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エピローグ 私の最高の旅館
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○ エピローグ
「お客様が来られますよ」
急かす声が聞こえ、私は着ている着物もよれよれのまま大慌てで事務所から飛び出した。
「ちょ、ちょっと待ってちょうだい。まだあまり慣れていないの」
これまでずっと洋服ばかりだったから、丈の長さと窮屈さに脚が絡まりそうだ。これではろくに走れない。
――でも、これも慣れなきゃならないのかしら。
そう思うと嘆息が出るが。いつまでもふりふりのスカートと言う訳にもいかないだろう。
「こら。そんなだらしない格好でお客様の前にでるつもりかい」
ふと着物の帯をミトに引っ張られ、緩んだ部分を無理やり強く絞め直される。
「少しでも不躾な態度を取ってみな。あたしがみっちり指導してやるよ」
「ちょっとミトさん。洒落になっていないわよ」
「ああ、本気さ」
「これはおっかない」
つんとした態度で送り出したミトさんに私はほくそ笑みつつ、私は気を取り直して玄関前へと駆け出る。
そこにはすでに獣人の仲居達がずらりと並んでいて、目の前に到着した馬車からお客様が降車されるのを待っている状況だった。その先頭にいたフェスが私に気付き、こっそりと手招きをする。
「よ、よかったです。来ないかと思いました」
「ごめん。着物なんてあまり慣れてなくて」
「お嬢様でしたもんね」
「こら。変な私語を続ける子はお説教するわよ」
「わひゃっ?!」
他愛ない小言を言い合いながら、私は息を整えて列に加わる。
「もう。せっかくの初日なんだからしっかりしないと」と、隣で混じっていたロロが茶化すように笑ってきた。
「仕方ないでしょ。これ、女将さんのお古らしいんだけどちょっと胸元があわなくて」
「ああ、そっか」
私の着物のスカスカな胸元を見て、何かを納得した風にロロは苦笑する。
「何よ今の」
「いや、なんでも。良く似合ってると思って」
「絶対嘘でしょ」
「本当だよ」
ふふ、とロロが楽しそうに微笑する。
「本当に良く似合ってる。シェリーがそれを着てくれてよかったって思ってるよ」
ふと恥ずかしげもなくロロがそう言うものだから、顔が熱くなり、私は反射的に俯いてしまった。
「そ、そう……。ほ、ほら。お客様が降りてくるわよ」
「うん、そうだね。今日は記念すべき一人目だ」
「ば、馬鹿。緊張するからそういうのは言わなくていいの」
こほん、と気をついて心を整える。
やがて馬車の扉が開き、中からお客様が降りてこられた。
そのお客様へと私は一歩前に歩み寄り、深く頭を下げる。
「ようこそいらっしゃいました。『湯屋 せみしぐれ』へ。私は当旅館の若女将を務めております、シェリー=ローエンと申します」
私の一礼に、他の従業員達も揃って丁寧なお辞儀を続けさせる。
「当旅館では、お客様が日ごろの疲れを癒していただくための様々なサービスをご用意させていただいております。裏山から湧き出る天然温泉を使った様々なお風呂。腕の立つ板前の疲労する絶品の夕食。お部屋では、自然溢れる展望と小川の望める中庭の景色に、日ごろを忘れて没入していただけるでしょう」
女将さんから受け継いで、私達へ。
今もなお昔から守り続けてきたこの旅館の大切なもの。
――お客様に、最高の持て成しを。
「どうぞ、ごゆっくりとおくつろぎくださいませ」
ここは温泉旅館『湯屋 せみしぐれ』
やって来たお客様の心を癒し、疲れを取る、くつろぎの宿。
願わくば、私のように、ここに訪れた全ての人が心からの幸せと出会えますように。そんな願いを込めて、私達従業員一同は皆様のお越しをお待ちしております。
終
―――
みなさんこんにちは、矢立まほろです。
ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
もしよろしければお気軽に感想などを残してやってください!
