「芸?」
「はい。まだ練習を始めたばかりで拙いんですけど、もしよければ付き合ってあげてもらえませんか」
緊張の面持ちで訊ねてみる。
彼女の返事を、息を呑んで待つ。
少し酒の入っていた会長は、朗らかに笑みを浮かべながら、
「ああ、いいよ」と頷いてくれた。
よし来た、と俺は大広間の入り口にいたクウに合図をする。
クウが急ぎ足で部屋を出ると、サチとナユキも大慌てで後を追っていった。
「よし、作戦の開始だ」
俺は上手くいくことを祈りながら、作戦開始を告げる音を待った。
「はーい、ただいまー」
旅館の二階にある大広間に、威勢のいいサチの声が響く。
彼女が部屋を駆け回るたびに、お膳を向かい合って並べて飲んだり食ったりを繰り返している浴衣の男たちが注文を飛ばす。
夕食。部屋のついたオカルトサークルご一行は、しばらくの休憩の後、食事のために宴会場へと通されていた。
少し手狭だが、二十人は入れるくらいの部屋だ。
上座には演壇があり、古いカラオケ機などがおかれている。
団体客へのサービスとしてこの大広間で用意され、彼らは各々に食事やお酒を楽しんでいた。
会長を含めて合計十五人。
大所帯でこの部屋が埋まっている光景は圧巻だ。寂れた旅館とは思えない。
あまりに客数が多すぎて手が回りきらず、俺も自分から頼んで彼女たちの手伝いをすることにした。
主に料理を運んだりといった雑用をしているが、ひっきりなしに厨房と宴会場を行き来するのは相当にハードワークだ。
やっとの思いで人数分の料理を運んだかと思えば、息つく間もなく次の料理を運ばされる。
クウたち三人はそれを悲鳴一つ上げずに真剣な顔でこなしていて、彼女たちの凄さを今更ながら感じさせられた。
おちついた物腰で立ち振舞う仲居さんが、裏ではこれほどに大変だったとは。
「お嬢ちゃん、こっちも」
「こっちは水をちょうだい」
「はーい。ちょっと待ってくださーい」
お盆を抱え、作務衣の裾をはためかせながらとたとたを小走りでサチが走る。
「ねえねえ、あなた何歳?」
酒が入って顔が赤くなった女性がサチに声をかけた。
「え? たぶん、十歳くらい」
「たぶん、だって。あはは、可愛いわね」
「ん? おねーちゃんも可愛いよー」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。ほら、これ飲んで」
女性がビールの入ったお酒を差し出してきたのを、俺が割り込んで遮る。
「すみません。この子は見ての通り未成年なので」
俺の仲介に女性は不満そうな顔をしたが、すぐにけろりと表情をリセットしてまさビールを口に運び始めた。
「ありがとー、せんせー」
「いいから、そのまま続けて」
「うん」とサチがまた小走りに仕事に戻っていく。
あまり走るんじゃない、と叱りたいところだが、彼女の足音も気にならないくらいに大広間は賑わいを見せていた。
若い男女がお酒を飲みあい、顔を赤くして気分よく喚いている。
会長も、部屋の上座の座椅子に腰掛けて、刺身や天ぷらといった料理たちに舌鼓を打っていた。誰もが満足して、誰もが笑顔を浮かべている。
いい具合に場が温まりはじめている。
これなら作戦を実行してもいけるだろう。
機を見計らって俺は、部屋を走り回る仲居たち三人娘に目配せをする。それから足音を殺して部屋の奥に進むと、演壇の傍に座る会長の傍に歩み寄った。
「会長。実は、余興ってわけじゃないんですけど、仲居の子達が歓迎のための芸を披露したいらしくて」
「芸?」
「はい。まだ練習を始めたばかりで拙いんですけど、もしよければ付き合ってあげてもらえませんか」
緊張の面持ちで訊ねてみる。
彼女の返事を、息を呑んで待つ。
少し酒の入っていた会長は、朗らかに笑みを浮かべながら、
「ああ、いいよ」と頷いてくれた。
よし来た、と俺は大広間の入り口にいたクウに合図をする。
クウが急ぎ足で部屋を出ると、サチとナユキも大慌てで後を追っていった。
「よし、作戦の開始だ」
俺は上手くいくことを祈りながら、作戦開始を告げる音を待った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる