おいでませ あやかし旅館! ~素人の俺が妖怪仲居少女の監督役?!~

矢立まほろ

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○4章 守りたい場所

 -11『作戦開始』

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「仲居さん、瓶ビールもう一つー!」
「はーい、ただいまー」

 旅館の二階にある大広間に、威勢のいいサチの声が響く。
 彼女が部屋を駆け回るたびに、お膳を向かい合って並べて飲んだり食ったりを繰り返している浴衣の男たちが注文を飛ばす。

 夕食。部屋のついたオカルトサークルご一行は、しばらくの休憩の後、食事のために宴会場へと通されていた。

 少し手狭だが、二十人は入れるくらいの部屋だ。
 上座には演壇があり、古いカラオケ機などがおかれている。

 団体客へのサービスとしてこの大広間で用意され、彼らは各々に食事やお酒を楽しんでいた。

 会長を含めて合計十五人。
 大所帯でこの部屋が埋まっている光景は圧巻だ。寂れた旅館とは思えない。

 あまりに客数が多すぎて手が回りきらず、俺も自分から頼んで彼女たちの手伝いをすることにした。

 主に料理を運んだりといった雑用をしているが、ひっきりなしに厨房と宴会場を行き来するのは相当にハードワークだ。

 やっとの思いで人数分の料理を運んだかと思えば、息つく間もなく次の料理を運ばされる。

 クウたち三人はそれを悲鳴一つ上げずに真剣な顔でこなしていて、彼女たちの凄さを今更ながら感じさせられた。

 おちついた物腰で立ち振舞う仲居さんが、裏ではこれほどに大変だったとは。

「お嬢ちゃん、こっちも」
「こっちは水をちょうだい」
「はーい。ちょっと待ってくださーい」

 お盆を抱え、作務衣の裾をはためかせながらとたとたを小走りでサチが走る。

「ねえねえ、あなた何歳?」

 酒が入って顔が赤くなった女性がサチに声をかけた。

「え? たぶん、十歳くらい」
「たぶん、だって。あはは、可愛いわね」
「ん? おねーちゃんも可愛いよー」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。ほら、これ飲んで」

 女性がビールの入ったお酒を差し出してきたのを、俺が割り込んで遮る。

「すみません。この子は見ての通り未成年なので」

 俺の仲介に女性は不満そうな顔をしたが、すぐにけろりと表情をリセットしてまさビールを口に運び始めた。

「ありがとー、せんせー」
「いいから、そのまま続けて」

「うん」とサチがまた小走りに仕事に戻っていく。

 あまり走るんじゃない、と叱りたいところだが、彼女の足音も気にならないくらいに大広間は賑わいを見せていた。

 若い男女がお酒を飲みあい、顔を赤くして気分よく喚いている。

 会長も、部屋の上座の座椅子に腰掛けて、刺身や天ぷらといった料理たちに舌鼓を打っていた。誰もが満足して、誰もが笑顔を浮かべている。

 いい具合に場が温まりはじめている。
 これなら作戦を実行してもいけるだろう。

 機を見計らって俺は、部屋を走り回る仲居たち三人娘に目配せをする。それから足音を殺して部屋の奥に進むと、演壇の傍に座る会長の傍に歩み寄った。

「会長。実は、余興ってわけじゃないんですけど、仲居の子達が歓迎のための芸を披露したいらしくて」
「芸?」
「はい。まだ練習を始めたばかりで拙いんですけど、もしよければ付き合ってあげてもらえませんか」

 緊張の面持ちで訊ねてみる。

 彼女の返事を、息を呑んで待つ。
 少し酒の入っていた会長は、朗らかに笑みを浮かべながら、

「ああ、いいよ」と頷いてくれた。

 よし来た、と俺は大広間の入り口にいたクウに合図をする。
 クウが急ぎ足で部屋を出ると、サチとナユキも大慌てで後を追っていった。

「よし、作戦の開始だ」

 俺は上手くいくことを祈りながら、作戦開始を告げる音を待った。
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