次回作も近日中に連載予定ですので、ぜひともまたお立ち寄りくださいませ。
「お客様が来られますよ」
急かす声が聞こえ、私は着ている着物もよれよれのまま大慌てで事務所から飛び出した。
「ちょ、ちょっと待ってちょうだい。まだあまり慣れていないの」
これまでずっと洋服ばかりだったから、丈の長さと窮屈さに脚が絡まりそうだ。これではろくに走れない。
――でも、これも慣れなきゃならないのかしら。
そう思うと嘆息が出るが。いつまでもふりふりのスカートと言う訳にもいかないだろう。
「こら。そんなだらしない格好でお客様の前にでるつもりかい」
ふと着物の帯をミトに引っ張られ、緩んだ部分を無理やり強く絞め直される。
「少しでも不躾な態度を取ってみな。あたしがみっちり指導してやるよ」
「ちょっとミトさん。洒落になっていないわよ」
「ああ、本気さ」
「これはおっかない」
つんとした態度で送り出したミトさんに私はほくそ笑みつつ、私は気を取り直して玄関前へと駆け出る。
そこにはすでに獣人の仲居達がずらりと並んでいて、目の前に到着した馬車からお客様が降車されるのを待っている状況だった。その先頭にいたフェスが私に気付き、こっそりと手招きをする。
「よ、よかったです。来ないかと思いました」
「ごめん。着物なんてあまり慣れてなくて」
「お嬢様でしたもんね」
「こら。変な私語を続ける子はお説教するわよ」
「わひゃっ?!」
他愛ない小言を言い合いながら、私は息を整えて列に加わる。
「もう。せっかくの初日なんだからしっかりしないと」と、隣で混じっていたロロが茶化すように笑ってきた。
「仕方ないでしょ。これ、女将さんのお古らしいんだけどちょっと胸元があわなくて」
「ああ、そっか」
私の着物のスカスカな胸元を見て、何かを納得した風にロロは苦笑する。
「何よ今の」
「いや、なんでも。良く似合ってると思って」
「絶対嘘でしょ」
「本当だよ」
ふふ、とロロが楽しそうに微笑する。
「本当に良く似合ってる。シェリーがそれを着てくれてよかったって思ってるよ」
ふと恥ずかしげもなくロロがそう言うものだから、顔が熱くなり、私は反射的に俯いてしまった。
「そ、そう……。ほ、ほら。お客様が降りてくるわよ」
「うん、そうだね。今日は記念すべき一人目だ」
「ば、馬鹿。緊張するからそういうのは言わなくていいの」
こほん、と気をついて心を整える。
やがて馬車の扉が開き、中からお客様が降りてこられた。
そのお客様へと私は一歩前に歩み寄り、深く頭を下げる。
「ようこそいらっしゃいました。『湯屋 せみしぐれ』へ。私は当旅館の若女将を務めております、シェリー=ローエンと申します」
私の一礼に、他の従業員達も揃って丁寧なお辞儀を続けさせる。
「当旅館では、お客様が日ごろの疲れを癒していただくための様々なサービスをご用意させていただいております。裏山から湧き出る天然温泉を使った様々なお風呂。腕の立つ板前の疲労する絶品の夕食。お部屋では、自然溢れる展望と小川の望める中庭の景色に、日ごろを忘れて没入していただけるでしょう」
女将さんから受け継いで、私達へ。
今もなお昔から守り続けてきたこの旅館の大切なもの。
――お客様に、最高の持て成しを。
「どうぞ、ごゆっくりとおくつろぎくださいませ」
ここは温泉旅館『湯屋 せみしぐれ』
やって来たお客様の心を癒し、疲れを取る、くつろぎの宿。
願わくば、私のように、ここに訪れた全ての人が心からの幸せと出会えますように。そんな願いを込めて、私達従業員一同は皆様のお越しをお待ちしております。
終
―――
みなさんこんにちは、矢立まほろです。
ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
もしよろしければお気軽に感想などを残してやってください!
次回作も近日中に連載予定ですので、ぜひともまたお立ち寄りくださいませ。
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